いつかきみがいた夏-きさらぎミッドサマー弐式前日譚-
こちらの台本は、座・シトラス アナザー公演vol.012『きさらぎミッドサマー』の前日譚です。
『きさらぎミッドサマー』
2023年12月17日(日)14:30
場所:ジョイジョイ ステーション(〒176-0002東京都練馬区桜台1丁目2−8※西武線、桜台駅 南口から徒歩3分)
予約のURLはこちらからです。
https://www.quartet-online.net/ticket/voet202312?m=0ycfdbh
●登場人物
プレイヤーA:安野伸仕(あんの・しんじ)男 二十一歳 星乃圭吾
プレイヤーB:場當明晴(ばとう・あきはる)男 二十三歳 進藤恵太
プレイヤーC:信楽福礼(しがらき・ふくのり)男 二十一歳 ながいこうた
プレイヤーD:柁奈滋漓窪(だな・じりあ)女 二十歳 asyulan
プレイヤーE:蝦村弘彌(えむら・ひろみ)女 二十一歳 宮澤さくら
NPC:折節行一郎(おりふしぎょういちろう)男 五十六歳 NJ
折節行一郎
全王(ぜんおう)大学文学部人文社会学科民俗学専攻
身近にある民族学資料や郷土文化資料を分析対象とし、その成果を大きな歴史学的枠組みのなかに位置付けていくというのが、研究の基本スタンスです。全王大学には、三田キャンパス、日吉キャンパスを中心に、先史時代から現代に至る多種多様な資料が存在しており、研究する意義が見いだされたものなら何でも、時代を問わず研究対象にしています。
現在は、民族史観における他界概念の調査・研究にエネルギーを注いでいます。日本文化の起源にさかのぼる中で、日本独自の死生観の概念が民話というサンプルに諸現象として具現化されていると考え、演繹的に日本人を研究しています。
夏の昼のがらんとした大学の研究室に、シンジ、ジリア、バトーがいる。
シンジとジリアは向かい合ってPCを開いている。バトーは少し離れたところで、本を読みながらPC作業をしている。
ジリア「ねぇ、究極の質問」
シンジ「え?」
ジリア「目が覚めてどんな世界になっていたら幸せだと思う?」
シンジ「……考えたこともないな」
ジリア「考えて」
シンジ「考える」
ジリア「…………」
シンジ「…………」
ジリア「考えた?」
シンジ「考える」
ジリア「考えてないね」
シンジ「ジリアはどうなんだ?」
ジリア「あたし? あたしは、今のままでもいいな」
シンジ「ふぅん」
ジリア「シンジは?」
シンジ「じゃあおれも今のままでいい」
ジリア「そうなの?」
シンジ「そう」
ジリア「なんかないの? 何でもいいのに」
シンジ「……なんだろうな」
ジリア「欲がないねぇ。バトーは?」
バトー「俺? 俺はあるよ」
シンジ「聞いてたのか」
バトー「聞いてなくても聞こえるんだよ」
ジリア「何?」
バトー「卒論を書き終えたい」
ジリア「ストイックだなぁ」
バトー「いいだろ。お前らも書かないといけないんだから」
ジリア「嫌なことを思い出させる」
シンジ「卒論か」
バトー「お前、テーマ考えたか?」
シンジ「まぁ、なんとかなるよ」
バトー「気楽だなぁ」
ジリア「シンジは書き始めたらすぐ終わりそう」
バトー「要領がいいことで。なんか調べてるのか?」
シンジ「まだ何も」
バトー「無か」
シンジ「無だ」
ジリア「バトー何読んでるの?」
バトー「『遠野物語』」
ジリア「好きだねぇ」
バトー「いいだろ、結局これが俺の原点なんだよ」
ジリア「『遠野物語』は京極夏彦が書いた『遠野物語Remix』っていうのもあるよ。貸そうか? シンジに貸したら全然読んでくれなかったけど」
シンジ「分厚いから」
