とある神経科学を研究している院生です。自作の小説やアニメの話、SF・神経科学の本につい…

とある神経科学を研究している院生です。自作の小説やアニメの話、SF・神経科学の本についての書評もやっていこうと思ってます。ペーパー医師。

マガジン

  • 庭の人格を形作った100冊

最近の記事

小説「堕ちていく天国」

 同人SFアンソロジー『圏外通信 2021』に収録された短編小説を公開します。(現在は『圏外通信 2021裏』と合わせた電子版が販売されています。)  BLAME!×〔少女庭国〕という感じです。もともとは百合文芸コンテスト向けにpixivで発表したものを改稿したという経緯があります。  硬質な音を響かせながら螺旋階段を上がっていく人影があった。全身を黒い外骨格と人工筋肉で覆っているが、線の細さと顔立ちから判断するに女性だ。それも少女だった。身長は190cmほど、長い黒髪と鋭

    • 庭の人格を形作った100冊(100/100)

      part4、つまりラストです。 前回↓ 76. 西欧精神医学背景史 【新装版】 中井 久夫 背景史というだけあって、教養人というものについて考えさせられる博覧強記を思い知らされた。 77. 計算論的精神医学: 情報処理過程から読み解く精神障害 国里 愛彦,片平 健太郎,沖村 宰,山下 祐一 精神を行動と知覚と学習の連環の中でのアルゴリズムと計算原理のレベルから見ることで、精神疾患をそのパラメータの異常などととらえて、生物学的基盤と対応関係を調べることで実装の領域に踏み込

      • 庭の人格を形作った100冊(75/100)

        part3です。 ↓前回 51. くらやみの速さはどれくらい (ハヤカワ文庫 SF ム 3-4) エリザベス・ムーン 発達障害とその”治療”が自己という存在に対してどのような意味を持ちうるのか改めて考えるようになった。”くらやみの速さ”という問いも心に残り続けている。 52. シベリアの掟 ニコライ・リリン 全く想像もできない犯罪者たちの、異常にしか見えない誇りと歴史の価値観を垣間見た。異質なものを知ることは視野を広げるきっかけとなる。 53. 脳・心・人工知能 数理

        • 庭の人格を形作った100冊(50/100)

          part2です。(2/4) 前回↓ リストのリンク https://bookmeter.com/users/198458/bookcases/11833038 26. 方法序説 (岩波文庫) デカルト “我思う、ゆえに我あり”はしばらくの間自身の存在の基盤となったが、「俺は思ってないから意識ないよ」と友人に言われてからは揺らいでしまった。 27. イェルサレムのアイヒマン――悪の陳腐さについての報告 ハンナ・アーレント 人間本性についてこのころからある種のあきらめを

        小説「堕ちていく天国」

        マガジン

        • 庭の人格を形作った100冊
          4本

        記事

          庭の人格を形作った100冊(25/100)

          教養人になりたい大学生に読んでほしい100冊のリストがカス!みたいなツイートが流れてきたので、じゃあ俺みたいになるような本のリストを作ろうとなったので書いてます。 選考基準は自分の思想と人格に影響を与えた本で、いい本であるとかお勧めの本であるとかは意味しないです。 とりあえず4分の1ずつ分けて投稿。書きながら変わったりするかも。 リストのリンク https://bookmeter.com/users/198458/bookcases/11833038 part2 https

          庭の人格を形作った100冊(25/100)

          マンガ101選

          少し前にマンガ101選の記事がTLで盛り上がっていたので、自分がいま把握している範囲で101の漫画を選んでみた。特に選出理由や制限はなく、ただ好みを並べただけで、出来の良さですらないです。順番も意味はないです。 1. 神々の山嶺 2. みどりのマキバオー 3. 惡の華 4. 宇宙怪人みずきちゃん 5. 火ノ丸相撲 6. 進撃の巨人 7. チェンソーマン 8. マイ・ブロークン・マリコ 9. ご飯は私を裏切らない 10. プラネテス 11. はねバド!

          マンガ101選

          『脳のリズム』の読書メモ(まだ読んでない)

          「文系は作者の気持ちでも考えてろよ」という、使い古されたいわゆる文系への煽り文句がある。 もちろん、大学入試までの現代文の試験問題では登場人物の心情を問う問題はよくあるが、作者の気持ちを問う問題はまれであり、そもそもあまり正確ではないし、作者の気持ちを考えることは普通に学問としても、日常生活の技能においても重要なスキルだろう。 ところで、筆者の気持ちを推察するという技能は、大学以降の学問ではむしろいわゆる理系(もちろん学問においてこのような二分化自体が不毛であることは言うまで

          『脳のリズム』の読書メモ(まだ読んでない)

          『創造性の脳科学』を読んで

          2章 ホジキンハクスレーモデルは神経生物学的に自然なモデルで神経活動を記述でき、実験データに合わせたことによって指数の値がイオンチャネルのゲートの数を予言したのが大変偉いのであり、本書のような神経生物学と完全に独立したモデルはいくら活動をよく記述できてもそこから神経生物学、神経生理学的に意味のある知見、たとえば摩擦の項などが実際の神経活動において何に対応するかが出てこなければただのおもちゃである 3章 発火の同期度が活動に影響するというのはSTDP(ヘブ則のゲイン変化の強度

