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【書評】トランプ再選の保護主義に備えろ│エマニュエル・トッド「グローバリズム以後」【連載1回目:2024/05/26】

著者プロフィール:

 抜こう作用:元オンラインゲーマー、人狼Jというゲームで活動。人狼ゲームの戦術論をnoteに投稿したのがきっかけで、執筆活動を始める。月15冊程度本を読む読書家。書評、コラムなどをnoteに投稿。独特の筆致、アーティスティックな記号論理、衒学趣味が持ち味。大学生。ASD。IQ117。

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 エマニュエル・トッドの「グローバリズム以後」を読んだ。本書は、朝日新聞のインタビュー記事をまとめたもの。世界情勢について、トッドが質問を受け、鋭い切り口で回答する。

 一章は、2016年8月~のインタビューである。トッドは、文面の一致というグローバリズムの夢が潰えた事を指摘する。二章は、2016年1月~のインタビューである。中東では実は近代化が進んでいる事、先進諸国は問題を抱えている事を指摘する。三章は、2011年~のインタビューである。世界が好戦的になりつつあり、国家が復活してきている事を指摘する。

 四章は2005年~のインタビューである。米国は有害であり、保護主義を訴え、日本に核武装を勧める。五章は1998年~のインタビューである。米国は欧州と対立し、世界の要としての米国が成り立たなくなった事を指摘する。非常に問題のある大量カットを行って要約すると、このようになる。

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 本書は非常に内容が濃い。まずは、一章について言及して行こう。トッドは、アメリカについてこう述べる。

―――この夏、米国で過ごしたそうですが、ドナルド・トランプ氏が共和党の大統領候補になったことの意味をどう考えますか。

 私としては、トランプ候補だけでなくサンダース候補も合わせた全体として見たい。 米国の有権者層あるいは社会で、根本的な問題について、大きな変化が起きている。(中略)

 根本的なこととは、トランプ候補が持ち出している外国人嫌いの面ではない。むしろ通商問題、つまり対外貿易の問題についての考え方の大きな変化です。自由貿易に対しての戦いに乗り出してみせる。それがトランプ候補にもサンダース氏にも共通していることでした。

(p18)

 つまり、どういう事か。自由貿易によって、アメリカは輸入超過に陥っている。これは、国内有効需要を減らす結果となっている。また、国外に安価な労働力があると、国内の労働者の賃金が上がらず、需要減少に繋がるという。トランプもサンダーズも、これに対抗して、一種の保護主義(貿易活動に国家が干渉すること)政策を主張したのだ。

 無論、このような保護主義は、諸外国との間に対立を産む。これはトランプ大統領当時の世界情勢を思い出して頂ければ分かるだろう。しかし、当時のアメリカ国民にとっては、アメリカ国民第一を掲げる保護主義は歓迎されたのだ。

 再び、日本はトランプ再選によって、すべての輸入品に関税をかけられるリスクがある。日本はどうすればいいか。エマニュエル・トッドはどのように提言するか。結論から言うと、アジア諸国での保護主義である。

 つまり、エマニュエル・トッドは、アジア諸国、北米、欧州の3つの保護主義を提案する。これに関して、政治面では不可能でも、経済面での一致は可能だというのだ。

 果たして、どうだろうか。私はこの分野は浅学だが、この施策は無論、現実的ではないと思う。エマニュエル・トッドは、日本への核武装提案も含めて、あまりに尖った視点を出す事は知っている。しかし、保護主義的政策が、格差問題へのひとつのアンサーになるというのは目から鱗であった。

 日本単体で保護主義を取るのは、不可能である。それならば、アジア諸国(中国を含む)との関係改善は急務かもしれない。なんにせよ、国内の反中右翼の主張(対米従属主義)は厳しい。そのアメリカでトランプが再選すれば、日本は経済的に苦難に立たされるだろう。そういった観点から、岸田外交を検討するのもありかもしれない。

 ということで、エマニュエル・トッドの「グローバリズム以後」の一章について検討してみた。それでは。


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