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読書紹介 ミステリー 編Part15 『貴族探偵』

 どうも、こぞるです。
 本日私がオススメするのは、麻耶雄嵩先生による『貴族探偵』です。
 麻耶雄嵩先生は『メルカトルかく語りき』以来の2作目ですね。今作も一癖も二癖もあります。

ー作品内容ー
信州の山荘で、鍵の掛かった密室状態の部屋から会社社長の遺体が発見された。自殺か、他殺か? 捜査に乗り出した警察の前に、突如あらわれた男がいた。その名も「貴族探偵」。警察上部への強力なコネと、執事やメイドら使用人を駆使して、数々の難事件を解決してゆく

 学生の時、初めてメイド喫茶に行ったら、思ったよりキャピキャピしていなくてびっくりしました。

曲者揃いの名探偵

 前述の通り、他作品でも記事を書いたのですが、作者様の生み出す探偵は、まあ、クセが強いです。今作の探偵は、使用人たちから「御前様」と呼ばれる自称貴族であり、本名が最後まで登場しません。そして、捜査をしません。
 美女を助けるために首を突っ込み、殺害現場で紅茶を飲みながら、傷心の女性を癒しつつ、使用人に捜査を指示します。そして、情報が集まったところで、使用人たちが推理を始めます。
 事件に関して、本当に貴族探偵は何もしません。周りからも「あなたがするんじゃないんですか」と突っ込まれます。しかし、その度に彼は言います。
「どうして私がそのような雑事をしなければならないんですか。雑事は家人がするものです。」
 そして、さらには、使用人は私の所有物だから、使用人の推理は私のものだとも言い切ります。なんだこの探偵。

 では、じゃあポンコツなのかというと、それも違うのです。貴族探偵が推理ができるかどうかは明確に言及されませんが、貴族・・・というか上流階級としての立ち振る舞いはパーフェクトです。紳士的なマナー、周囲(というか女性)への気遣い公僕や市井の者への態度。美しさすらあります。だからこそ、一切何もしていないのに、たいしたことがない人物だと全く思えない。
 ページをめくるたびに、実はこいつが一番すごいということが明かされるのでは?!と期待させられます。
 その答えが知りたい方は、ぜひ読んでみてください。

王道ミステリー

 と、ここまで書いていると、ミステリーの方も一癖も二癖もあるのかと思いきや、事件とその解決に使われる論理トリック自体は、王道です。きれいですっきりするし、ミステリー慣れしていて、考えたい人であれば答えが導き出せるものもあるでしょう。
 細部はもちろん違いますが、こういう事件みたことあるなというような、既視感を覚える事件もあります。

 ほうほう、なるほど。一風変わった推理スタイルと探偵が王道のミステリーを解決していく話か。なんて思いきや、それだけでも面白いでしょうに、麻耶雄嵩先生は、まだまだ捻りを加えてきます。

次元の差

 基本的に、麻耶雄嵩先生の作品は本格的なミステリー作品を皮肉るというか、斜めから見る部分があります。
 これまでの作品でも、探偵が事件を論理的に組み立てたら犯人がいなくなったり、探偵が神様だから最初から全て分かってたりしていたのですが、今作では上記のように事件そのものは本格です。ただし、その事件の我々読者に対する提供の仕方にひねりを入れたりするなど、相変わらず、ミステリーというものそのものに挑むことは変わらずに行われています。

 また、これも各作品で核に置かれていると感じるのが、名探偵の非現実性です。探偵小説というものが増えてきてから今日までに、名探偵という人間を深める作業が様々な作品で行われており、名探偵を人間的にすればするほど、そんな職業が成りたたなくなってきました。
 特に、科学捜査が著しい発展をしている今の世の中、「職業:名探偵」で生きていくことはほぼできません。作品がリアルであればあるほど、違和感のある存在になります。なので、ミステリー作家がたまたま事件に巻き込まれたり、そもそも探偵役が警察だったり、数多くの事件を扱うシリーズものでは殺人にかかわれないので、日常の謎系が多かったりもします。

 そんな中、今作ではあえて名探偵というものを貴族という、我々の生活圏とは別次元の人間を名探偵に据えています。実際に日本に貴族はいないので、どこぞの御曹司かな?という設定ではありますが。
 これはある種、現代ミステリーへのフックでもありつつ、1つの開拓でもあります。一見コミカルでバカバカしい設定だけれども、それを成り立たせているキャラクターと世界観。
 チャップリンの名言としてしられる「人生はクローズアップで見れば悲劇 ロングショットで見れば喜劇だ」という言葉がありますが、この作品は、あまりにも喜劇な設定をクローズアップで写すことで、あたかも、名探偵が現実的なものであるかのように見せるという強さを持っています。

さいごに

 最近(と思ってたけど3年前でした)、ドラマ化された作品でもあるので、タイトルの認知度は高いのではないでしょうか。ドラマを見ていないので、何も言えませんが、作中なんども書かれている口髭は付けて欲しかったなとちょっと思いました。まあ、小説は小説、ドラマはドラマですけどね。

 中身は5作の短編からなっています。寡作で知られる作者ではありますがなんと10年かけて世に出した5本となっていますので、1つ1つが見事なクオリティとなっています。個人的には「こうもり」が一番好きでした。
 ミステリ好きな方なら、共感してくださる方も多いのでは?

 興味の出た方、ちょっと本格ミステリから離れてみたくなったかた、嵐の相葉さんのファンの方、ぜひ読んでみてください。


それでは。




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