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島に来たことに後悔はないか

2024年6月14日~16日、座・シトラス本公演ZESTAが開催されました。 まずZESTAという言葉ですが ①zestful:熱心な、興味をもった、香味ある(特にシトラス系の?) ②festa:(イタリア語)祭り から生まれた造語です。 座・シトラスにふさわしい、熱のこもった祭りのような8つの公演が集まったZESTA。ご来場、配信にてご視聴いただいたお客様、誠にありがとうございます。 私はその中で、『救世主飯屋』と『即興島の殺人 名探偵・子子子子子最後から3番目くらいの

    • 終末の飯屋にて

      2024年6月14日~16日、座・シトラス本公演ZESTAが開催されました。 まずZESTAという言葉ですが ①zestful:熱心な、興味をもった、香味ある(特にシトラス系の?) ②festa:(イタリア語)祭り から生まれた造語です。 座・シトラスにふさわしい、熱のこもった祭りのような8つの公演が集まったZESTA。ご来場、配信にてご視聴いただいたお客様、誠にありがとうございます。 私はその中で、『救世主飯屋』と『即興島の殺人 名探偵・子子子子子最後から3番目くらいの

      • 弐度目の夏『きさらぎミッドサマー弐式』

         自分の中の記念碑的作品である『きさらぎミッドサマー』。初回上演時に思いがけず好評をいただき、そして再び上演することができた。とても恵まれた運命である。  そもそもこの作品は、90年代鬱エロゲーを全年齢対象版でやりたいという思いから始まった。大ヒットサイコロジカルホラー映画『ミッドサマー』を観ていないまま書き始めたら、去年の上演の前に映画『きさらぎ駅』が公開された。色んな巡り合わせにすみませんすみませんと頭を下げた。 舞台上で役者がマーダーミステリーやストーリープレイングを

        • the end of 『速強局の殺人』

          どんな物語にも始まりがあり、どんな物語にも続きがある。でも『エイリアン2』になるのか『マトリックス リローデッド』になるのかは運命の分かれ道である。(どっちも好きな映画だけど) 『速強局の殺人 ~名探偵・子子子子子 最後から4番目くらいの事件~』の上演が終わりました。『即狂館の殺人』の正統な続編。子子子子子には沖村彩花が続投。前作で嫌にならないでくれて本当によかった。 ここからはネタバレを含むあとがきである。作者は作品ですべてを語れとは言うものの、自分の思考を整理しマイル

        島に来たことに後悔はないか

          いつかきみがいた夏-きさらぎミッドサマー弐式前日譚-

          こちらの台本は、座・シトラス アナザー公演vol.012『きさらぎミッドサマー』の前日譚です。 『きさらぎミッドサマー』 2023年12月17日(日)14:30 場所:ジョイジョイ ステーション(〒176-0002東京都練馬区桜台1丁目2−8※西武線、桜台駅 南口から徒歩3分) 予約のURLはこちらからです。 https://www.quartet-online.net/ticket/voet202312?m=0ycfdbh ●登場人物 プレイヤーA:安野伸仕(あんの・し

          いつかきみがいた夏-きさらぎミッドサマー弐式前日譚-

          はじけ気味な常々 -きさらぎミッドサマー弐式前日譚-

          はじけ気味な常々 こちらの台本は、座・シトラス アナザー公演vol.012『きさらぎミッドサマー』の前日譚です。 『きさらぎミッドサマー弐式』 2023年12月17日(日)14:30 場所:ジョイジョイ ステーション(〒176-0002東京都練馬区桜台1丁目2−8※西武線、桜台駅 南口から徒歩3分) 予約のURLはこちらからです。 https://www.quartet-online.net/ticket/voet202312?m=0ycfdbh ●登場人物 プレイヤ

          はじけ気味な常々 -きさらぎミッドサマー弐式前日譚-

          『即狂館の殺人』スピンオフ 岩瀬恵砂の未必の恋①

          1  岩瀬恵砂がデスクに戻ってくると、判矢警部に手招きされた。何か怒られるのかと怯えてしまう。判矢の鷹のように鋭い目に見つめられると、些細なことでもやましく思えるのが不思議である。ある意味彼にとって警察は天職だろう。 「何でしょうか?」 「市谷で事件だ」  判矢は恵砂に捜査資料を手渡した。 「被害者は狸穴常尋37歳。パソコン機器などの代理店に勤めるサラリーマンだ。アパートの自室で腹部を刺されて死んでいた」  第一印象も最終印象も「さえていない」で終わりそうな男の写真が資料に

          『即狂館の殺人』スピンオフ 岩瀬恵砂の未必の恋①

          蘇る即狂館の殺人(或いは仲間たちへの御礼)

          2023年6月2日~3日、『即狂館の殺人』という舞台がありました。作・演出のNJです。どんなお話かは以下の漫画をご覧ください。(ありがとう、よしはらヨシ先生! Twitter @deutsch_spiel ) さて、こちらの演劇は導入までは台本があるが、途中からまったく台本がない即興芝居。そして、とある衝撃(!?)のエンディングについては、NPCである私と相棒の刑事と、被害者以外には伝えられていませんでした。 容疑者たちは、お客様が書いていただいた単語を使い、自分がどこで

          蘇る即狂館の殺人(或いは仲間たちへの御礼)

          Arrow allows a law 第一章(ジョジョ4部二次創作)

