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料理を上達させるためにしてみた2つのこと

先日書かせていただいた《おいしいラタトゥイユ》のつくりかたの記事が、noteさんの「今日の注目記事」に掲載されました。たくさんの方にお目通しをいただいているようで、大変うれしく思います。note編集部の皆さま、記事を読んでくださった皆さま、ありがとうございます。

このラタトゥイユの記事を書いていて思い出したのですが、私はわりあい、シンプルな味つけのものが好きなようです。もともと肉でも魚でも野菜でも、素材そのものの味をまず第一に楽しみたいタイプなので、自然とそうなるのかもしれません。

以前、レシピ開発をさせていただいたお仕事でも、わりと本格的な欧風料理なのに(上のラタトゥイユと同じく)味つけはほぼ塩だけというのがあって、試食してくださった関係者のかたに、「こんなにシンプルな味つけなのにこんな奥深い味が出るんですね!」と驚かれたことが何度かあります。

そもそもそんな風になったのには、ちょっとしたきっかけのようなものがあり。思えば、今のような「できるだけシンプルなレシピ」を理想とするようになったのは、やはりヨーロッパに住んだことが大きいかと思うのです。


最初のきっかけ

海外での暮らしを始めてからというもの、やはりせっかくならば本場の味というか、本場の作り方というのをいろいろ知ってみたいという気持ちが強くなりました。それで料理や食文化を本格的に専門にし始めたのですが、その時に、さしあたり2つのことを自分に課すことにしました。


1. コンソメを使わない料理を目指す

ひとくちにヨーロッパといっても、東西南北、かなりの広がりがあるわけなのですが、やはり西洋の料理というと、コンソメを使うイメージが強い方が多いのではないでしょうか。

なにしろ市販のコンソメはとても便利。顆粒でも固定タイプでも売られていますし、とにかく手軽に使えます。さまざまな野菜やスパイスの風味が凝縮されていて、そこにチキンやビーフといった動物性の旨みまで含まれています。現地の人も、ふだんの食事作りにはもちろんよく使っています。

しかしあまりにも便利すぎるので、料理の腕を本格的にあげたい場合には少しだけ支障が出てしまうかもしれません。なぜって、そもそもそのコンソメにどんな食材が素材として使われているのか、そしてそのひとつひとつの材料がどんな風にからみあってその味を生み出しているのかなんて、まったく考えなくてよくなってしまうから。

少なくとも、私の場合にはそれがけっこうな大問題であるように思えました。コンソメを使えば、それこそすべてがコンソメで済んでしまうかもしれない。けれど知りたいのは、単なる料理の「作り方」なのではなくて、その向こう側にあるものでした。

ご存じの通り、欧風料理というのは、意外と使う食材の種類が多いのです。たとえば私たち日本人が言うところの「毎日のおかず」「ご飯がすすむおかず」を作る時に比べると、(料理にもよりますが)そろえなければならない野菜もスパイスも格段に多いこともしばしば。

それはたとえば、住環境や食生活のちがいだったり、市場での流通形態のちがいだったり、さまざまな要因が重なって成り立っている結果なのですが、とにかく私たち日本人からすると、初めて目にする西洋料理のレシピは「この材料って、どうしてもないとダメ…?」と思うことのオンパレード。

ふつうに毎日の食事を作るだけならばそんなには問題にならない、コンソメ使用。けれど、私は少なくともヨーロッパの家庭料理を学び、そしてそれを別の形で(たとえば日本でも作りやすいようにアレンジするなどして)発信したり、時には別のレシピのヒントにしたりする立場の人間なので、さすがにここを素通りするわけにはいきませんでした。

その食材を使う理由。ある料理を前にした時の、味の成り立ちを知ること。

レシピ制作にたずさわる上で、きわめて重要となるそんなポイントに、私はまず第一にコンソメを封じることで少しだけ近づけるようになった気がしました。


2. 醤油を使わずに味を考える

そしてもうひとつ気をつけたのが、お醤油の存在。フランス料理を専門にされている方がおっしゃっていたのですが、厨房では、まかないを作る際に、醤油の使用を全面的に禁止する、と。

これも、日々調理場でお仕事をされている方々にとっては自明のことだと思うのですが、醤油もやはり、私たち日本人にとっては万能の調味料なのです。

(留学当初、私もよくやっていましたが)それこそ市販のレトルトのクリームパスタソースにひとたらししたって美味しい。お醤油は、意外とクリーム系のソースにもよく合うんです。

しっかりした塩気。そして、単なる塩気だけでは終わらない、奥深い旨み。なにより小さな頃からずっと口にしていたものなので、もう体が覚えているというか、とにかく何に入れても醤油はそれを美味しくしてくれます。

でもこれも、残念ながらヨーロッパの料理を知る上では支障になりました。たとえば、ラムチョップを焼いた時に作るソースに、煮詰めたバルサミコとはちみつ、バター、そして醤油をひとたらし。絶対に美味しいに決まっています。

醤油は、個性的でありながらも汎用性が高く、ヨーロッパの食材にもなんなくなじみます。けれど、それにばかり頼っていると、ヨーロッパの人がもともとどんな味つけで料理を食べてきたのか、それがわからずじまい。

ですから、ラムチョップを焼いたあとのソースは、たとえば煮詰めた赤ワインと塩、そしてバターのみにしてみる。そんな風に、日常生活のなかでも人知れずささやかに注意を払いながら料理をしていたことを覚えています。


「選べる」時代をたのしむ

今回は自分の経験で、料理におけるコンソメと醤油を例に挙げてみましたが、こういうことって、きっと何ごとにもあると思うのです。

今のままでも十分満足できるし、特に困ることもないのだけれど、今よりもちょっとだけ視野を広げてみたいと思うなら、やり方を少し変えてみるのも吉。

もちろん、コンソメやお醤油は便利だし、むしろそれを使った料理をガッツリ食べたい時だってあると思います。なにより、時間のない時や、味つけを考えるのが億劫な日にはこんなに味方になってくれるものはありません。

実際、冷蔵庫の余り野菜や端っこ野菜をざくざく刻んで、コンソメとガーリックパウダー、黒こしょうで煮たスープなんて、疲れている日には至福の美味しさです。

そして食欲のない日には、焼き海苔にお醤油をつけて、白いご飯をただ巻いて食べる。醤油という調味料の底力の凄さを見せつけられる、そんなごはん。これもまた格別です。

いま私たちは、さまざまなものが「選べる」時代にいるので、本当に幸せなことだなと感じます。なにしろ昔だったら、コンソメなんてないですし、どんなに大変でも食材をいちから煮込んでスープをとるしかなかったのですから。

でもそんな時代だからこそ、時にはいつもの「あたりまえ」を排除して、ちょっとちがった目線で料理をしてみるのもいいものです。今までなんとなく作っていた料理が、自分好みに美味しくできるきっかけを得られたり面倒なひと手間だと思っていた作業に思わぬ意味を見いだせたり。そしてなにより、「これ本当にいるの?」と思っていた調味料や食材を、迷うことなく店頭で購入することができるようになったり…! そんなささやかながらも素敵なことが、毎日の食事作りをより楽しいものに変えてくれるかもしれません。

おうち時間の過ごし方がますます多様になっているいま、そんなお料理の時間を持てるというのも、ちょっと楽しいことかなと思います。

本日も、最後までお読みいただきありがとうございました。

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