見出し画像

赤石 英二/CONSE FARM

法人名/農園名:CONSE FARM
農園所在地:青森県上北郡おいらせ町
就農年数:8年
生産品目:農薬・化学肥料を使わない自然栽培のハーブ(15種類のミントを含む)を年間約100種類、常時50種類近く
HP:https://www.consefarm.com/

no.124

香りが飛ばない高品質のドライハーブ製造技術を開発。ひとふりでレストランの味を再現

■プロフィール

 占いが流行っていた学生時代、適職がことごとく「経営者」や「会社社長」に向いているという結果が出たことから、高校では将来の経営に役立つような知識や技術を習得しようと、自由に専門教科を選べる総合学科がある青森県立七戸高校に進学し、デザインやプログラミング、商業簿記などを学んだ。

 起業を視野に入れた社会勉強のために、派遣社員としてさまざまな職場を経験。そのうちのひとつの農学系大学で、教務課職員として入試や広報業務を担当するうちに、環境系学科のカリキュラムで農作業や牧場飼育に打ち込む学生の姿を見るうちに、農業への関心を持つようになった。

 大学職員を5年勤めたが、2013年には農産物の商品企画会社に転職し、パッケージデザインや販路拡大の企画などを担当。業務の一環として訪れた六戸町のハーブ農園で、虫だらけ、雑草だらけに見える畑に、それまで味わったことがない高品質のハーブが育っていることに感銘。

 以来、男手が足りない農園主を週1、2回のペースで手伝うようになる。取引先のシェフと交流を深めるなかで、ハーブ栽培にはライバルが少なく、ビジネスチャンスがあるとして起業意欲が高まる。

 その後、本格的に大西正雄さんの下で2年間修行したのち、2015年12月、妻でアロマテラピーアドバイザーの資格を持つ美樹さんと一緒にCONSEを設立。

 ハーブは生鮮品以外は美味しくないと考えられている誤解を払拭したい、と思い、香りが飛ばない高品質のドライハーブ製造法の研究を手探りで進め、料理の食材に合わせたハーブソルトの開発にこぎつける。「ひとふりでレストランの味」と評判を呼び、2018年9月にはおいらせ町のブランドに認定。

 翌2019年には「ふるさと納税」の返礼品に選ばれたうえ、12月には「にっぽんの宝物グランプリ青森県大会」のグランプリに輝く。同グランプリのJAPAN大会では優勝こそ逃したものの、「最強素材部門ベストフレグランス賞」を受賞し、各メディアに注目されるようになる。

 2021年2月には自社商品やハーブ関連グッズを扱うセレクトショップ「CONSE herb shop FiND」をオープン。ハーブの魅力を広く知ってもらう店として、「食べる・飲む」だけでなく、香りや造形などさまざまなアイテムが揃うとして、プロの料理人はもちろん、アロマテラピーに興味がある女性などに人気のスポットだ。

■農業を職業にした理由

 農産品の商品企画会社で、6次化商品に付加価値を付けるためのパッケージデザインや販路拡大の支援業務を担当していた一環で訪れたハーブ園で、大西正雄さんに出会う。

 一見すると草だらけの畑の草をかき分けると、それまで食べたことがない美味しいハーブが育つことに感銘を受け、仕事のかたわら週に1、2度のペースでハーブ園の仕事を手伝ううちに、ハーブは飲食店などからの需要がある反面、競合農家が少なく、ビジネスチャンスがあると知り、就農を決意。

 「弟子はとらない」と首を横に振る大西さんに対して、研修生を受け入れることで補助金が入ると説得して、半ば押しかけるように弟子入りし、2年間修行した。

 住んでいた十和田市には、ハーブ栽培に適した農地が見つからなかったが、師匠の知り合いから、隣のおいらせ町にある10年以上、耕作されていない農地を紹介される。

 ハーブ栽培は、人の手で管理された畑よりも、自然の生態系や生物循環が残る土地の方が適しているという考えのもと、農薬や化学肥料を一切使わないハーブ畑として開墾。

 子供の頃からライバルがいない分野こそ、開拓者として挑戦する意義があるとして、師匠から受け継いだ栽培方法にアレンジを加えた自然栽培方法を確立して、年間約100種類ハーブを生産している。

 活躍は栽培だけでなく、ハーブに関する正しい知識を普及するために、ハーブを使った商品や加工品の開発を進めると同時に、生産指導やポッドキャスト番組も展開。

 フレッシュなハーブを入手できない人に向けた、品質が高いドライハーブの研究開発や調味料開発にも力を入れていて、2019年には「にっぽんの宝物グランプリ 青森県大会」でハーブソルトがグランプリを獲得した。

