親しくなったら、名前で呼んで
親しくなったらファーストネームで呼び合うのが習慣のようだ。
フランス語にだって「さん」や「くん」や「ちゃん」に翻訳できそうな言葉はあるけれど、日本語とは少し使い方が違うので、当然呼び捨てになる。
名前がわからないとやりづらいのか、初めましてのクラスメイトには必ず名前を聞かれた。
彼ら・彼女らは、覚えた途端に、まるで長年の知り合いのように何度も、わたしの名前を呼ぶのだった。
「あら、知らない?ニコ」
「ありがとう、ニコ」
「どう思う?ニコ」
「ニコ、昨日はよく眠れた?」
「また明日、ニコ」
◇◇◇
こんなにたくさんファーストネームで呼ばれたのは、初めてだった。
日本でだって、親しい人から呼ばれることはあるけれど。
上で書いた例のように、会話の端々に挟みこむようには呼ばれない。
なにかにつけて「ニコ」と呼ばれるたび、ほっこりした。
自分がここにいることが確認できるようで、相手との距離が近くなったことがわかるようで、嬉しかった。
◇◇◇
今日で最後の授業なの、と言うと、誰もが驚いた。
それはそうだ。
語学学校に通う人は、事情は違えど、みんなフランス語のレベルアップを目指している。
短くても、2-3ヶ月はいるものだ。
最初は一部の親しい人以外、誰にも今日が最後だと言わずにおこうかと思ったのだけれど、いやいや、それはよくないでしょう、と思い直した。
だってそうでしょう?
せっかく名前で呼び合うような仲になったんだから、ねえ。
もっと親しくなりたかったクラスメイトたちと、思いきってInstagramを交換したり、写真を撮ったりした。
先生たちにも、きちんと挨拶をして。
慣れないBise(フランス人がよくやる、両頬を近づける挨拶)をして、Biseがうまくなるまでフランスにいたかったなぁ、などと思った。
◇◇◇
「またね、ニコ」と言われるたび、「またいつかね」と返した。
うん、またいつか会えるでしょう。
それまで、フランス語の学習も続けなくてはね。
いつか会えた時、今よりもっとたくさん話せるように。
それと、わたしもなるべく、誰かを呼ぶ時は名前で呼ぶようにするね。
次に会えた時は、わたしも、何度も名前を呼ぶよ。
最後までお読みいただきありがとうございます。 これからもたくさん書いていきますので、また会えますように。