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『沈黙のフライバイ』 野尻抱介(著)

スペースサイエンスに主軸を置くハードSF短編集。
どれも甲乙つけがたい傑作。邪悪な人間が出てこない本って好きだ。
以下ネタバレ感想。

沈黙のフライバイ

地球外知生体の探査機と初遭遇するお話。
電波望遠鏡が宇宙から意味ある信号をキャッチ! 解析するとGPSの宇宙版IPSであり、それの意味するところは、もうすぐ探査機が太陽系に来るという事! さあ人類はどうするのか、宇宙人とのコンタクトは成立するのか、とドキドキするものの、タイトルでネタバレしてる通り探査機は写真とるだけで素通り。しかし探査機が母星に送ったデータを解析すると未知の文明の痕跡がそこかしこに、という展開はロマンあふれ過ぎて笑ってしまった。探査機が観察に徹したという事は、この過去文明が昔なにかやらかしたんだろうな、などと想像が膨らみ楽しい。

轍の先にあるもの

エッセイ風考察SF。小惑星エロスにあるミミズのように波打つ溝はなにか?
作者が主人公で、実際のNASA等のミッションに関する話と写真から始まるので、ドキュメンタリー的話かと思いきや、途中から軌道エレベーターの建設が始まり、そんなの始まったっけ? と混乱した。途中からフィクションとなる構成。軌道エレベーターが実現され宇宙旅行のコストが激減した世の中が羨ましくてしょうがない。

片道切符

有人火星往復ミッション VS テロリズム。
火星移住を最終目標とし、酸素や燃料を生成する原子炉をまず火星に発射、成功後に、帰還船と、有人宇宙船を送り出すプロジェクトのお話。
しかし帰還船と宇宙船が発射され、火星に向かう直前、帰還船が爆破されてしまう。つまり即ミッション終了、帰還となる…かと思いきや、この仕事に15年費やしてる宇宙飛行士たちは、火星行きが諦められない。
またもやタイトルでネタバレだが、宇宙飛行士たちは火星に行くことを決断する。これらが実に軽やかに語られており、めちゃくちゃに楽しい。宇宙飛行士たちが夫婦二組というのも、より話を面白くしてる。ラストの殴り合いに爆笑。

ゆりかごから墓場まで

ヴァーリイの八世界に出てくる共生体のプロトタイプのような、植物プランクトンを使用した閉鎖系スーツのお話。日光さえあれば、酸素も水も食料も補給不要! という夢のスーツ。
第1部 タイ、第2部 日本、第3部 火星という構成。日本編は、全財産つぎこんでスーツを買い、アメリカ縦断旅行に出かけた男の話だが、スタートしてまもなく強盗に身ぐるみ剥がされて、爆笑すると同時に悲しくてしかたなくなった。
火星編では、インドが人権無視して、このスーツ着た集団を火星に飛ばす超ローコスト移住を実施するお話で、これまた人の命が軽すぎて笑ってしまった。そこでの事故が本編だが、これも明るく楽しく読める。

大風呂敷と蜘蛛の糸

ロケットコンテストが発端の学生宇宙プロジェクト。気球と凧で中間圏を目指す!
10kmしか飛べないロケットで、いかに宇宙(100km)に到達するか、主人公がどんどんアイデアを出してゆく様が面白い。ポンポンとアイデアが湧きだすが、アイデアだけでなく実現可否を判断できる教養もすばらしい。無学だとそこで詰んでしまうので、主人公の利発さが羨ましい。
実現したプロジェクトの様子が本編だが、絵面を想像するとかなり怖い。高度40kmに浮かんだ気球までゴンドラで上がり、そこから巨大な凧に引っ張られ高度80kmまで上がる。高所恐怖症じゃなくても足がすくむ。ラストには落雷までくらって凧は破けるし無線機も壊れる。ドキドキハラハラの傑作なので、ぜひ映像化して欲しい。でも、落下途中で本編終了しちゃうのはどうなのかなぁ…。冗長でも無事パラシュートで帰還してほしかったな。


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