■農業の魅力とは

 子供の頃から適職を占うと、「経営者」や「社長」が向いているという結果が出るたびに、「将来は起業したい」という気持ちが強まりました。誰も挑戦したことのない分野を切り拓いて道をつくっていく開拓者の生き方に魅力を感じています。

 農業を目指した時も、誰もがやっているミニトマトやイチゴは、今がピークに思えて、他の人とは違う作物にチャレンジしたいと思っていました。その点、国内で栽培している生産者が少ないハーブは未知数ばかり、私には未来しか見えません。

 青森県南東部は、地中海や北米などのハーブ原産地と同じ北緯40度に位置し、比較的雪も少なく、八甲田山で育まれた清らかな水に恵まれた場所です。

 人の手で管理された農地は、自然の生物資源の循環が壊されていますから、ハーブの栽培にはさまざまな野草が育つ植生豊かな土壌の方が適しているので、ここでミントだけでも15種類、年間を通じて100種類弱のハーブを栽培しています。

 ミントと言っても、全ての品種が爽快感があるわけではありませんから、そんなハーブに対する誤解を解いていきたいと思って、さまざまな機会を通じて正しい情報を発信するようにしています。

 ドライハーブの研究開発を始めたのもそのひとつ。師匠の大西正雄さんが育てたハーブは、有名レストランから絶大な信頼を寄せられていましたが、シェフの間では「ドライハーブは美味しくない」と敬遠される傾向に気づきました。

 フルーツや野菜は乾燥させることで味が濃くなったり、保存性が向上するのに対して、市販されている製品に用いられている乾燥法では、香りが失われるばかりか、乾燥機の匂いがついてしまうなどの問題があるからです。

 一方で市販の乾燥ハーブが当たり前になっている人にはフレッシュハーブの魅力が理解されていません。これではハーブの魅力が正しく理解されないと焦りを感じ、一番美味しい時期に収穫したハーブを一番美味しく伝えられる製法の開発に着手しました。

 栽培する100種類のハーブの全てをひとつずつ試作を重ね、最適な温度や時間を調べた結果、2年かけて、独自のドライ技術の開発に漕ぎつけました。

 さらに、もっと手軽に料理に使ってもらうために塩と組み合わせたハーブソルトにしようと、国内外のさまざまな岩塩を試して、純度の高い伊シチリア産が食材を最も引き立ててくれる塩だと決定しました。

 バーベキューなどの肉料理用、魚料理用、トマト料理用に3種類展開しており、ひとふりすれば、レストランの味が再現できると好評です。ハーブ栽培は技術も確立されてないうえ、販路は自分で開拓しなければならず、1軒あたりのレストランに卸す量が少ないので、経営のハードルが高いのですが、だからこそ挑戦する意味があるのです。

■今後の展望

 2021年には自社商品やハーブ関連グッズを販売するセレクトショップ「CONSE FiND」をオープンしました。瓶詰めのハーブソルトや詰め替え用、ハーブティー、チョコレートなどのスイーツをはじめ、ギフトセットなどを目当てにやってくる人まで、さまざまなお客さんがハーブに会いにいらっしゃいます。

 当初は2022年に法人化する計画でしたが、青森県では7月の梅雨に次いで、8月には数十年に1度の記録的な豪雨が降り、農園が水没してハーブがほぼ全滅したため延期したのです。

 2023年は念願の法人化を果たすとともに、それを機に、「ハーブ農家になりたい」とか、ハーブを作りながらスローライフを目指している人の受け皿になりたいと思っています。

 実は、取引先のレストランなどからは「こんなに美味しくて品質が良いのに価格が安すぎないか?」と値段を上げるよう依頼されたことがあります。お店で初めてハーブを食べる人に「これが普通」だと思われてしまうと、ハーブの真価が理解してもらえないからだっていうんです(笑)。

 でも、値段を上げることでハーブが高級品になってしまうと、庶民が簡単に手が出せない食品になることは避けたいのです。日本にも美味しいハーブがあるということを広く知ってもらうためにも、生産者がもっともっと増えてほしいと思っています。そのためにハーブ農家を目指す人には、栽培技術を指導するなど、受け皿になっていきたいと考えています。

#30代で就農
#東北
#新規参入
#経営手法
#経営哲学
#挑戦者
#SNS活用
#ユニークな経歴
#SDGs
#Iターン
#生産加工
#直接販売
#レア作物
#ポートフォリオ経営
#注目の農業者
#地域活性化
#六次産業化
#ライフスタイル