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解に落つ #03

#03 :佐藤 瑠波

「佐藤さんって男の子っぽいよね」
これまでの人生で何百回と言われるこの一言。
友達に、出会った人に。
僕はいつも曖昧な返答をしてしまう。
男の子でいたいと思ったことは無い。
僕はただかっこいい自分でいたいだけなんだ。
女とか男とかどっちでもよくない?

僕の家族は…お母さんはちょっとまだ僕のことが分からないみたい。小さい時からたくさん迷惑をかけてきた。小さいときお母さんは僕がかっこいい車のおもちゃで遊んでいたり青のランドセルを買いたいとせがむと「どうしてあなたはこんなものが好きなの?女の子なのに」と言われた。逆にお父さんは僕のそういったことにそれほど関心がなく「別に好きにしたらいいんじゃないか」といつもお母さんに言っていた。それが原因で喧嘩になってしまうことも時々あってそのとき僕はいつも泣いて二人に謝っていた。それでそんな僕の姿を見て二人は正気に戻り仲直りするというのがいつもの流れになっていた。

中学校ではスカートを穿くのがどうしても嫌だった。
だから男子と同じ制服を着ていた。
「目立ちたいだけでしょ」
「佐藤さんってなんで男子の制服着てるの?」
僕が友達と話している時、誰かのささやき声が聞こえた。きっと僕だけが女子と違う制服を着ていたからそう言われたんだろう。じゃあ彼らは目立ちたかったらスカートを穿くんだろうか?僕はこの時から人の視線を気にするようになってしまった。

高校からは制服のない私服が基本の高校にしたからもう服装でとやかく言われることは無くなった。それでも周りには制服に憧れる子もいたから制服は彼女らにとって特別な意味をもっているんだろうと思った。

大学ではもっと自由だった。高校では時々性別を尋ねられることがあったけど、そんな機会はほとんど無くなり、あっても健康診断やアンケート調査くらいになった。
そうしている間に長い夏休みが終わり、また面白くない講義が始まった。
でも悪いことばかりでもなく、いいこともあった。
同じ講義を取っていた人と友達になれたのだ。
その講義は他の講義と違い珍しくグループワークが結構あり、偶然そのグループで一緒になったとある女の子と仲良くなった。
その子の名前は「かな」
何と言うかちょっと不思議な子で「私ってどんなふうに見える?」って大体2週間に1回は聞いてくる。別にそれを聞かれることは全然嫌じゃないんだけど毎回どう答えたらいいか少し迷ってそれでも印象通り「優しそう」と答えると「わかった。そうする」と言われる。
細かいことはよくわからないけどかなは「みんなが見たいと思う私」でいたいらしい。なんだそりゃ。
けど、そんなことを何回か聞いてくるものだから何となく僕もどう思われてるのか気になって、かなの家に遊びに行ったとき(僕たちは何回かお互いの家に行き来していた)に
「僕って女の子か男の子どっちだと思う?」と普段ならというか、一度もしたことない質問をかなにすると
『何言ってるの』とでも言いたげな顔で
「女の子でしょ」と言われた。

大学では男の人にため口で話されることが多く女の人に敬語で話されることが多かった。それもあってか何となく人と仲良くなりづらくて友達もまだできていなかった。でもかなは違った。僕の年齢を尋ね、同世代だとわかると彼女は敬語を使わなくなった。それに何となく喋るときの距離が他の子より近い気がした。だから僕はさっきの質問をした。もしかしたらかなはと思ったけど案の定だった。
「いつから気付いていたの?」と聞くと…
「ん?最初からそう思っていたんだけど…(ちがった…?)」と言われた。

そういえばかなは人間観察が好きなんだと言っていた。
「からだっていうのは個性でさ。一人一人顔が違うわけじゃん?当たり前かもしれないけど。それでこの人にはどんな癖があるのかなぁとかどんな歩き方をするのかなぁとかどんな話し方するのかなぁとかどんな話をするのかなぁとかたくさん色んなことを考えられるんだよ。そいうことを妄想するのが私は好きなんだ」

となるとかなは僕の世間一般で言うところの男の子っぽい服装や髪型を見ても男だとは思わなかったことになる。かなの人間観察力、恐るべし。

どういう話のいきさつだったかは忘れたけどある時、
「僕はかっこよく見られたいんだ」
とかなに告げると
「そっか。じゃあそういう風に見る」と言われた。
それ以来かなは僕と会うと「その服かっこいい」とか「髪切った?いいね」
と言ってくれるようになった。毎回言う訳じゃないから多分気を遣われてはいない。というかかなに気を遣うという考えは存在しない気がする。
時々彼女が何を考えているのかわからなくなることはあるけど、それでも僕のことを一人の人間として見てくれる稀有な存在には変わりない。
今度は僕の部屋にかなが遊びに来た時、
「そういえばさ、最近男の子みたいな女の子が好きっていう人?先輩?に会ったんだけどさ。興味ある?」
「…誰?それ?」
「1コ上の人なんだけどさぁ。…ん、ほらこの人」
そう言うとかなはケータイに表示されたインスタの画面をこちらに向ける。
え。
「カッコよ…」
髪のサラサラしてそうな人の横顔が海を背景に映っていた。
「興味ある…あ…会ってみたい」
そういうとかなはニヤニヤし始めた。
「お、いいねぇ。えんっていう名前の人なんだけどさ。もしかしたら瑠波との出会いで世界に希望を抱いちゃうかもね~。人って思ってるよりもずっと単純だから」
「何その人…病んでるの?」
「あぁ、いや、そういう訳じゃないんだけど…まぁ会ったらわかるよ。面白い人だから」
「…さっきからなんでニヤニヤしてるの?」
「いやぁ~縁さんのあたふたする顔が目に浮かんできてさぁ…」
「かなってちょっとSっ気なところあるよね…」
「え?そう?」

多くの人は僕と距離を取る。
多くの人は僕のことを気遣う。
多くの人は僕に「わかるよ」とか「つらかったよね」とか言う。
僕はこれまでも、この先もどうするのが正解なのか、どう生きていくのが最善なのかはわからない。

それでも
それでも僕は。
僕はただかっこいい自分でいたいんだ。


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