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大人の居場所


これは、地元新聞の記事である。


「酒飲み」が多いと言われている我が故郷だが、それを表すように"スナック数が全国5位"らしい。

スナックは、私の憧れの場所だった。両親は、知人にスナック経営者が多かったせいもあってか、休日には二人でよくお酒とおしゃべりを楽しみに行っていた。当時、未成年だった私は行くことはできなかったが、二人のお土産話を聞くのが好きだった。

「久々に同級生と会った!」「カラオケで昔流行った歌歌ったよ〜!」「たまたま居合わせた人と友達になった!」「あそこのあれが美味しいらしいから今度食べに行こう!」

…など、二人ともアルコールの大人の匂いを纏わせながら、満足げに話していた。

家とも仕事場とも違う、お酒を介して自分を自由にさらけ出せるコミュニティになっていたのだろう。スナックから帰ってきた二人の様子は、心なしか、親ではなく、恋人同士のように見えた。スナックは大人が若い頃に戻れる場所なのかもしれない。

大人になってお酒が飲めるようになったら、私も行きたいなぁ。お酒が飲めるってかっこいいなぁ。スナックってかっこいいなぁ。
ハタチを待ち遠しく思っていた。

そして2年前ハタチを迎えた私は、両親に居酒屋で祝ってもらった後「二軒目」としてスナックに連れて行ってもらった。私の中でこの「二軒目」というのも、大人の仲間入りという感じがして重要だった。

ワクワクしながら店の名前のネオンが光るドアを開いて、薄暗い店内に入った。両親の友人が「ママ」の店だったので、久々に会う私を見て「娘さん!おおきくなったね〜!」と迎えてくれた。

「飲み物は何にする?」と聞かれ、緊張しながら注文した。忘れもしない、「レッドアイ」を頼んだ。それがトマトジュースにビールを加えたものとも知らず、その名前に興味を持って選んだのだ。

母が、今日は私の誕生日だということを伝えると、店のママだけでなく、その場にいたお客さん皆が「おめでとう!」と声をかけてくれた。

恥ずかしさと嬉しさと緊張でいっぱいになりながら、レッドアイの入った赤いグラスで乾杯しながらお礼の言葉を伝えた。

あぁ、大人だなぁ。みんな分け隔てなく、あたたかいなぁ。これが憧れてた場所だなぁ。と実感した。

みんなこの場に別々に集まってきたはずなのに、いつのまにか一つの輪になって話し込んでいる。
いったい、どこからどこまでが元のグループだったか分からなくなるほど、親密に関わりあっていた。

お酒を飲むと、マイナスなことが起こると思われがちだが、そればかりではないと思う。こんなに大人たちが無邪気な笑顔で冗談を言い合って、はしゃぎあっている様子はなかなか見れない。

それは、お酒とスナックという場があってこそだと思う。

スナックの「ママ」という、その名の通り「お母さん」のようなまとめ役の存在。新参者を暖かく受け入れてくれる、「常連さん」という「良い先輩」の存在。そして、様々な垣根のないサークルが“ありのままの大人たち”を生み出してくれているのだと思う。

その上でお酒という共通の介するモノが、本音を引き出し、息を合わせるように行われる乾杯が心をつなぎ合わせる。

私は今でも、そんなお酒とスナックが大好きだ。

この状況下、なかなか訪れにくい場となってしまっている。また、記事によると、県内でもスナックの数は減少しているという。

これ以上、大人の「居場所」が減りませんように。

両親と約束した。この状況が落ち着いたなら、心置きなく 

#また乾杯しよう  。

おまけ。
例のハタチの誕生日の日の、私のFacebook投稿。

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