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デザイン組織の運営についてのいくつかの論点

こんにちは、デザインスタジオトークアンドデザインの今西(@no_imanishi)です。

noteでしばしば、スタートアップのデザイン部門の組織化でこんな苦労しました…的なのを見かけます。すごいね大変だね…と思っていたのですが、よく考えたら自分もスタートアップでもデザインという名前の部門でもないにせよ、そこそこの人数の部署で、バラバラになりそうな組織をどうまとめていくかという課題にそれなりの苦労はしてきたはずなのでした。
組織の立ち上げや運営に、そんなに簡単に正解を示す気持ちにはなれませんが、いくつか考えるべき忘れられがちな論点がある様な気はしていて、似た様な課題をお持ちの方に届くといいなと思うので、少しまとめてみたいと思います。

1.働く人の願望はいかに満たされるべきか

この手の組織の話になると、組織の果たすべき役割をいかに共有して実行するか…みたいな会社視点の話になる印象があるのですが、私はその前に働く人の気持ちの問題を扱わないといけない気がしています。

私の経験的な印象ですが、働く人の2つの願望について、考える必要があります。

  1. 自分のやっている職務は大きな意義があるものだと思いたい。

  2. 誰もが高い目標や変革を達成したいと思っている訳ではない。

一つ目の願望は、まぁ分かりやすい話です。まぁ誰だってそうですよね。ただ、その気持ちが満たされているかどうかは別の問題です。ちやほやされる職務もあれば、日陰になる職務もあります。また環境や事業の変化につれ(例えばAIベースのデザインツールが入ってくるとか!)、重要度が下がる職務もあります。マネジメントはそのことを客観的に見ていますが、当人にとってはそれは受け入れ難いこともあるでしょう。それはビジネスの問題ではなくて、当人の感情ひいては尊厳の問題だからです。

二つ目の願望はマネージャーにとって不都合な真実かもしれません。マネジメントとしては、メンバーにより高度な課題にチャレンジして欲しいし、働く人とはそうであるべきだという暗黙の前提を持っています。が、そもそも高い目標にチャレンジする義理がどこにあるのか、金は要らないからそっとしておいて欲しいと言われた時に、何ができるでしょうか。また、会社が変化しなければいけないのは会社の都合であって俺は知らないと言われたら、何が言えるでしょうか。アメリカでならあっさりクビかもしれませんが、多くの場合そうはいきません。

この二つの願望が組み合わさると、少々面倒な問題になります。いわゆる属人化・個人商店化と近い話ですが、自分の職務範囲を自分で決めてその外には一切手を出さない、内側には手を出させないという、頑なな要塞化が始まります。そして要塞化する口実として、その職務がいかに重要なのかを滔々と主張する様になるでしょう。こうなると、より機能する組織に変革したいとなっても、そうは事は運びません。

私もこういう人を何人も見てきましたが…いつも思うのが「これ、ストローク・ハンガーだよな」ということです。

ストローク・ハンガー(ストローク飢餓)は心理学方面の用語ですが、「相手に存在を認めてもらえず、且つそれに飢えている状態」です。流行りの承認欲求とも近いと思いますが、もうちょっと根源的な「構って欲しい」というニュアンスが強いかもしれません。
子供っぽい話だなと思われる方がいるかもしれませんが、まさにストローク・ハンガーは子供にもよく見られる現象で、あえて悪さをして周囲の注目を引くというはストローク・ハンガーの典型的な現れ方です。が、別に子供に限った話ではなく、大人にもよくあることです。

前述の様に、自分の仕事に大きな意義があると思いたい一方で、現状以上に大変なことはしたくないと思い、そこで上司や同僚に今ひとつ使えない奴として疎んじられてしまえば、もうストローク・ハンガーによる要塞化へまっしぐらです。

もし、要塞化で上手く仕事が回らない、部署内での協力関係がうまく築けないという状況があるのであれば、まずストローク・ハンガー状態を脱するコミュニケーションが必要だと思います。

なんだよ結局「しっかりコミュニケーションを取りましょう」ってクソみたいな抽象論かよと思われるかもしれませんが、経験的にストローク・ハンガーに対するコミュニケーションにはいくつかコツがある様な気がします。

  • 継続的にコミュニケーションを増やす。

  • その人が、今、成している成果について、質問し話を聞く

  • その人の持っている課題認識やスキルについて、質問し話を聞く

飲みに行って親睦を深めるという様な表面を撫でる様なやり方ではなく、言ってきかせるのでもなく、まず話を聞くということが大事な気がします。そして話を聞くというのは、関心を寄せ質問するという能動的なアクションだということも忘れずにおきたいと思います。

面談を重視することで有名だった任天堂元社長の岩田聡さんのこんな言葉が参考になる様に思います。

一対一で面談することではじめて語ってくれることがある。変な言い方になりますが、「人は逆さにして振らないと、こんなにもものを言えないものなのか」とあらためて思いました。

ほぼ日ブックス「岩田さん〜岩田聡はこんなことを話していた。」

そして、働く人の気持ちの問題が解決して、ようやく、情報の共有、目的やゴールの共有、アカウンタビリティといった、よく言われる組織の問題に着手できるのだと思います。

2.善意の正義感にどう対処するべきか

「あの人の仕事のやり方は間違っている」「〇〇のくせに無責任だ」「私がこんなに残業しているのに時短勤務で帰るなんて許せない」「あんな質の低い仕事はありえない」…等々、善意の正義感が職場を覆うことがあります。時短勤務制度等と相まって派閥が生まれる様な状況とか、結構あちこちにあるのではないでしょうか。マネージャーにとっては頭の痛い状況です。

