宮﨑 武士/分かち合ふ農園
長距離ドライバーからナス農家へ婿入り。環境制御技術で成長
■プロフィール
高知工業高校を卒業後、ガソリンスタンドや居酒屋でのアルバイトを掛け持ちしていたが、2000年、運送会社に就職して配送ドライバーになる。運行管理の担当を経て、2009年に退職し、妻の父親が営むナス農家に就農。
2年間の修業後、2013年に独立。2014年以降は、環境制御技術の導入を積極的に進めて、収量規模を増やす。
2016年からは、Iターン、Uターンして就農したいと考えている研修生を受け入れるようになる。2018年には高知県指導農業士に認定。
2019年にはハウスの規模を45アールに拡大したことをきっかけに、外国人技能実習生の受け入れを開始。
2021年、義父から中古ハウスを譲り受け、農地面積がハウス59アール、オクラ10アール、水稲20アールに拡大。この年、初めて青枯病が蔓延し、圃場の半分が枯れる被害を通じて、病気対策や資金繰り、税務、労務管理など、さまざまな専門家の手助けを受けたことで、栽培技術や経営面での情報共有の重要性を実感。
高知県や高知大学が進めている作物の生理生態情報をデータ化して生産者同士で共有する「IoP (Internet of Plants)」研究会の中心的メンバーとしても活動。2018年高知県指導農業士認定。
■農業を職業にした理由
20代で勤めていた運送会社で、運行管理業務や深夜の運転業務を担当していた間、子供が起きている時間に帰宅できない不規則な毎日を送り、我が子に父親だと認識されない生活に限界を感じていた。
日の出・日の入りに合わせた仕事への転身を考えていた頃に、婿養子入りした妻の義父の勧めもあって、脱サラしてナス農家になろうと決意。
栽培歴30年の義父のもとで、2年に及ぶ修行期間を経たのち、長年の経験や勘に頼る従来の栽培方法ではなく、ハウス内の温度や湿度、水分量や光合成量をモニタリングして、データ化する環境制御技術への興味が高まった。
意見の相違があった義父と経営を分けて、2013年に独立。2014年以降、環境制御技術の導入を推し進め、収量増加に伴って、ハウス面積も拡大。
1人での作業に限界を感じて2016年以降は、将来、就農を希望している研修生の受け入れや、外国人技能実習生、パート従業員を正社員化するなど、次世代の人材育成にも熱心だ。
■農業の魅力とは
就農直後は、不規則な配送業務からの転身ということもあって、農業は仕事する時間を自分で決められる自由があると魅力に感じていましたが、就農から十年以上過ぎて生産規模が拡大するにつれて、農業の魅力も変化したように思えます。
義父との家族経営から、今では研修生や外国人技能実習生を雇用する立場になったことで、一緒に働く仲間ともやりがいや喜びを共有したいと思うようになりました。
2022年のゴールデンウィーク期間中も、2人の農業体験者を受け入れましたが、彼らにはハウス内のどんな作業に苦労したかとか、疑問を感じたか、など忌憚(きたん)ない意見をもらいました。
そういった指摘が経営の改善に結びつきますから、今後も農業体験や研修生は積極的に受け入れていきたいと思っています。
また農薬や化学肥料のこと、環境制御技術によって殺菌剤を減らすことができるといったことも、SNSで情報発信することで、農園のファンを増やしたいと思っています。
2014年から導入を進めている環境制御技術も、最初のうちはデータの見方もよくわからず、手探り状態でした。しかし、県を上げて環境制御型の次世代農業に力を入れるようになったことで、他の農家のデータと比較検討することが可能になりました。
高知県が独自に開発したアプリ「SAWACHI」にみんなの圃場の環境データや出荷データ、生産履歴などが集まることで、他府県の収穫のピークとずらした裏作が可能になり、作り過ぎて作物価格を下げられるようなことも避けられます。
私1人だけの成功ではなく、地域全体で高知の農業を守っていくことが喜びなのです。
■今後の展望
将来的には複数の農家で農業生産法人を設立することを目標にしています。
私のハウスでは2021年に初めて青枯病が発生し、その際に原因を調べたり、病気対策や資金繰り、税務、労務管理など、多くのプロの手を借りました。
特に労務に関しては不勉強だったので、外国人技能実習生を受け入れるようになって以来、給与計算や労働基準法などの面で、税理士や社労士などのプロと顧問契約を結んでいます。
法人化となると、社会保障や福利厚生などの面も考えなければなりません。
私はスタッフには安心して働ける場所としてウチを選んでほしいと思っていますが、なかには「栽培だけに集中したい」と言う農家もいますので、法人化する際には経営面、栽培面、営業・販売など、それぞれの得意分野を活かした組織を目指したいと考えています。
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