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the end of 『速強局の殺人』

どんな物語にも始まりがあり、どんな物語にも続きがある。でも『エイリアン2』になるのか『マトリックス リローデッド』になるのかは運命の分かれ道である。(どっちも好きな映画だけど)

『速強局の殺人 ~名探偵・子子子子子しご ねねこ 最後から4番目くらいの事件~』の上演が終わりました。『即狂館の殺人』の正統な続編。子子子子子には沖村彩花が続投。前作で嫌にならないでくれて本当によかった。

ここからはネタバレを含むあとがきである。作者は作品ですべてを語れとは言うものの、自分の思考を整理しマイルストーンとするためにも記しておきたい。

思うに即興演劇は、役者本人の持てる力全てが出るスタイルの演劇である。台本はないからどんな物語を紡ぐのか、役者はリアルタイムに自分の引き出しを開け続けなければならない。今回も素敵な役者がアッセンブルしてくれた。ある人に「お前の作品は、その役者の代表作になる」と言われたが、参加者全員がそう思っていただけていれば幸いである。

さて、『速強局の殺人』は、個人的な思いが大きく言って2つ込められた作品だ。

1つ目はミステリーに対する思い。「探偵って何だろう」という問いである。この作品では答えまでは出していない。主人公の子子子子子は、登場人物に話を聞き、犯人を推理し断定し、事件を解決する。しかしである。推理小説でもマーダーミステリーでも、用意された手掛かりが真犯人でない人物を犯人として指示していたらどうなるのか? 探偵は、大いなる真犯人の物語の上で踊っているだけではないのか? 私の気持ちとしては、京極夏彦の『絡新婦じょろうぐもの理』に、この『速強局の殺人』は影響を受けている。子子子子子は、明確にこの物語のラスボスと戦う。その時は、自分の感情や決断で物語を決定する。ただ、そのラスボスを倒したとしても、子子子子子は苦い思いをしている。戦いの結果、死ぬはずだった被害者の南家四二曹なんか しにそうは死ななかった。だが、それは探偵として事件を解決したことになっていない。事件を未然に防いだかもしれない、ADの虚木うつろぎアイからもお礼を言われる。それでも子子子子子の心は晴れない。探偵としてではなく、この事件に立ち向かい、終わらせたから。自分が探偵だと思っている子子子子子は救われていない。それでも彼女の物語は続く。ならば次の物語は、子子子子子が救われるものになるだろう。

2つ目は、即興芝居に対する思い。何かと言うと、お客さんにとって、台本芝居と即興芝居の違いの意味はあるのかということである。『速強局の殺人』は、即興芝居の意味を問う作品だ。観客からもらった言葉で物語を紡ぎ、しかもその物語を演じ終わった後に別の世界線の物語を演じる。ドラマや映画ではできないことをやっている。1回しか上演しないのが本当にもったいない。終盤では、「お前たちの即興で台本に勝てるのか?」とラスボスが訊いてくる。それに答えるのが虚木アイの「台本なんてブッつぶせ」である。主人公の子子子子子が言わないのは、この作品は間違いなく子子子子子の物語であり、本人の人生においては台本は見えないからだ。子子子子子の通った後が、子子子子子の周りから見た時、そこに子子子子子の物語が見える。そこに台本が見えるかもしれないし、即興芝居に見えるかもしれない。だけど子子子子子は、その場の感情や決断で自分の人生を生きた。沖村彩花の人柄もあるけれど、わけわかんなくなってブチ切れそうになっても、心がモヤッたとしても、彼女の通った後の物語は素晴らしかった。これからの彼女の活躍に、観客も期待するだろう。台本も即興芝居も手段に過ぎない。それでも、即興芝居が台本芝居より優れている点を、私はこの作品で見せたかった。

最後に恒例の、各キャストへの御礼である。

蔵本聡さま
今回の被害者、南家四二曹を考えた時、さとしさんしか考えられなかった。コメディリリーフにもヒールにも、ひょいひょいと動き回れるベテランの風格。死んで欲しけど死んで欲しくない絶妙な匙加減でした。

秋桜天丸さま
非常にバランスのいいインプロバイザーで、個人的にはバランスが良すぎると思っていました。けれど本番でとてつもないチャレンジをしてくれたし、元子役の悲哀とこっけいさと真剣さを舞台上にもたらしてくれた良き演技でした。

石川安牌さま
前作に引き続き、とんでもないキャラを持ってきてくれて感謝している。ただのパロディにならない作り込みで、記号でない人間味を各登場人物たちと醸し出してくれた。明晰な頭脳と真摯さの武器を持ち合わせる子子子子子シリーズの常連。次もまた????

加藤彩さま
最初にVote Showで観た時から、わけわからんくらい力増した女優。最初に「小豆とぎの役しかしない女優です」と言われたときも、その後に「樹木希林イメージです」と言われたときも、どんだけチャレンジフルやねんと思ったけど、物語全体を通してキャラの深みを演じきった名女優でした。

如月せいいちろーさま
『元漁師のコメンテーター』が何故大御所俳優を殺すことになるのか、そこからがキャラの面白みの出発点。本人の優しさ人の好さが、被害者への愛に満ち溢れていた。人情味のあるシーンを作り出してくれたことが嬉しかった。

西前美穂さま
初稽古の時に驚かされた即興芝居の感性を持つ役者。瞬発力と、期待に応える力がすごかった。ある意味今が旬な役だったけれど、作者の想定を超えて舞台上で輝いてくれた天才的で無敵な演じっぷりでした。てかみんな彼女と話したがり過ぎ。

宮澤さくらさま
今回は持ちキャラで参戦してくれて、役の立場上、得意のツッコミを作品的に自由気ままに使いづらい中で活躍してくれた。前も言ったけど、子子子子子シリーズにおけるツッコミは、物語の世界を支える武器であり、それができるのはさくらしかいない。そのうえ今回、キャラクターとしては作者のプラスのテーマの代弁者でもあり、その役割を全うしてくれたことに感謝している。

沖村彩花さま
まず舞台上でバチバチにやり合えたことに感謝している。飲み込みにくい設定でのラストバトルだったけど、マジで怒りながら来てくれて本当に楽しかった。多分、即興芝居で主人公とラスボスが戦えることなんて滅多になく、とてつもない演劇体験をお客様に届けられたと思う。子子子子子の中身は、沖村彩花によって私は学んで作られたと思っている。そういう意味で、出会えていなければ子子子子子は、私の中で名前が面白いキャラとして消えて行ったことだろう。命を吹き込んでくれてありがとう。繰り返しになるが、子子子子子としても、沖村彩花としても、このシリーズは心にモヤモヤが残っていると思う。けれどいつかそのモヤモヤを最高の形でエンタメに昇華して払拭するので、もう少し一緒に物語を作ってください。

それじゃあ最後に歌詞を引用するね。勝手にこの芝居のテーマソングと思っているLiSAの『REALiZE』。

いつだって期待してるのはそれ以上のフィナーレだろ
次のステージへ さぁいこう

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