留学は自分に対する投資になったか

世界各国でコロナが猛威を振るい、外出禁止令が出ているため、週末はイギリス大学院留学時に同じ寮に住んでいた友人たちとスカイプをするのが最近の楽しみです。

個人的には彼らと話すことで自分の英語力低下を意識して、なんとか英語力(スピーキング力)を落とさないようにする、という打算的な狙いもあります。でも、なんといっても1年一緒に住んだ仲なので、家族みたいになんでも話せる友人の近況を知りたいし、ただただしゃべるのが楽しい、というのがスカイプを続けている理由だ思います。

自分の人生は楽しいけれど・・・

話は前後しますが、私の留学は社会人留学でした。大学卒業後すぐに教員になりました。教員生活では大変なことも沢山あったけれど、授業準備も授業も好きで、好きなことを仕事にし、たまに趣味のダイビングに出掛けて、「人生は楽しい」と素直に思っていたタイミングでした。

仕事を辞めることにした理由は「自分の人生経験は教員として足りているのか」と疑問に思い始めたことがきっかけでした。

私が勤務していた学校では40人前後の生徒を1人の担任が受け持ちます。その中で教員になる生徒は1人いるかいないか。担任をしていると、生徒の様々な相談に乗りますが、進路指導もその一つです。進路指導とまでいかなくても、キャリア教育等で将来のことについて考えさせる時、自分の経験していない道に進む生徒の方が圧倒的に多いことに気が付き、自分は何も教えてあげられないのではないか、と悩むようになりました。美容師になりたい、という生徒がいた時は、自分がお世話になっている美容師さんに話を聞いて、その話を伝えたこともありました。けれど、「社会に出る」大多数の子ども達に、「社会に出る」経験を積んでいない自分は教員を続けていいのだろうか、という問いが自分の中で大きくなっていきました。(もちろん、新卒で素晴らしい先生になられている方も沢山いらっしゃるので、新卒からずっと教員を続けることを否定しているわけではありません。あくまでも、私個人の感想です。)

当時勤めていた学校では、その年、ちょうど中学3年生を担当させていただいており、子ども達を卒業させて自分も社会に出よう、と決めました。そして、英語の教員をしていたし、せっかくならもう一度生徒側を経験しよう、と思い、イギリス大学院留学を決意しました。

留学は自分にとっての投資になったか

そんないきさつで大学院留学を経験し、帰国後もまた教員になりました。授業では留学時の経験も活かせた場面もありました。しかし、私は再び学校を退職しました。

学校の退職は基本的には年度末になるので、ブランクを作りたくない場合は仕事をしながら4月スタートの別の学校、企業への転職活動をする必要があります。当時の私はある事情でそれが出来ず、3月に退職することだけが決定していました。先が見えない不安からメンタルも疲れてきて、同じ考えがぐるぐると回っていました。

「・・・留学に行った意味はあったのだろうか・・・」

教員という仕事をやめ、貯金を崩して留学をし、帰国して仕事を始めたものの、また無職になってしまった。転職のエントリーも次から次へと落ち、面接にすら進めない。「大学院に行ったからこんな仕事はしたくない」といった気持ちはなかったけれど、英語が活かせない仕事にしかつけなかったら、それこそ留学した意味って・・・と次が決まらないことに対する焦りは募っていきました。

でも運よく、今では教育関係の一般企業に就職することが出来、英語を使った仕事をしています。

あえてここで、今の仕事に留学の経験が【直接】活かせているか、と考えると「まだわからない」というのかが正直なところです。留学時は「帰国して教員になったら、こんなことしたい、あんなことしたい」と思って勉強していました。教員でない今は、正直留学経験を直接果たせているとは言えないでしょう。

しかし、最近思うのは、留学した意味や留学から自分が得たものの価値は「すぐにはわからない」ということです。

留学で得たもの

ここでやっと、冒頭の友人たちとのスカイプの話に戻ります。スカイプは私の留学の延長であり、私が留学で身につけたことを強化する場でもあります。

私が留学で身につけたことは「議論への耐性」「好奇心」「情報選択能力」かと思います。

「議論への耐性」というのは、文字通り、議論に参加し、指摘・批判されてもそれに耐える力です。私は典型的な議論が苦手な人間で、今でも得意な方ではないと思っています。しかし、それは留学中、そして今のスカイプで少しずつ強化されてきていると思います。留学中、私の住む寮には12人が住んでいて、それぞれが異なる国籍、文化的背景を持っていたので、毎日のように様々なテーマについて議論をしてました。インド・中東・アフリカ・イギリス出身の学生は小さいころから鍛えられてきたようで、議論が上手く、しかもなかなか自分の主張を曲げません。私から見れば「喧嘩じゃないか」と思うほど、議論が白熱することも日常茶飯事。そんな中でなるべく自分の主張をすること、批判されても論理的に言い返すこと、はかなり大変でしたが意識して行うようにしていました。スカイプでも同様にチャレンジすることで、以前よりも議論に対する免疫がついたのではないか、と自負しています。

「好奇心」は別の言い方をすれば「視野をひろげること」です。私の場合は日本と世界で何がどのように発信され、捉えられているかにとても興味を持つようになりました。例えば、現時点ではコロナの被害状況、各国の対応、中国に対する印象は日本と各国ではかなり違います。日本のマスコミの情報だけでは、かなり偏ってしまうので、BBCのラジオを聴いたり、英語のニュース記事を読んだりして、スカイプで話すときの材料にします。

「情報選択能力」は、「議論への耐性」に大きくかかわってきます。議論をするとすぐに「根拠は?証拠はあるの?」と言われます。そこでこんな記事があるじゃないか、というと「誰が書いたわけ?どこの大学の教授?」「いつ書かれたの?今は情報違うんじゃないの?」と、今度は情報の信憑性について突っ込まれます。こんなことを繰り返しているので、議論で一方的に不利にならないように、自然と情報を収集し、またその根拠についても気にするようになりました。

投資になるかどうかは長期的な視点で考える

「キャリアップのために沢山資格をとっておきなさい」

「留学して得したことは?」

留学前後に言われたことです。目的意識をもって、それを達成することは大切だし、キャリアアップだったり収入が増えたりと実際に見えるメリットがある方が説得力があると思います。実際、それが見えなかったから私は悩んでいました。

私が留学で身につけたと思っている能力はなかなか数値化しにくいし、実際どのくらい身についているのか可視化出来ません。でも、私はこの能力は日本で教員を続けていたら身につけるのにかなり時間がかかったと思うし、今後必ず活きてくる、磨き続ける価値がある能力だと言いたいです。

目的をもって留学をするのは素晴らしいことです。でも、それだけにとらわれると、そのほかの様々な価値ある体験や可能性を見過ごしてしまうかもしれません。一人でも多くの人が、様々な体験、可能性を広げるため、海外にも目を向け、留学を選択肢の一つに入れてほしいと思います。


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