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ガウディの伝言

はじまりましたね、2019年。
メディアでは何でもかんでも“平成最後の”がちょっと食傷気味感は否めませんが、今年一発目は、スペインはバルセロナにあるサグラダ・ファミリアの彫刻家・外尾悦郎さん著“ガウディの伝言”からはじめたいと思います。

著者の外尾さんがサグラダ・ファミリアについて各地で講演をする時に、必ずと言っていいほど聞かれる質問が2つあるそうです。1つは「いつ完成するのか」ということ。そしてもう1つが「ガウディが遺した図面がないと聞いているがどのようにして作り続けるのか」。

前者の問いに生前ガウディは「神はお急ぎになりません」と答えていたそうです。
後者については、ガウディが弟子たちに指示して描かせた図面があったそうですが、スペイン市民戦争の混乱の中で燃やされてしまい、今日ほとんど残っていないとのことでその情報が一人歩きし、サグラダ・ファミリアのミステリアスな魅力を深めているとありました。
後者について外尾さんは、図面はどうしても必要なものだったんだろうかと逆に疑問を投げかけています。その理由にガウディ自身、サグラダ・ファミリア以外の作品を見ても多くの場合、図面は「役所に提出するために仕方なく描いた」という程度にしか描いていなかったからだそうで、しかも実際につくられた建物が図面とかなり違っていることも多かったと綴られています。それは決してガウディが精密な図面を描くのが苦手だったわけではなく(むしろ製図工としても並外れた能力を持っていた)、ガウディの頭の中で生み出される作品のイメージが、二次元の図面では表現しきれないものになっていたのではないかとまとめられていて、ガウディは晩年弟子たちに次のような言葉を残していたそうです。

「人間は二次元世界を、天使は三次元世界を動く。」

そのためガウディが建物をつくる職人たちとのコミュニケーションの手段に模型を用いていたそうで、その理由として、図面に細かく描かなければならないと考えると、どうしても発想が二次元に絞られ、立体で発想している時のダイナミズムが失われ、平面で表現しやすい形を考えてしまうからだと外尾さんは語っています。
この3次元で考えるというのはとても新しい考え方だなと思いました。しかもガウディはまだエコロジーという考え方の無い時代から廃材を使った建築をしたり、音や色などの要素を使い森羅万象(時間や重力も)のすべてをサグラダ・ファミリアで表現しようとしていたそうです。

ガウディは人間の性質もよく見抜いていたようで、ものをつくる人間をダメにするのは、全体を考えさせず細かい作業をひたすら義務としてやらせる事で、それによって現場で新しい発想が生まれなくなるだけでなく、いかに手を抜くかということばかり考える人が現れ、作業を急がせれば急がせるほど、杜撰なものができ上がっていくと考えていたようです。これは人間がつくっている限りどうしても起こってしまうとも記されていて、東京オリンピックの会場建設でも同じような事が起こっているというニュースを最近見たばかりだったので、人間は進歩していないんだなぁと。(自分も含む)

そんなサグラダ・ファミリアの建設現場では、今日まで死亡事故が一件も起きていないそうで、その理由として職人たちが自ら考え、意欲的に仕事をしてきたことと無関係ではないと外尾さんは語っています。

生前、ガウディは仕事を終えた職人たちに向かってこう言ったそうです。

「諸君、明日はもっと良いものをつくろう」

すぐに3次元で考えるのは難しいですが、明日はもっと良いものをつくるという気持ちにさせてくれた本書は、“ガウディの遺言”でもあるように感じました。


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