ジリア「『遠野物語Remix』は分厚くないよ。分厚いのは百鬼夜行シリーズだよ。『姑獲鳥(うぶめ)の夏』はまだ薄いから」
バトー「貸せよ」
ジリア「え?」
バトー「読むよ、『遠野物語Remix』。あと、そのウブいのも」
ジリア「『姑獲鳥の夏』ね」
バトー「それ」
ジリア「いいよ。姑獲鳥は夏に出るからね」
バトー「なんだよそれ」
シンジ「興味あるんだ」
バトー「ああ? ああ」
フクノリ登場。
フクノリ「こんにちは、お日柄もよく」
バトー「結婚式かよ」
ジリア「あ、フクちゃん」
フクノリ「あ、ジリア。今日もおしゃれ」
ジリア「うぇへへ」
フクノリ「何の話してたの?」
ジリア「姑獲鳥」
フクノリ「ああ、夏に出るからね」
バトー「なんだよそれ、有名なのかよ」
フクノリ「民話だよ民話。夜に「この子を抱いてください」って赤ちゃんを渡して来て消える幽霊」
ジリア「でも、東京の足立区でも、同じような話があったよ。この話、あたしシンジにしたよね?」
シンジ「そうだっけ?」
ジリア「したよ! 「足立区はやっぱり怖いな」って言ってた」
シンジ「言ったかも」
バトー「足立区に謝れよ」
フクノリ「足立区に限らないけど、子供を預けてくる幽霊の話は多いんですよ」
いつの間にかヒロミが入って来る。
フクノリ「赤ちゃんを預けられて翌朝そこに行くと岩しかなかったり。浜松でも赤ちゃんが捨てられ続ける岩とかもあるから。だから急に女の人が出てきたりするくらいで驚いてられないんですよ。(ヒロミを見て)急に女の人!」
バトー「驚くなよ」
ヒロミ「すみません」
フクノリ「ごめん! ヒロミ!」
ヒロミ「いえ、わたしが悪いんです」
ジリア「ヒロミ悪くないから」
フクノリ「ぼくがごめんなさい!」
ヒロミ「……大丈夫です。あの……」
フクノリ「何かな? ぼくにできることは何でも」
ヒロミ「今日は、ズコットを作ってきました」
ジリア「ズゴック?」
ヒロミ「フルーツケーキみたいな……(ズコットを出す)」
ジリア「形もズゴックみたい」
フクノリ「うわおいしそう、ていうかおいしい」
バトー「まだ食べてないだろ」
フクノリ「いただきました」
バトー「だから」
ヒロミ「食べてください」
ジリア「シンジ、コーヒーでいい?」
シンジ「何でもいいよ」
ジリア「何でもいいっていう時はコーヒーだ」
フクノリ「ヒロミすごいなぁ、いつもすごいの作る」
ヒロミ「いえ、みんなが食べてくれるから」
ジリア「主にフクちゃんが」
フクノリ「(むせる)」
シンジ「教授の分も残しておかないと」
バトー「いいこと言うけどもうないぞ」
シンジ「じゃあいいか」
フクノリ「いいかな?」
折節が入って来る。
折節「おや、ズコットですね」
バトー「一目でわかるのか」
フクノリ「すみません! 教授の分はありません!」
折節「ははは。大丈夫です。私は歯を痛めているので皆さんでどうぞ」
ジリア「教授、コーヒー飲みますか?」
折節「ありがとうございます。いただきます」
ジリア「はいどうぞ。シンジも」
シンジ「ありがとう」
フクノリ「こういう時彼女っぽい」
ジリア「どゆこと?」
フクノリ「いやなんでもない」
ヒロミ「フクちゃんはコーヒーよりこちらの方が……(紅茶のティーバッグを取り出す)」
フクノリ「うわぁぁぁぁありがとう!」
シンジ「声が大きいな」
折節「にぎやかでいいじゃないですか。何の話をしていたのですか?(シンジに)」
シンジ「姑獲鳥と浜松の話です」
折節「ああ、姑獲鳥は夏に出ますからね」
バトー「…………」
折節「浜松と言えば、信楽さんは地元でしたかね」
フクノリ「え? ……ああ、はい、まぁ、そうです」
シンジ「歯切れが悪いな」
フクノリ「ズコットを美味しくいただいているんです。あ、教授すみません」
