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外国にルーツのある子どもたちは、15才で社会人?

中卒段階での学力をアップし、その先の進路の「選択肢」を増やしたい!

目次
1 1990年2人のブラジル少年
2 日本語があいまいなのに、世の中に出でいくの?
3 漢字カードを使った子どもたち
4 高校入試は望む将来の入り口
5 次回予告

1 1990年2人のブラジル少年
1990年に入管法が変わって、5年生の担任だった私のクラスに外国人の子どもがやってきた。

かしこい少年が2人。ブラジル人だった。

私がポルトガル語を覚えようともがいている2,3ヶ月の間に、彼らは日本語の日常会話を覚え、小学校の教科学習にもついていくことができた。

「先生、中学に行ってもがんばるよ。」と言って、彼らは卒業していった。

しかし、彼らが中2になる頃、「あまり元気がないみたいだよ。」という情報が入ってきた。学力不足で、公立高校には入れない、経済的な問題で、私立の高校に入れないという現実が彼らに迫る。中学を卒業したら、就職しなくてはいけない。友達の日本人の子はみんな高校に行くのに、、、。こんな状況のため、彼らは学習意欲をなくし、明るさに陰りが出てきた。

「何もできない。」私はとてもむなしい思いにとらわれた。

それから、11年後、私はA小学校で、外国人担当になった。そのときの私の奮闘は、以前の記事で述べた通りだ。


母国と日本を行き来しながらも、高校進学を目指し、がんばる中3。小学校のときに、この漢字カードを使っていたことで、漢字学習はきらいではないS君。

2 日本語があいまいなのに、世の中に出でていくの?

外国にルーツのある子が小学校4年生で日本に来た場合、高校入試までの時間は5年しかない。日本人の子でさえ9年間かけて2000字以上の漢字を覚えていく。漢字を覚えることは、学習に必要な語彙を獲得していくことだ。

来日5年ぐらいの子どもの多くは日本語があいまいなままだ。

中卒で就職する子どもから、「履歴書を書かないといけないんだけど、手伝ってくれる?」という相談を受けたこともある。話を聞けば、その子は「現住所、最寄り駅、家族構成」などの言葉が分かっていなかった。もちろん、日本の社会ルールのことも、今ひとつ分からない状態だったと思う。こんな状態で就職させたくない。

できれば、あと3年高校で学ばせたい。どうすればいいのだろう。

(2012年の中卒就職率は0.4%、2018年度高校中退者を含む中卒の雇用形態は、正規雇用の正社員は35.4%  日本人を含む 厚労省) 

ここでも、カギとなるのは小学校の漢字だ。高校に入るには高校入試。そのためには、なんとか中学校の教科書が読めるようにしたい。教科書を読むには、やはり漢字が読めなくてはならない。就職するという場合でも、小学校の漢字が読めれば、仕事に必要な日本語が理解できるかもしれない。
そのためには、来日から高校入試までの短い期間でも小学校の漢字を読めるようになってもらう必要がある。そんな思いから、私は「日本語と母語の音の出る漢字カード」を作ることにしたのだ。

3 漢字カードを使った子どもたち

Kちゃん 
日本生まれ、日本で小学校に入学したものの、ペルーに帰国している内に日本語を忘れちゃった。

初めて、これを使った子。5年生だった。

同級生が5年生用の国語の教科書で学んでいるときに、彼女は漢字カードを使って、小学校1,2年で習う漢字を覚えていった。

ある日、「海」という漢字を学んでいたとき、彼女はその横に「マール」とふりがなを書いた。そのとき、私は「やったー!この子は漢字が表意文字だって分かったんだ。」と思った。「マール」それはスペイン語で「海」。

この教材を使うことで、Kちゃんは漢字学習が大好きになっていった。6年生になったころ、彼女は少女たちが好きなライトノベルを読むようになっていた。中学校で、もいろいろな人に支えられながら、Kちゃんはなんとか高校に入学した。

H君

ブラジル人 ブラジルではクラスで一番。小学生にもかかわらず、ポルトガル語のウィキペディアを読むことができる子どもだった。

通学団の年下の子に、「日本語ができない。」と馬鹿にされて、悔し涙を流していたこともある。

負けず嫌いな彼は、漢字カードを使って、半年で1、2年生の漢字を覚えた。半年後には4年生の漢字の宿題にも必死で取り組んでいた。6年生のときには、クラスで上位にはいっていた。ある日、社会科の教科書を読んでいた。「先生、この読み方であってる?」「あってるよ。あってるから何も言わなかったんだよ。」

彼は、2年間で、漢字の一部に読み方を示しているということに気づき、習った覚えのない文字も読めるようになっていた。にわとりの会応援者の支援もあり、進学校に入学。今は教員になることを目指し、大学に通っている。

 

大学入試を目指し、苦手な科目に取り組むH君。ボランティアさんも真剣だ。

I君

フィリピン人 小学校4年で来日。

この漢字カードを使って、3ヶ月で3年生までの漢字を覚えてしまった。4ヶ月目からは、在籍クラスの子どもたちと同じ漢字学習をしていた。高校入試の直前、彼は国語の入試問題の解き方を教えてほしいと言って、5年ぶりに私の前に現れた。2ヶ月必死で学んで、見事第1志望の高校に入学していった。

4 高校入試は望む将来の入り口

私が直接教えた子たちだけでも、15人。他の指導者に教えられた子どもの数は正確には分からない。漢字カード自体は400セット以上を届けてきた。日本だけでなく世界中に広がっている。使った子どもの人数は3000人以上になる。

どの子も高校に入学させたい。高校を卒業させて、その子の望む将来をつかませたい。日本のことがあまり分からないまま、諦めの気持ちとともに就職させたくない。

その子が母国で発揮していた力を日本でも発揮させたい。

そんな思いで作った漢字カード。今日もだれかの役に立っていたらうれしいな。

5 次回予告 漢字カードを届けたけれど、、、

「先生!漢字カードが上手く使いこなせません!量が多くて管理が大変!アプリにしてください。」といろいろな声が聞こえてきました、、、。ボランティア日本語教室の先生たちが使いやすい教材作りを目指している私は、この声に応えるべく、動き始めました!


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