          『創造性の脳科学』を読んで

          読書メモ『快感回路』

          第一章 パーキンソン病は学習や時間知覚、自己主体感なんかも変化する 第二章 アヤワスカについては『雑草で酔う』が詳しい ムシッモール(ムシモール)はGABA作動薬で、神経の不活性化実験によく使われる オピオイドは中脳水道灰白質など 依存を行動との連合で説明しているが、オピオイド鎮痛剤は沈痛時のみに使うと依存症になりにくい、疼痛下では内因性のオピオイドが出ており、受容体の種類ごとへの効きの強さが非鎮痛時と異なるなど、そもそも薬理学的に異なることが分かってきている D1は直接路、

          読書メモ『快感回路』

          読書メモ『脳のなかの自己と他者』

          一章 p5 指向性 瞑想などによって対象のない意識ができるかも(あるいはそれはもはや無我で意識ではないのか) p12 幻肢 情報によって修正するのはたやすいが、情報がないことによって修正するのは難しいという非対称性が幻肢の頑強性に関係か p13 視覚像が付加されたというのではなく 人間の感覚は多感覚の情報を最尤推定などで統合し推測を経て行われる、情報がない(非常に信頼度が小さい)体性感覚と鮮明な視覚が統合されるとき、より信頼度が高い情報に引っ張られるのは計算論的にももっともで

          読書メモ『脳のなかの自己と他者』

          『ブラインドサイト』神経科学要素全解説

          上巻 p16根治的大脳半球切除術  自閉症者は神経刈込が不十分という話もあるし、半球を一つにするということで負荷をかけて学習を適切に起こすようにするものか?シミュレートに特化しているのも後天的に脳をしばいたためっぽい もともとの意識がなぜ失われたかというのは謎(ハーモニーでは逆にこのシミュレートによってミァハは意識を得ている) 半球切除術は少ないがてんかん等に実際に行われる術式。片麻痺、半盲のほか右半球では空間失認が、左半球では失語が起こるはずだが、本作では何らかのしばきによ

          『ブラインドサイト』神経科学要素全解説

          『意識の神秘を暴く』を読んで思ったこと

          https://join.slack.com/t/neuro-reading/shared_invite/zt-ep7jcd80-zDFfDSyyWBQpxdxXvqobZA 神経科学関係の読書会を行うためのslackを作りました。興味があればぜひ参加ください。このslackで『意識の神秘を暴く 脳と心の生命史』の読書会を行っているので、自分の書評として読んだ際の疑問点や批判をまとめる。 2章 ・4つのギャップを出し、のちに意識の条件として扱うが、クオリア以外は意識の有無

          『意識の神秘を暴く』を読んで思ったこと

          世界に抗う異形と花 ラヴクラフト・花物語・キリスト教

          “世界は私に対し、また私も世界に対して十字架につけられたのです。“ ――ガラテヤの信徒への手紙 H・P・ラヴクラフトはアメリカの幻想怪奇作家であり、コズミックホラーと呼ばれる、独特の世界観を共有した一連の作品群“クトゥルフ神話”で広く知られている。クトゥルフ神話では、邪神などの異形の怪物たちが存在し、人間やその理性はあまりにも矮小な存在であるといった内容が描かれている。 一方、『花物語』とは吉屋信子によって書かれた一群の作品をまとめた連作集のタイトルである。繊細な心模様を数

          世界に抗う異形と花 ラヴクラフト・花物語・キリスト教

          無力という現実感 よみがえる空第3話「苦しい仕事」

          "That others may live" 救難隊のモットー アニメ『よみがえる空 -RESCUE WINGS-』は、戦闘機パイロット希望だったが救難隊のヘリパイロットに配属された主人公が様々な、困難にぶつかりながらも救難隊員として成長していく物語である。地味ながらも厚みのある描写が評価されているいぶし銀のような隠れた名作である。 特にすさまじいOVAの13話についてはこちらのブログが詳しい  さて今回は1から3話のエピソード、東うるま島地震での救助活動、特に3話「苦し

          無力という現実感 よみがえる空第3話「苦しい仕事」

          白銀リリィ ~定命者は手を伸ばす~

          "Carpe diem 今日という日の花を摘め" ――クィントゥス・ホラティウス・フラックス 白銀リリィとは、TVアニメ『アイカツスターズ!』に登場するキャラクターである。今回は彼女の気高い意志について書く。 『アイカツスターズ!』では多くのアイドルたちが四つ星学園というアイドル学校で互いに切磋琢磨しトップアイドルを目指している。四つ星学園には4つの組があり、それぞれ歌手、女優、ダンサー、モデルを目指している。そして、年一回のオーディションで選ばれる各組のトップはS4と呼

          白銀リリィ ~定命者は手を伸ばす~

          『今日の5の2』の昨日のあの日

          ”多くの世代の薔薇が時の流れの底に消えていった。せめて一輪でも忘却を免れてほしい。” ――ホルヘ・ルイス・ボルヘス『 薔薇とミルトン』  『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない』2話において、ポケモンをモデルにしたゲームが登場し、秘密基地に集まってみんなでゲームをしたという思い出が失われた過去を象徴し、高校生になった主人公たちが通信ケーブルによる協力プレイによってあの頃の関係に戻るというエピソードが話題になったことは記憶に新しいだろう(2011年は結構前だが)。この時、ノ

          『今日の5の2』の昨日のあの日