折節「大丈夫です。あちらにも面白い民話がありますね」
フクノリ「はい、はい。卒論に活かせたら楽、いや非常に有意義なものになるかなと考えておりますつかまつります」
バトー「楽しようとするな」
ジリア「浜松行ったことないな」
フクノリ「浜松というか、奥鹿島って言って結構内陸だけどね」
バトー「実家?」
フクノリ「……実家」
バトー「夏休み帰るの?」
フクノリ「いや、帰らないですね」
ジリア「あ、みんなでフクちゃんの実家行くのはどうかな?」
フクノリ「え!?」
ジリア「卒論の取材」
バトー「なるほど一理ある」
ヒロミ「卒論……」
ジリア「書いた?」
ヒロミ「六割くらい……」
シンジ「早いな」
ヒロミ「でも、太平洋側の日本郷土のフィールドワークが足りなくて」
ジリア「奥鹿島」
フクノリ「内陸なんだけど」
折節「ゼミ旅行ですか、いいですね」
フクノリ「待って、実家は、うち狭いよ! 汚くて臭いし、3K!」
バトー「三つ目のKは何だよ」
シンジ「それは嫌だな」
ジリア「じゃあ他にホテルを取るとか」
ヒロミ「旅行……」
ジリア「(ヒロミに)興味ある?」
ヒロミ「えっと……(頷く)」
フクノリ「興味あるのか……じゃあ、来る? 奥鹿島?」
シンジ「行くか」
ジリア「決断が早い。(フクノリに)どうやって行くの?」
フクノリ「遠州鉄道で」
ジリア「遠州鉄道!」
シンジ「どうした?」
ジリア「あれですよあれ、なんとかっていう駅に迷い込んだ女の子が携帯で実況しながら行方不明になる怖い話の舞台。(シンジに)前話したじゃん!」
シンジ「そうだっけ?」
フクノリ「うちは怖くないよ! 多分……」
折節「柁奈さんは不思議な話が好きですね」
ジリア「うぇへへ」
折節「私の友人にも不思議な話が好きな男がいまして」
ジリア「あ、阿寒大学に行った」
折節「そうですね、柁奈さんは知っていましたね。でも……不思議な話には気を付けてください」
ジリア「この世に不思議なことなど何もないんですよ」
バトー「どっちなんだよ」
シンジ「ホテルを決めないと」
ジリア「生協で予約できるかも。ヒロミ、相部屋でいい?」
ヒロミ「あ、わたしでいいんですか?」
バトー「男三人、女二人の二部屋でいいだろ」
シンジ「いいんじゃないかな」
フクノリ「すごくいい宿とりましょう」
ジリア「じゃあ生協に」
バトー「展開が早い」
シンジ「いいんじゃないかな」
バトー「お前はそればっかりだな」
シンジ、バトー、フクノリ、ジリア、ヒロミは研究室を出て行く。
折節「(何かの集合写真を見ながら)確かに、去年の夏は、君がいましたね。この世に不思議なことなど何もない、ですか」
(XXXXの支度 完)
『きさらぎミッドサマー』
私NJが脚本、演出、そしてゲームマスター(!?)などを務めます。
都市伝説の『きさらぎ駅』のように、大学生5人が夏休みの旅行中に見知らぬ駅に降り立ったところから物語は始まります。
実は役者たちにも、何が起こるのかを教えていません。
役者も観客も予測不能なリアルタイムサイコロジカルホラーとなっています。
12月17日(日)14:30、1回限りの上演ですが、結末はどうなるかわからない1度きりの物語です。
是非ご来場ください。
『きさらぎミッドサマー』
12月17日(日)14:30
場所:ジョイジョイ ステーション(〒176-0002東京都練馬区桜台1丁目2−8※西武線、桜台駅 南口から徒歩3分)
予約のURLはこちらからです。
https://www.quartet-online.net/ticket/voet202312?m=0ycfdbh
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