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蘇る即狂館の殺人(或いは仲間たちへの御礼)

2023年6月2日~3日、『即狂館の殺人』という舞台がありました。作・演出のNJです。どんなお話かは以下の漫画をご覧ください。(ありがとう、よしはらヨシ先生! Twitter @deutsch_spiel )

あらすじ漫画 by よしはらヨシ

さて、こちらの演劇は導入までは台本があるが、途中からまったく台本がない即興芝居。そして、とある衝撃(!?)のエンディングについては、NPCである私と相棒の刑事と、被害者以外には伝えられていませんでした。

容疑者たちは、お客様が書いていただいた単語を使い、自分がどこでどうやって被害者を殺害したのかを探偵に説明します。また、自分がどういう思いで被害者を殺したかったのかを、他の容疑者とのシーンで語ります。そして探偵はそれらの話を聞き、誰が犯人なのかを決定します。言わば容疑者から探偵へのプレゼン・コンペが行われます。

真犯人を見つけるのではなく、探偵が犯人を決めるという逆転の構図のミステリー。大体台本のない芝居でミステリーをやろうなんてのがおかしい。正に即狂芝居。
しかし、芝居のキャッチコピーは『大いなる推理には、大いなる責任が伴う』探偵がエンディングを決めるというのに則った、これ以上ない文言です。
容疑者と探偵が、選択と決断を繰り返して物語を作る。この選択と決断というのが即興芝居の醍醐味だと、私の浅い見識で感じています。それぞれの容疑者たちが犯人だった世界線から、探偵が1つを選んで物語を1つに収束させる。1人の役者が背負うには大きい責任です。

しかし岩瀬(いわせ)刑事が探偵に言います。「あなたは1人じゃない」と。物語はみんなで紡ぐもの。だから決して恐れないで欲しい、間違いなどない、残った真実がすべてなのだから。

そうしてお客様にお届けしたのが、『即狂館の殺人』です。役者たちの生きざまと、お客様から頂いた言葉でも物語は作られた。どんな物語になったのか。まだまだ配信で観られる模様です。是非ご覧ください。

6/2 『即狂館の殺人』(6/16まで)

6/3 『即狂館の殺人』(6/17まで)

さてこれからは、NJとして各メンバーへの御礼です。

興梠去泰三(ころされ・たいぞう)&子子了一(しご・りょういち)役 稲垣杏橘
座・シトラスの座長でありながら、声はすれども姿は見えず、の御大。わっさんの演技を舞台で観たいと思い、高難易度の役をやっていただいた。偉大な方を、殺されるために舞台にお呼びする。とんでもない話です。でも『陽』と『真』とでも言えるような二面性を、板の上で発散していただけたのはとてもありがたかった。ずるいよなぁ。

札賀いする(さつが・いする)役 橋本我矛威
『きさらぎミッドサマー』に続いてNJワールドにご出演いただきありがとうございました。カオスな演技に加えてシリアスなカムイさんの演技が俺は好きなので、今回は営業部部長エリートビジネスマンをオファー。理性を超えた先の殺意も、対峙した相手も立たせる細やかな気遣いも、一番近くで観られて幸せでした。

九尾霧益也(くびきり・ますや)役 ながいこうた
設定上、一段階難しいことを要求していたのですが、本番では話の主軸になってくれました。楽しんでやってくれてたら嬉しいなぁと思いつつ、稽古場での安心感もありました。朗らかな中に狂気と凶器を隠しているのが素晴らしい。俺に最も近いネーミングセンスを持っているので今後も一緒に何かやりたい。

花餅ナランチャ(はなもち・ナランチャ)役 阿部秀斗
Zoomの面談で、この公演をとても楽しみにしてくれていた姿が印象的でした。飛び道具的要素とパッションを持っている中で、1人の人間を殺すというシリアスさに独自の戦法で切り込んでくれました。稽古期間中に、ナランチャをつかんでくれたみたいで、本番とても良かったと思う。こういう路線もやって行こうよ。

黒井十一(くろい・じゅういち)役 田沼ジョージ
『きさらぎミッドサマー』メンバー。本人から今回のキャラのモチーフの希望があった。名前はながいこうたと居酒屋で決めた。なかなか『ですぜ』が定着しなかったのも今となってはいい思い出。殺意を持ってシーンを締め上げてくれた感じがある。立ち居振る舞いにおいては動きにくいキャラだったかもしれないが、今度はアクションでも魅せてもらいたい。

八街です代(やちまた・ですよ)役 椿春樹
『ボクっ娘ヤンデレメイド』という趣味を押し付けましたが、本人が稽古場でノリノリでやってくれたので予想を超えてとんでもなくいいキャラになったと思う。こんな面倒臭いキャラクターをリアルタイムで舞台上で演じてくれて本当に嬉しい。声質と振る舞いが目を引くので、物語に花を加えてくれるのはとてもいいよね。

興梠去多乃音(ころされ・たのね)役 谷向美紅
座組としては初めましてだったが、偶然『昭和の恋人たち』でお芝居は拝見していた。こんなわけのわからん芝居に出てもらって大丈夫かな、と思っていたが、稽古場ではよく笑いよく食べていたので安心しました。夫の泰三への愛の執着は見事でした。オープニングで口元に人差し指を立てるポーズがお気に入りです。

