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イロトリドリの愛しい世界を教えてくれる本 #立春「 きれいな色とことば」

こんにちは。広報室の下滝です。

夜はまだ寒いですが、日中は陽の光がぽかぽかとさしこんで、春の気配が感じられるようになってきました。
木々の芽吹きが目立ちはじめ、わくわく、そわそわと新しい生命への期待がふくらむような春の空気。

花粉症のことを考えるとものすごく気が重いところもあるのですが、タンポポの花の黄色やレンゲのピンクなど、冬には茶色や灰色に感じられていた風景に明るい色が垣間見えてくると、やっぱり春はいいなと思います。

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今回ご紹介するのは、そんな景色から人の心の中にまで宿るような「色の世界」をシンプルな言葉で、やさしく語ってくれる本、おーなり由子さんの「きれいな色とことば」です。

1998年に刊行されてから、文庫化するのはなんと二十年ぶりの二度目。

新たに描き下ろしイラストを加えて文庫化された本書は、最近ちょっと疲れていて、季節の変化にも気づかなかったし、そもそも景色を見る暇もないよ、という方に、ぜひページをめくってほしい、心を潤してくれるような一冊です。

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作者が感じた記憶をたどる文章たちは、各章ごとにふんわりとした優しい色で分けられて、何気ない日常のひとつひとつに、鮮やかな色が潜んでいることに、それを感じる作者の感覚の豊かさに驚かされます。

中でもくり返し読んでしまうのは、「青いたからもの」の章で、失恋の色として「青」が描かれたエピソード。

好きだった人にフラれてしまった…
まずこみ上げてくるのは自分や相手に対するやるせない怒り…。だけど、そんな怒りを心の中で耕していくと、やがて顔を出してくるのは、深く静かな悲しみ…。
青い青い涙のように変化していく心の色。

そして悲しみは時間が過ぎていくことで、少しずつ、少しずつ癒えていき、最後には“せつなさ”に変わる。

青い心の色の変化から目を背けずに、傷ついた自分の気持ちと静かに向き合うことで、どんな悲しみも自分の身体の一部だなって、そう思えるようになればいいのにというお話です。

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生きていると、その時のカッとした感情に突き動かされて、気づけなかった気持ちや、後悔が私にもたくさんあります。

たまにそんな記憶が蘇ってきて心底自分が嫌いになりそうな時、このページを開くと、どろどろした自分の感情がきれいな色と言葉で浄化してもらえているようで、なんだか救われる気がします。

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そして、2ページで語られる短い話「黒いガラス窓」では、
“帰省先から東京に戻る時に駅で見送る母が、まるで子供みたいに一生懸命手を振っていた”と、その姿をただ描いているのですが、語られない空白の部分と、夜の中を真っすぐに走る新幹線の挿絵に学生の頃の自分を重ねてしまったり。

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里帰り後に再び一人に戻る時、寂しくて離れがたくて、でもちょっとかっこつけて平気なふりをして。
ただ手を振ってエールを贈ってくれる両親の姿に、いつも背中を押してくれた声に、どれだけ励まされてきただろうと、泣きそうになって引き締めた顔と、苦しいくらいにきゅっとなる胸のきしみを久しぶりに思い出しました。

作者の素直な感性や、ページからあふれんばかりの鮮やかで淡い色たちが、読み手の心を素直にさせて、懐かしい気持ちを引き出してくれるのかもしれません。

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その他にも、日常の過ごし方を描いた「夏になる方法」や「朝ぶろのすすめ」、友達と虹を分かち合う「虹色の輪」など、独特の感性で色のある生活が描かれます。
本を開いている間だけ、ほんの少し素直になって、作者と共に心をほどいて浸ってみてはいかがでしょうか。

あなただけの懐かしい記憶や、いつか見た景色がきっと目の前に蘇ってくるはずです。

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心で感じる色、目で見る色は人それぞれ違いがあるけれど、どの色もすごく素敵で貴重な、自分だけが見つけられるものです。

世界も心の中も、見逃すのがもったいないくらい、その時々で違った色に満ちています。

毎日を億劫に、色の無い世界に感じているとしたら、この本を開いて、鮮やかな色のある世界をどこかに探してみませんか?

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-今回のここに注目!-
「今、生きている世界に、愛しい色が見つかりますように」

世界は色に満ちているのに、時として私たちはそれを見失ってしまう気がします。
嬉しかったり、楽しかったり、腹を立てたり、寂しかったり。様々な感情とともに見た色の世界を、胸の中に宿して歩いていけますように。

おーなり由子さんのあたたかな言葉と色が包み込んでくれる優しい世界を、ぜひ楽しんでみてください。


■きれいな色とことば

著者:おーなり 由子
出版社:講談社
定価:本体800円(税別)
文庫本:224ページ
ISBN:9784062938846

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