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小さな世界をさがしに行こう。#小満「コロボックル物語1 だれも知らない小さな国」

こんにちは。新日本カレンダー広報室の下滝です。
まだ夜は少し肌寒い日もありますが、風が心地よく、休日には公園で遊んでいる子供たちの姿をよく見かけます。

ツツジの茂みに数人でしゃがみこんで楽しそうにしている子たちもいて、その秘密めいた様子に、私も子供の頃に原っぱに秘密基地をつくって遊んだことを懐かしく思い出したり。

残念ながら今ではそんな特別な場所も埋め立てられて、たくさんの家が建ち並んでいます。

時の移ろいに哀しい気持ちになってしまうこともありますが、今の私がその場所に行っても、きっと秘密の場所には入らずに立ち止まって眺めるだけでしょう。
身体も成長してしまったし、夢中で楽しめる空想の世界への入り方を、いつの間にか忘れてしまったから。

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そんな大人になってしまった自分を少し切なく思いながらも、しまいこんだ幼い頃の思い出をそっと取り出したい時に、その記憶に寄り添ってくれるような本があります。

今回ご紹介するのは、誰もが心の中にもっている小さな世界を思い出させてくれる本「コロボックル物語1 だれも知らない小さな国」です。

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自分だけの秘密の場所と秘密の存在

この物語は主人公の「ぼく」が小学三年生の頃に、いつもの遊び場から離れた裏山の奥で、自分だけの秘密の場所を見つけるところからはじまります。

小さな山と、澄んだ泉のある三角形の平地。それらを囲むようにきれいな小川が流れる、山間のひっそりとした場所。小山のふもとにある椿の木は、椅子のように座れる枝振りで、そこはひなたぼっこをしたり、本を読むのにぴったりでした。

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主人公はその土地の草をかったり、地面をならしたりして自分だけの秘密の場所を大切にしていましたが、ある日その場所が「鬼門山(きもんやま)」と呼ばれて恐れられていることを知ります。

なぜそんな名前で呼ばれるかというと、縁起の悪い方角にあるという意味合いもあったのですが、昔からこの場所には魔物が住んでいるのだといいます。魔物は「こぼしさま」と呼ばれる一寸法師のような“小さな人”のことでした。

祀られていた「こぼしさま」は人間を笑わせたり困らせたりしていたものの、いつからか出てこなくなったとか。そしてこの場所を荒らすと良くないことが続いたため、祟られるといわれて恐れられ、今では誰も近づかなくなったそうです。

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主人公はその話を聞いて、怯えるどころか、ますますその場所に惹きつけられていきます。
そして、きっとこの土地を自分のものにしようと心に決め、さらにはどこかにその“小さな人”がいるのではないかと探しはじめます。

大人になってもなお、その想いを抱き続けた主人公は、土地の所有者のおやじさんに相談しながら、ついに鬼門山に自分だけの小屋を建てることを決め、少しずつ場所を整えていくのですが……。

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その後、主人公の周りにはいつしか小さな黒い影が飛び交いはじめます。さて、その影とはいったい何か。どこからきた、どんな存在なのでしょうか。
すぐそこで物事が起きているかのようなリアルな描写で描かれる和製ファンタジーの真髄を、ぜひ味わってみてください。

主人公の目線にそって、不意を衝く出来事にどきっとさせられながら進んでいく物語は、この先何が起こるのかと目が離せません。
不思議なことを信じていた、幼い頃の胸の高鳴りを思い出しながらページをめくってみてはいかがでしょうか。

日本にも小人の話があれば面白いのに
毎日出版文化賞・国際アンデルセン国内賞などを受賞した本作ですが、この物語ははじめ、作者が私家版として、自身で100部ほど制作したものでした。

きっかけは、西洋の妖精のような存在が日本にいないことを残念に思っていたところ、アイヌ伝説の中にコロボックルという小人の存在を見つけ、あらためて現代に彼らを紹介しようと物語を創作したそう。

鬼や河童などの妖怪に紛れて、自分の物語の小人の存在がどこかにのこったらどんなにゆかいだろうと思って描かれた本作は、まさにそんな作者の気持ちが伝わってくるような生き生きとした力があふれています。

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そんな気持ちが伝わったのか、私家版を出したのちに講談社から単行本が出版され、児童文学として読み継がれていきました。そして300万人をこえる人々の心をとらえ続け、初めて本が出版されてから51年。なんと半世紀たった平成22年に講談社文庫から再度文庫化されました。

出版されて10年後の改版時に最初の装丁・挿絵の若菜珪(けい)さんから、現在の村上勉(つとむ)さんに変わり、その後作者の佐藤さとるさんと村上勉さんのイラストによる抜群のコンビネーションで、コロボックル物語は数を重ねていきます。

続編も心をわき立ててくれるような本当に素晴らしい作品ばかりです。
2014年には有川浩さんによって書き継がれた「コロボックル絵物語」も刊行されました。

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作者はこの物語に、コロボックルの他に、人がそれぞれの心の中にもっているその人だけの小さな世界のことを書きたかったそうです。
自分の世界をたいせつにしながら、他人にもそういう世界があることを知って、他人の見せない小さな世界もできるだけたいせつにしなければならないということ。

自分だけの小さな世界を正しく、明るく、辛抱強く育てる尊さを書いてみたかったというあとがきに、秘密の場所をそっと心の中に留めておく秘訣がある気がします。

本書の中からヒントを見つけて、あなただけの小さな世界を探しに出かけてみませんか?


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-今回のここに注目!-
「コンバンハ」と、その若者が、あげた手をふっていった。

ある嵐の夜に、主人公のもとを訪れた「小さな人」が発した言葉。彼らは一風変わった装いで現れます。

実際に小さな人がいるとしたら、彼らはどんな生活をして、何を食べているのでしょうか。
その生活環境から一緒に想像して楽しんでみるのも、この物語を楽しむ醍醐味のひとつです。

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コロボックル物語1 だれも知らない小さな国

著者: 佐藤 さとる
絵:村上 勉
出版社:講談社
定価:本体590円(税別)
文庫本:296ページ
ISBN:9784062767989

なついろブックカバー 小満

サイズ:152×385mm
130×32mm(しおり)
枚数:各1枚
素材:紙

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