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読書紹介 ミステリー 編Part2 『メルカトルかく語りき』

 どうも、こぞるです。
 本日は麻耶雄嵩作の『メルカトルかく語りき』の紹介です。
 麻耶雄嵩先生は、3年ほど前にドラマ化された嵐の相葉さん主演「貴族探偵」の作者でもあります。
 なんとしかし、Part2にして、すでに変化球ですね。しかも、カーブとかフォークではなく、ウェイクフィールドばりのナックル。

-作品内容-
悪徳銘探偵(メルカトル)と五つの難事件、怜悧な論理で暴く意外すぎる真実の数々! ある高校で殺人事件が発生。被害者は物理教師、硬質ガラスで頭部を5度強打され、死因は脳挫傷だった。現場は鍵がかかったままの密室状態の理科室で、容疑者とされた生徒はなんと20人! 銘探偵メルカトルが導き出した意外すぎる犯人とは――「答えのない絵本」他、全5編収録。麻耶ワールド全開の問題作!!

 さて、みなさんにとって、名探偵とは何でしょうか。複雑なダイイングメッセージを解いたり、バリツを用いて悪党を薙ぎ払ったり、目が覚めたら体が縮んでいたりと、おそらく、その答えは人の数だけ・・・は言い過ぎかもしれませんが、多様に存在するでしょう。
 しかし、今作に登場する銘探偵(誤字じゃない)メルカトル鮎さんは、少し変わった探偵としての活躍をしています。

 この小説に出てくるメインのキャラクターは前述の探偵メルカトル鮎、それから、その捜査ぶりに付き合わされる小説家の美袋くんのコンビです。その他の登場人物は各お話ごとに、全く違った面々となっています。しかし、ミステリーものは、小説家(とくにミステリ作家)の登場が非常に多いですね。Part1の有栖川有栖もミステリ作家のワトソン役でした。
 
 このメルカトルさんですが、キャラクター像を説明するには、セリフを一つ抜き出してみると、わかりやすいかもしれません。

「ついでに彼らに生じていた疑心暗鬼も取り除けたのだから、褒められてしかるべきだと思うがね」

 どうでしょう?つかめましたか?
 キザなセリフ回しに、尊大な態度と、冗長なセリフ回し。背景が全く見えないにも関わらず、圧倒的な推理力で事件へと立ち向かう。そんな銘探偵です。なんだったら、見た目もタキシードにシルクハットである。
 おそらく、このあまりにもあまりにもな探偵像というのは作者が名探偵というものをある種メタ的に描いた姿でしょう。
 そしてそれは、キャラクターだけでなく、この作品をもメタ的なミステリーへと変える力をも持っています。
 いや、メタ的というか・・・実存主義的ミステリー?不条理ミステリー?

 では、そのチョメチョメミステリーとは、どういうことかというと、
[この本に出てくるお話は、銘探偵が完璧な推理力で、すべての供述や状況、証拠を基に論理的に謎を解明した結果、真相が現れずに終わる]というところがポイントかと思います。
 真相が現れないのです。おかしな話ですね。だって、推理は見事なロジックを組み立てているのに。
 けれども、そういった、論理的結末と真相の食い違いがこの本の最高に面白いところです。
 なので、もし、名探偵がスパッと解決して、犯人がその悲しい背景をつらつらと供述をはじめ、その心理について自分の胸の中で昇華させる・・・そういったものを望んでいる人からすれば、この本は真反対のものとなるでしょう。
 ただ、一体何を読ませられたんだ!という衝撃と、ミステリーの新たな角度からの面白さを与えてくれます。
 また、どれも面白いのですが、5作からなる短編のうち、後半2作はすごいですね。きっと、私にミステリーのネタを100本考えろと言われても出てこないでしょう。

 ちなみにですが、本書に出てくるメルカトル鮎さんは、シリーズものとして他の作品にも出ていて、むしろ出版順的にはこちらは後半の作品となります。ただ、正直この本から読んでも何も問題ないです。
 よくシリーズもので、どこから読んでも楽しいですと書いてあるのに、結局1から読まないとわかりにくいところがある。なんて作品もありますが、これに関しては問題ないです。

 ミステリーを初めて読む人には決してオススメしませんが、個人的にはひじょうにに好きな本です。昨今の小劇場演劇好きな人とかは恐らくハマるんじゃないでしょうか。この不条理ミステリー?実存主義ミステリー?ゴドーを待ちながらミステリー?シュレディンガーのミステリー?的な作品に。

では、この辺で。






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