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無力という現実感 よみがえる空第3話「苦しい仕事」

"That others may live" 救難隊のモットー

アニメ『よみがえる空 -RESCUE WINGS-』は、戦闘機パイロット希望だったが救難隊のヘリパイロットに配属された主人公が様々な、困難にぶつかりながらも救難隊員として成長していく物語である。地味ながらも厚みのある描写が評価されているいぶし銀のような隠れた名作である。
特にすさまじいOVAの13話についてはこちらのブログが詳しい 

さて今回は1から3話のエピソード、東うるま島地震での救助活動、特に3話「苦しい仕事」における死の扱いの現実感について書く

配属早々地震により被害を受けた離島での救助活動に参加することになった主人公。
主人公が喘息の老人の薬を取りに行ったついでに猫を助けたのを見た女の子が、一人で犬を助けに避難所を抜け出してしまう。
余震によってがれきに挟まれた女の子は少しして救出されヘリで搬送されたものの、クラッシュ症候群で病院到着直前に死亡してしまう。
責任を感じ謝罪のために病院に残った主人公だが、泣き崩れる両親に会うことをためらっている時に葬儀会社の営業を受け、耐え切れずに殴ってしまう、というのが大筋の流れだ。

搬送中、逆風下で燃料がギリギリという状況になり、引き返すかどうかという中、ベテランパイロット本郷が海自の護衛艦に曲芸ともいえる技術で着艦し海上給油を行うことで状況を打開し、停電で病院の場所が分からなくなる中でも市民が協力し車のライトで病院の着陸場所を示すといったドラマチックな展開が起こった。誰もが協力し、最高の技術を持った人間が全力以上のことを尽くしたが、それでも助けられなかった。本郷の言葉を借りれば「救難ではよくあること」ではあるが、これは努力や強い想いが報われる物語に慣れ親しんだ視聴者や、初めて救難の仕事に参加した主人公にとっては世界観をひっくり返すようなあまりにもショッキングな出来事である。主人公はそれなりに読書をする人間であり、ここで物語と現実の差に打ちのめされる。
また、2話では死後の被災者間のトラブルまで見ている発言を先輩隊員がしており、あくまでもリアリスティックに最悪の場合も想定して動くことを当然の行動としている。その一方主人公は女の子の父親に「必ず助けます」と約束してしまう。
帰投後に本郷が娘(なくなった女の子と近い年齢)から読み聞かせられた本は鬼から姫を若者が救い出すという話だ。これも女の子を救えなかった若者という現実との対比である。
この話では、徹底的に救難の現場では現実としてどうしようもない死と直面し続け、それに現実的に対処しなければならないということを描写している(3話では発見時既に死亡しているというパターンも描いている)。
物語と違って人の想いやドラマチックさと起きる出来事は関係がなく、現実ではいくら全力を尽くしても助けられないことがある。救難の現場では、死は理不尽に無慈悲に、ドラマとは関係なく起こりえるのだ。この無力感に徹底的に打ちのめされる主人公の描写に、視聴者は圧倒的な現実感を見るのである。
最善の選択をしたものが死に、そうでないものが生き残ることもあるという現実の死の理不尽さは最終エピソードでも繰り返し描かれる。この時の主人呼応の受け止め方の変化は救難隊員としての成長を感じさせる。このアニメは死をこのように徹底的にドライに描きながらも、決して悲観的であったり露悪的であるわけではない。先輩救難隊員たちはどれだけ厳しい現実を知っていても決して絶望せず、生に賭け、自分たちができる限り全力を尽くす。なぜならそうするしかないからだ(この辺りは6話と7話で語られる)。そしてここで打ちのめされた主人公も、物語を通して成長する。その様子はぜひ本編で見てもらいたい、

今回は徹底的な死への現実感のみを取り上げたが、このアニメの本質は先に紹介した13話の記事のように、細やかで厚みのある描写の数々である。言葉でなく演出で語るその様子はある種映像作品の到達点であるともいえるほどである。GW中にぜひ観てほしい。

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