マネージャーの視点から見ると、ほぼ言いがかりというのもある一方で、「確かにね」と思える内容もあったりもします。ただ言えるのは、それは正義の形を借りた攻撃であって、各人の注意力が誤った方向を向いていて、パフォーマンスの高い状態からは程遠いということです。

私もこの課題に別に処方を持ってたりしませんし、なんならただオロオロしてた人ですが、今になって思うと、まずはよく言われる人事評価の不公平感に関する問題が一つ。それからもう一つ、働く人の意識が、成果をあげるということから組織の村意識に向かってしまっていると、こういうことが起きやすいのかなという気がします。

研究によれば、自分が集団からのけ者にされているように感じると、攻撃的な反応を示しがちだ言います。人間には集団に帰属したいという欲求があるからです。

日本でバチバチにJob Descriptionを切って職務をアサインしている企業は多くないでしょうし、誰が何をするのかはその時々の状況に合わせてフレキシブルに…となりがちです。それ自体は悪いこととは言えませんが、集団を重視する、つまり村っぽくなるのは確かです。そしてどうしても同質性を求める方向に行きがちです。これはいじめの構造と似ています。

マネージャーとしては、仕事のアサインをちゃんとするというのはもちろんながら、組織の構成員の注意の向け先が正しくなるような情報の発信が求められるのかもしれません。

少し面白いところで、クレイジーケンバンドの横山剣氏が、バンドをやっていると揉め事が絶えず時には活動に支障をきたすこともあったが(おそらくお金の問題もあったのでしょう)、「とにかく楽曲のためにやろう」と大事なものを一つにするとトラブルがなくなったという話をしていました。

CKBになってからは“一番偉いのは楽曲様”という考え方を貫き、気づいたら20年続いていたという感じです。

https://www.asahi.com/and/article/20170905/400029289/

組織にとって一番大事なものは何か、そのために嘘偽りなく行動できるのか…が問われているのかもしれません。

3.ニューロダイバーシティに本気になれるか

組織には色々な人がいます。しっかりしたポリシーに基づく採用という理想論では済まず、現実には、買収等様々な経路で集まった、ある意味雑多な人材を活かしてとにかく成果を上げることが求められます。

これが言うは易く行うは難いことは、誰もが知っています。メンバーの性格や人格の様な問題も大きく影響を与えます。そして、実際の組織運営の上では、発達障害を抱える人、あるいはそうした傾向を持つ人も割と普通に登場します。

発達障害については、様々な情報が発信はされていますが、

  • ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)

    • 人の気持ちを理解するのが苦手

    • 冗談や比喩が理解できない

    • 興味の限定

    • 日課や習慣の変化や予定の変更に弱い

    • 特定の物事に強いこだわりがある

  • ADHD(注意欠如・多動性障害)

    • 不注意

    • 落ちつきのなさ、衝動性

…といったあたりはしばしば見受ける特性です。福祉的な観点でこうした特性を持つ人を社会にインクルージョンしようという動きもありますが、それ以上に、こうした特性を持つ人には所謂定型発達者にはない特別な優秀さがあるから、多様性として活かしていこうというニューロダイバーシティの考え方があり、重要性を増していると思います。

有名な経営者やイノベーターが発達障害を持っているというのはよくある話で、Elon Musk氏がアスペルガー症候群を持っていると自分で言っていたりしますし、レオナルドダビンチといった歴史的な偉人も現代であれば発達障害と診断されるであろうという話があったりもします。

ですので、ニューロダイバーシティを掲げて、得意を活かす適材適所な組織を作ろうと言いたいところなのですが、これは決して方針を紙に書いてそれで済む話ではありません。ADHDの衝動性に振り回された周囲が疲弊してしまったり、アスペルガー症候群の遠慮のなさにぐっさり傷つく人が出てきたりするからです。放っておくと、得意を活かすどころか、隔離政策的なことを言い出す人が出てきかねません。

適材適所は美しい言葉ですが、これは裏返しに「得意でないことはやらなくていい」ということを本気で認めるということです。これを本当に実現するためには、組織構成員のオールラウンダー性を諦め、同質なメンバーを前提にした安っぽい助け合いから脱皮して、それでも仕事が回る様にしなければいけません。もちろん、「人は皆、ものすごく違う、それでいいのだ」という認識をさらに深めて理解してもらう必要もあります。

マネジメントにはとてつもなく高い課題が課せられることになりますし、正直どうやればいいのかというナレッジももっともっと社会で共有されていく必要があると思います。

誤解のない様に付記しますが、大変だからニューロダイバーシティから目を背けるという選択肢もあるということが言いたい訳ではありません。むしろ高い競争力を実現するためにニューロダイバーシティに向き合うことは今後必須になると思っています。ニューロダイバーシティについて教育の観点での議論はそれなりにあると思うのですが、職場ではどうすればいいのかの具体的な知識がまだまだ足りてないという気持ちです。

終わりに

あんまり、デザイン組織に特化する話にはなりませんでしたが、スタートアップにもスタートアップなりに、歴史ある企業には歴史ある企業なりに、悩みは絶えません。ここから何か役に立つことがあれば幸いです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。




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