no_more_milk

小説を書いています。 良ければ読んでみて下さい。

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最近の記事

エッセイ 【父となる無精子少年】

初めての射精は32歳の10月だった。 僕の精子は手術台の上で睾丸の一部として切り取られ、外気に触れる(厳密には触れてない)こととなった。 TESE(精巣内精子回収術)という男性不妊で行われる手術を受けたのだ。 僕の初めてのオナニーは13歳、初セックスは18歳、初風俗は21歳、最愛の妻との結婚は27歳、そして不妊治療を始めたのが32歳。 2024年現在、僕は33歳。妻は無事に妊婦となった。 このエッセイは不妊治療に関する情報提供を目的にしたものではない。 自分の射精に不安を感

    • ショートショート 「夏の過ごし方」

      彼女に振られた途端、暇を持て余す日常が始まった。 特別愛していたわけでもないが、必要な時に収める鞘があるのは心地良かった。 親の仕送りだけで十分に生活できてしまう俺は大学2回生の夏休みをベッドの上で無気力に過ごしていた。 ただボーッと自分の部屋の壁を眺めていると妙に引き込まれてしまい、気付くと僕はベッドから起き上がり、壁紙の模様をじっと凝視していた。 とても細かい不規則な凹凸が何と無く文字に見えたり数字に見えたりしたのだ。 何となく「C」に見えたり「7」に見えたり「ヒ」に見

      • ショートショート 「走馬灯」

        【見知らぬ美しい女が赤子の俺を抱きかかえている。隣で背中を向けている男は多分父ちゃんだ。かなり若く見える。その女は愛おしげに俺の頭を撫でながら『ちゃんと大人しく出来るかな〜?』と優しく語りかけた。『まだ小さいから無理だろ』と冷たく言い放って父ちゃんは煙草に火を付けた。】 【『よろしくね』と俺にさっぱりと挨拶をするまた別の女。水商売をしているのだろう、ケバケバしくてタバコ臭い。『母親になるんだからもっと優しく言えよ』とニタニタ笑う父ちゃん。言われてみれば、なんとなく母さんに似

        • ショートショート 「事故物件」

          唯一の楽しみはほんの数秒間。 あの男が飲んだ高級そうなウイスキーの空き瓶とAmazonから届いた未開封の荷物が乱雑に放り込まれたこのベランダに立って。 私は至福の時を待っている。 平日の5日間、毎朝決まった時間に彼は細身の紺色のスーツを着て出勤する。 そしていつものタイミングで一度だけ振り返り、私“らへん”を見て笑顔で手を振るのだ。 世界で一番美しいこの小さな現象が見たくて今日も私は外を眺めている。 私の同居人はとにかく醜い。 髪も髭も鼻毛も伸ばしっぱなし。 ずっとパソコン

        エッセイ 【父となる無精子少年】

          短編小説 「アナーキー・イン・ザ・ CC(コールセンター)」

          手段を考える必要がある。 目的を明確にして、それを妨害してくる奴らを特定する。 俺は中指を立てて主張する。 「お前の指図を受けるつもりはない。俺の人生は俺が決める」 毒された全ての大人達へ。 「奴らにコントロールされ尽くした気分はどうだい?AIも真っ青だろうな」 俺たちをロボットにしようとする、国家、大企業、ブルジョアジー。 金も名誉もくれてやる。 どうせ俺には無縁だからな。 でも、残念でした、俺は自由だ。 Do It Yourself。 俺は俺のやり方でお前達に宣戦布告する

          短編小説 「アナーキー・イン・ザ・ CC(コールセンター)」

          短編小説 「繋がる肉」

          「トモくん今日だよ?覚えてる?」 「勿論。この海老チリ美味しい。ニンニクが効いてて」 「良かった。あんまり作ったことないから心配してたの。今日はこの前よりも強くして欲しいの」 「分かったよ。白御飯のお代わりある?」 リョウコの手料理は美味しい。 二人とも土日が休みだから、金曜日の晩は彼女が僕の家に来て料理を振る舞ってくれる。 料理教室に通っているから腕は確かだ。 レタスに添えられたマヨネーズも市販の物に何かが加えられているらしく、甘みとコクが増している。 僕は仕事のストレスを

          短編小説 「繋がる肉」

          短編小説 「お薬飲めたね」

          今日もたくさん悪いことをした。 みんなが嫌がる大変なことをした。 だから今日はいっぱい飲み込まなきゃいけない。 良い子、って褒めてもらわなきゃいけない。 誰も迎えてくれない。 毎日ちゃんと18時50分に帰ってくるのに。 家に着いたら自分の身包みを剥がして真っ裸になる。 まだ24歳の女の子なのに何故かおっぱいが垂れてきたように思う。 これが平均的なものなのか? 誰でも良いから教えて欲しい。 洗面台にある昨日飲み残した市販薬を取り出す。 さて、今日犯した罪を振り返ろう。 「同

          短編小説 「お薬飲めたね」

          短編小説 「男の娘」

          目呆け眼で股間を触る。 足で布団を払い除けて、スマホのブックマークを開けば選りすぐりの無料アダルトサイトが並んでいる。 あまり時間をかけてられない為、一番信頼の厚いサイトにアクセスしてトップページの新着10件の中からサムネが可愛い10分以内の動画をクリック。 いわゆる地雷系女子がうねる玩具に悶える姿に合わせて僕のあそこはうずき始めた。 Tシャツを脱ぎ捨てて“脈打つ軟骨”を右手で擦りながら左手に収まる小さな彼女に思いを馳せる。 ツインテールを前に垂らしながら喘ぐ彼女に僕の興奮は

          短編小説 「男の娘」

          短編小説 「名付ける」

          朝食は無難に済ませたい。 1日の始まりに挑戦をしてしまうと労力を使う上に失敗すると後に引き摺る。 今日は昨日スーパーで買っておいたマーガリン入りのレーズンパンと簡単なサラダにオレンジジュース。 レーズンパンはそのままでも美味しいが、温めると尚良し。 しかし、トースターで焼くとすぐに焦げてしまうので電子レンジで15秒程温めるのが良い。 表面がシナっとしてしまうが、焦げるよりはマシだ。 朝食は無難に済ませたい。 今朝のエマは一段と乱れていた。 「だから、シワが伸びてないの!この

          短編小説 「名付ける」

          短編小説 「たよりない息子」

          18時40分。 駅前の時計台。 この時計台は3メートルに満たない物で柱は黒く、文字盤は赤く光っている。 昼間にはそこに座り込むホームレスが常駐しているがこの時間になれば大体何処かに消えている。 ぼおっと光る赤が不気味でならない。 今日はマッチングアプリで知り合った女性と初めて会うのだ。 待ち合わせ場所を考えた時に、一番に思い付くのはいつも自分が嫌いな所。 良いものよりも悪いものの印象の方が僕には強く残る。 待ち合わせの時間は19時ちょうど。 早く着いたのは緊張のためでもなくレ

          短編小説 「たよりない息子」