          第1章 1  S市のベッドタウンとして、1980年代から急速に発展した町、杜王町。歴史は古く、縄文時代の住居跡があり、侍の時代には別荘や武道の訓練場のあった土地だ。  それがぼく、広瀬康一の住む町だ。特産品は牛タンの味噌漬けだけど、ぼくはまだ食べたことがない。他の町からは有名でも、案外町の人からは遠いものってあると思う。例えば、奈良の人が毎日奈良漬けを食べているとは思えない。  ぼくはカフェ・ドゥ・マゴで水を飲んでいた。高校一年生が喫茶店に入り浸っていいのかと思うが、億泰

          Arrow allows a law 第一章(ジョジョ4部二次創作)

          Arrow allows a law 序章(ジョジョ4部二次創作)

          序章  1989年のことである。  その冬の日は、杜王町18年ぶりの大雪だった。 今でこそ閑静な住宅街として人気のある町だが、その頃の杜王町は開発途中であり、家々どころか交通網すら殆ど存在しなかった。  都市計画はあったものの、農地として活用されているため、民家は数キロごとに点在するような有様だった。故に、黒く暗い雪景色が一面に広がっていた。  弱者を打ち据える降雪の中、一台の車が農道を走っていた。  運転するのは一人の女性。美人だが、「やるときはやる」という意志に溢れた強

          Arrow allows a law 序章(ジョジョ4部二次創作)

          新宿MAYHEM メン子の面倒の後始末 その5

           メン子の家に向かう。これが私の最後の訪問になるだろう。西武新宿線の駅から歩き、お世辞を重ねても綺麗とは言えないアパートの二階にたどり着く。跡形もなく痕跡を消さなくてはならない。私がこの家に来たこと事実がなくなってしまうように。私の中からメン子が消えていくように。あの子は尋常じゃない色に髪を染め、痛々しいほどのピアスを付け、見た目は毒々しい哀れな虫だったけど、それでも心根は優しい女の子だった。  だからと言って愉快だったわけじゃない。  私はメン子の家のドアを開けた。玄関から

          新宿MAYHEM メン子の面倒の後始末 その5

          新宿MAYHEM メン子の面倒の後始末 その4

           メン子と飲んでいた時のことを思い出す。3軒目くらいだったか。新宿神鳴町のアルテマ街で、生ハムをアテにしながらスパークリングワインを飲んでいた。私は延々とスパークリングワインだった。店の在庫が尽きるまで戦う、スパーリングのような飲みだった。 「ぐるぐる回ってるー」  メン子は大きな目を回しながらアブサンを飲んでいた。これはきっと悪酔いする、私には確信があった。 「茉莉さん」  メン子が私の名前を呼ぶ。赤く縁どられた二つの目が、焦点定まらず私を見る。 「茉莉さんは好きな人とかい

          新宿MAYHEM メン子の面倒の後始末 その4

          ネタバレミッドサマー(きさらぎミッドサマーのネタバレだよ!)

          こちらの記事は、座・シトラス アナザー公演vol.012『きさらぎミッドサマー』のネタバレ解説です。お読みになる前に是非本編をご覧ください。 配信アーカイブ販売  うだるような暑さと叫ぶような大雨の中で、『きさらぎミッドサマー』は終演した。  感情の大渦が舞台も客席も駆け巡った。カーテンコールを終えて私が楽屋に戻ると、上気した顔の出演者が迎えてくれた。  作品の感想はお客様に委ねるとして、私が一番好きな作品であることは間違いない。願いが叶うならば、出演者にもRietにも、代

          ネタバレミッドサマー(きさらぎミッドサマーのネタバレだよ!)

          はじけ気味な常々 -きさらぎミッドサマー前日譚-

          はじけ気味な常々 こちらの台本は、座・シトラス アナザー公演vol.012『きさらぎミッドサマー』の前日譚です。 『きさらぎミッドサマー』 2022年7月16日(土)11時 場所:ジョイジョイ ステーション(〒176-0002東京都練馬区桜台1丁目2−8※西武線、桜台駅 南口から徒歩3分) 予約のURLはこちらからです。 ●登場人物 プレイヤーA:安野伸仕(あんの・しんじ)男 21歳 羽田洋 プレイヤーB:場當明晴(ばとう・あきはる)男 23歳 田沼ジョージ プレイヤ

          はじけ気味な常々 -きさらぎミッドサマー前日譚-

          新宿MAYHEM メン子の面倒の後始末 その3

           メン子の家に行こうと思った。西武新宿線の駅から10分ほど歩けばメン子のアパートに着く。 『あたしが死んだら片づけに来てね』  メン子が生前よく送ってきたメッセージだ。私の仕事は《事後屋》だ。タダ働きはしないよ、と思いつつ、結局片づけに来てしまった。  メン子の葬式がどうなったのかは知らない、行けなかったことが後ろめたかったのだ。  ちっぽけなアパートの二階。鍵はかかっているが開けるのは造作ない。死んだ人間の家に勝手に入るのはまずいかと思うが、私も所詮裏の人間だ。  昼だとい

          新宿MAYHEM メン子の面倒の後始末 その3

          いつかきみがいた夏-きさらぎミッドサマー前日譚-

          こちらの台本は、座・シトラス アナザー公演vol.012『きさらぎミッドサマー』の前日譚です。 『きさらぎミッドサマー』 2022年7月16日(土)11時 場所:ジョイジョイ ステーション(〒176-0002東京都練馬区桜台1丁目2−8※西武線、桜台駅 南口から徒歩3分) 予約のURLはこちらからです。 https://www.quartet-online.net/ticket/riet2022?m=0tjejff ●登場人物 プレイヤーA:安野伸仕(あんの・しんじ)

          いつかきみがいた夏-きさらぎミッドサマー前日譚-