第十五章 何かの間違い!⑦
――「オレさ、お前の事、マジで一発ぶん殴っていいかな?」
「は?何をいきなり……」
珀の返事を待たずに、オレは思いっきり珀をぶん殴った。
ものすごい音がした。
驚いて、あたしは寝室を勢いよく開けた。
「ちょっと!何やってんの?!」
よっしいが、珀ちゃんの事殴ったの?!
信じられない!
「よっしい!何してんのよ!」
「いいから!いいから、千尋!殴られて当然だから、いいんだ!」
「は?何が当然なのよ……」
「千尋、これは男の喧嘩だから、お前は口挟むな」
……よっしいにそんな言い方されるのって、初めて……。
思わず、寝室の襖をひっそりと閉めた。
けれども、どうやったって、そんな大声で喧嘩されたら聞こえちゃうじゃないの。
殴られて当然って、珀ちゃんったら、今度は一体全体何をやらかしたのよ。
あれだけ、よっしいが怒るような……。
「一発でいいのかよ……気、済んだか?」
「いや……じゃあ、悪いけどもう一発」
また、ものすごい音がして、身体がびくんとなる……。
――「お前も、千尋に恋してるとかまさか言わないよな」
「恋よりももっと大きな愛情だよ。騙し通せるとか、本気で思ってんのか?お前は、千尋と将来結婚するんだろ?いや……こんな話が聞こえたら、シャレになんねえ。今は、何も言わない。けど……もしも、将来そうなるなら……オレは、お前を一生許さない。二度と、オレを友達だと思うなよ」
寝室を出ていこうとする猛に、オレは言った。
「おい、自分だけ言いたい事言って逃げるなよ。いてー……本気で殴るか、普通。あのな、オレが今、のほほんとしているように見えるか?何も考えてないように見えるのかよ。お前も大事な妹が騙されたみてーな辛さ、味わってるかもしれねーけど……オレだって辛い。辛いんだ……」
涙が出てきた。
まさか、オレが泣くとは……。
ただ、ぽろぽろと涙が溢れ出てくるのだった。
「はあ……お前が泣くくらい、オレがお前を殴ったってなったら、今度はオレが千尋に殴られるわ。分かったよ……この事は、死ぬまでオレとお前の秘密だ。千尋は……お前にやる」
「バーカ……元々、お前のもんじゃねーだろ……」
オレ達は、二人で笑い合った。
……ん?!
静かになったと思ったら……わ、笑い声?!
何がどうなってんのよ、もう!
あたしは、おずおずと寝室の襖を再び開けた。
「あの……」
う……。
本当に、二人して笑ってるし。
謎過ぎる……。
「何だよ、千尋」
「どした?」
「どしたって……お茶……淹れたんで……三人で、飲みません?」
三人揃って、リビングでお茶をすする。
聞きたい事は、山ほどあるけれども……。
一瞬で仲直りしたみたいだもの。
聞かない方が、いいんだよね。
うんうん……。
「千尋の淹れたお茶って、まずっ!」
「は?!」
「うん、苦い笑……お茶くらい、まともに淹れられないわけ?」
「本当に、あんた達ってむかつく!」
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