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コスモナウト 終章 流れ星

何個の星を周ったか分からない。ロボットであるということ、最早その存在を知るものは少なく、文明のない星では、魔物と恐れられ、文明のある星では稀有の存在として気味悪がられた。しかし、その星々には必ず理解者がいた。
「きみは誰だい」
その質問を誰かが訪ねてくれるのだ。そして答える。
――アポロンです。コスモナウトです。
そう地面や紙、時には石に書くと、皆は興味をみせはじめ、近寄るのだった。そして皆、宇宙の話を求める。そして笑い、時には驚く。そして別れ際には皆手を振り、送り出してくれるのだった。しかし皆が尋ねることがある。
「なぜ、君はそこまでして宇宙を目指すのか」
――なぜでしょうね。
――好き、――何かに呼ばれている。様々な解答をしてきた。
しかし、何故コスモナウトとして旅を続けるのか、その答えは、ありはしない。あってはならないのだ。
なぜなら、答えが見つかったなら、旅は終わってしまう。答えのない旅をつづけ、いつしか、腕は錆びつき、目となっていたレンズは割れている。
その動きは遅く、歩くたびに鈍い軋んだ音がするようになった。
宇宙船に乗り込む。自分に連れ添ったボロ船はアポロンというブリキを乗せ、次の星に向かうのだ。
次の星は美しい海が見える星に行くと決めていた。しかし、燃料を入れるために、きちんとした文明のある星にいかなければならないのだった。はたまたそのためには近くのステーションで情報を仕入れなければならない。旅は難儀なものなのだ。
参考にしようと手記を見返すため何冊もたまったノートに手をのばす。

腕は動かなかった。念じても、最早きしむ音を立てることはない。
今は2年目、体を乗換え2年目だった。対応年数が来たことに初めて気が付いた。足も当然動かなくなり、そのノートを見たまま、意識はぷっつりと一瞬にして消えてしまった。

しかし、途切れたと思った意識は未だあることに気が付いた。痛みもない、疲れもない。錆びついた腕も汚れたレンズもなかった。
目下にはガラクタのように茶こけたロボットがころがっていた。
「死んだのか」
一人で呟いた。自分の体を確認することはできなかった。窓を見ても自分の姿はなかった。しかし、随分と体は軽い。まるで、旅をし始めた時のように力に満ち溢れている。
もともと死、のさきに何があるのか、それは分からない。様々な宗教や教科書はそれぞれの解釈を述べていたが、この今の自分を表す現象はなかった。自分は最早、肉体、またはロボットの殻から抜け出すことができたのだった。
しかし、これはきっと死、と形容されるものであろうと一人予想した。
だが、それはどうでもよいことだった。まだ、旅を続けることができる、ただそう思った。
意識を上空へ向ける。すると風を切り、自分の意思は空へと浮かんだ。一瞬の事だ。ほんの一瞬で宇宙へたどり着くことが出来た。このスピードならばどこにでも行ける、そう思った。
何が残念かというと、宇宙船を残して旅をしなければいけないことだった。
どうにかして、彼もつれていければよかったのだが、考えても仕方がないことかもしれない。
一度宇宙船の近くに戻る。寂れた宇宙船がそこにはいた。次の指示を待つかのように、空を浮かんでいる。その宇宙船は黙っているように思えた。しかし、そこに意思が感じられた。
「アポロン、君にはもう僕は必要ないのだ。早く行け」
そう彼は言った。どう言葉を返すべきか考えていると、彼は返事を効かずに地上へと落下した。
「ありがとう。今まで」
そう一言告げると、景気の良い挨拶のように、はたまた祝砲を挙げるように、爆発を一つした。

再び、自分の相棒に感謝をすると、意識を宇宙に向けた。星が瞬いている宇宙に。
すると宇宙へ空高く飛ぶのだった。成層圏を抜け、漆黒の闇、宇宙に辿り着く。
「まだだ、もっと遠くへ」
意識は加速する。まるで光輝く、彗星、流れ星のように自分の意識は宇宙を舞う。
燃料のことは気にしなくて良いだろう。なにしろ、自分は今、どこにでも行けそうな気がするからだ。
さらに加速する。最早、光速を超えているかもしれない。ワームホールにいちいち入るのは面倒なのでとても助かる。世界は加速し、星の光がそれぞれ線になる。

はじめの目標は、当初の通り、海の綺麗な星だ。いつもは尋ねられてばかりだから、今度は自ら自己紹介をしようと決めた。
「僕はアポロン、コスモナウトです。あ、宇宙人と言った方がわかりやすいかな」
と。




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次の章はありません。

前章は以下です。

一章からです。

短編は以下です。



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