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『創造性の脳科学』を読んで

2章
ホジキンハクスレーモデルは神経生物学的に自然なモデルで神経活動を記述でき、実験データに合わせたことによって指数の値がイオンチャネルのゲートの数を予言したのが大変偉いのであり、本書のような神経生物学と完全に独立したモデルはいくら活動をよく記述できてもそこから神経生物学、神経生理学的に意味のある知見、たとえば摩擦の項などが実際の神経活動において何に対応するかが出てこなければただのおもちゃである

3章
発火の同期度が活動に影響するというのはSTDP(ヘブ則のゲイン変化の強度が発火の時間的距離の関数になるというもの)などの修正されたヘブ則で使われるが、これはin vitroの研究での知見で懐疑的な人もいる さらに一般的には同期度より発火頻度を大切に考える 神経活動の同期現象についてはスパイクではなくLFPについて考えるべきでは(LFPや脳波はスパイクというアウトプットではなくインプットを反映していると居られている)
能動的に見ようとすると見えるというのはヘブ則ではなく注意などで考えるのが一般的、ヘブ則はあくまでシナプスの生化学的な過程による長期記憶的なものであり、認知による見え方の変化はシナプス的ではないゲイン変化などだろう

4章
遅延反応課題で持続的反応を示す細胞は頭頂葉にもある
目標と行動と方策に関する学習は今は強化学習の文脈で行われるのが普通
ゆらぎを大きくして大域解を探すのは焼きなまし法っぽい。これはパラメータ空間の多様体上をうまく歩いているだけで、創造性とはいいがたい

6章
ずっと仮設となってるけど仮説じゃないの?
ベイズ脳的な世界観なら過去の学習と直前や周りの状況によって事前分布が作られることで文脈依存性などは解決できる、仮設ではなく確率分布として表現される
事前確率間の空間的関係はKLDなどを使って情報幾何でできるのでは
ハフ変換の具体的な神経回路の記述がなく、とても現実的な理論とは思えない

最終章
一見見返りを求めないように見えるものは遅延報酬課題と考えたり、遺伝子レベルでの適応度による利他行動という進化的適応と考えられる
予想しえないことに対して確率的なモデルを持って不確実性ごとモデル化できるので、知り得なくても知ろうとするみたいなのは情報を求める内発的動機で説明できる。ルールスイッチ後の再学習もメタルールも強化学習と生得的バイアスで説明しうる。とくに、現在の情報理論的な計算論的神経科学では、モデルの修正をベイジアンサプライズなどで定式化しており、こういったものに対する議論が不足している。筆者の言う見返りのなさや愛とは必ずしも通じない

総評
モデルも理論も思想も現実から遊離している。様々な生成モデルや強化学習が創造性を発揮している中でそれらを無視して生物の特別性を議論しているし、世界の不確実性を議論する際に複雑系を雑に援用しつつ情報理論的な知見が無視されがちなのが疑問だった。あとゲーデルの不完全性定理が量子力学やカオスと並んで決定論的世界観を覆した発見として挙げられていたが、ハイゼンベルグの不確定性原理の間違いでは?

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