子子子子子(しご・ねねこ)役 沖村彩花
俺が20年前に考えていた子子子子子のイメージに初見で最も近く、そしてそのように演じ切ってくれた見事な主演女優。子子子のハンドアウトの心情にとても寄り添ってくれたのではないか。多分稽古中いろいろ悩んでいたと思うけど、本番ではその悩みを見せず探偵を演じていたところがまた子子子っぽかった。一生子子子やってもらいたいとも思うけど、また別のシナリオでお会いできるのを楽しみにしております。

興梠去泰三(ころされ・たいぞう)&子子了一(しご・りょういち)役 小島啓寿
即興で固有名詞の2役というとんでもないキャスティングだったけど、圧倒的演技で魅せてくれた。楽屋で本番前に「今日はこれのために来た」と言ってくれたのが、(まぁ出番これだけだったのでそうなんだけど)とてつもない信頼感と心意気を感じた。殺されるために、自らを殺させるために、そういうリードと安心感を舞台上にばら撒いてくれた。スパイダーマンにおけるベンおじさんをやりきってくれた。ありがとう。

安藤路傍男(あんどう・ろぼお)役 石川安牌
ミステリーで、アンドロイドに改造された執事なんかいねぇよなぁ、と思いながら、こんなヘンテコな役に挑戦してくれた変人(ほめてる)。役に真摯に向き合い、LINEのやりとりでもキャラについて考察を行い、そして持ち込んだアイディア(あの衣装も含め)で路傍男を愛してくれた。成長性Aのスタンドか。他の作品でもぶっ飛んで欲しい。

小銭甚定(おぜに・じんさだ)役 伊波貴志
こちらも座組初めまして。めちゃくちゃ悩んで不安を持たれていたけど、それを隠すことなくさらけ出してくれて、逆に小銭甚定という『普通の人間』が人を殺すところをお客様に見せられたのではないだろうか。本番での殺害方法が流れるように美しく、ちょっと別のシナリオでもまた活かして欲しいので何かやりましょう。

格繰綾士(かくくろ・あやし)役 羽田洋
『きさらぎミッドサマー』で主演男優賞を獲得した彼ですが、今回は被害者の臓器培養クローンという「ちょっと待てぇい」な設定でやりたいとオファーをいただきました。見た目は真面目そうなのに楽しんで狂ったムーブをやってくれて、それがまた館にスパイスをもらえた気がする。稽古場でもテンション高くて、楽しそうなヒロはやっぱ素敵だった。

新京極冬彦(しんきょうごく・ふゆひこ)役 ロバート・ウォーターマン
本棚が同じという表現をよく使うけど、思考趣向が似ているマブダチ。『即狂館の殺人』の構造、目的を何よりも理解しつつ、その上でシリアスもオマージュもウェブシュートしてくれる頼もしい漢。一緒にパーキングの車で観た『スパイダーマン:スパイダーバース』は尊い時間だった。6/3の先陣を切ってくれてありがとう。

嘉手納ニワ(かでな・ニワ)役 石巻遥菜
『きさらぎミッドサマー』メンバー。嘘の付けない大らかな明るいキャラクターを演じつつ、舞台上に爆弾を放り込んで演劇の炎を燃え上がらせてくれた名役者。本番前のざっくばらんな俺の「どうよ?」という質問にも、即興芝居や人を殺すというテーマや舞台上でやりたいことを明確に考えて考えて考え抜いて応じてくれたいい人。次もやりましょう。

興梠去照和(ころされ・てるわ)役 asyulan
俺のシナリオに出てくれたことが何よりも嬉しかった。Vote Showなどでasyulanの出来る人な部分は今までも見てきたのだけど、信じられないくらいにamazingな魂をぶつけられて溺れた。あんたすげぇよ、以外の語彙を失うくらいに感動した。この作品でそんな奇跡を見せてくれてありがとう。底が知れない妖精、妖(あやかし)。

子子子子子(しご・ねねこ)役 大仲マリ
名前も姿も絵柄も存じている女優さんだったのだけど、ちゃんと共演するのは初めて。スケジュールをやりくりして出演してくれて本当にありがたかった。そもそもマルチバースを暗にテーマとしているこの作品で、アグレッシブな子子子を稽古一発目から発揮してくれたのはいい思い出。物語の中で、大いなる推理に対する責任への不安もホロリと表現してくれて、子子子は文字通り子どもなのだと感じさせてくれた。父と子の絆が涙ぐましかった。

岩瀬恵砂(いわせ・けいさ)役 宮澤さくら
あんたがいなかったらこの作品は成立しなかった。この『即狂館の殺人』は演劇の体を成してはいるものの、基本構造はバラエティ番組であり、そこで優れたお笑いの見識を持っているさくらがどうしても必要だった。2人が演じる探偵に寄り添い、観客と舞台の橋渡しをし、整合性をつけるツッコミができる類稀なる才能を、神様はお前に与えた。『大いなるボケには、大いなるツッコミが伴う』が、だけど「あなたは1人じゃない」のだ。最高でした。

両手に余るくらいの想いに溢れ、ちょうどよく思い出深い『即狂館の殺人』
次の作品がどうなるかはわからないが、またこんな物語を届けられたらと思う。
「次がコケないって保証は?」
「ないよ」
「そうか、信じて跳ばなきゃな」
ここでTK from 凛として時雨 『P.S. RED I』を流して暗転だ。


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