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白銀リリィ ~定命者は手を伸ばす~

"Carpe diem 今日という日の花を摘め" ――クィントゥス・ホラティウス・フラックス

白銀リリィとは、TVアニメ『アイカツスターズ!』に登場するキャラクターである。今回は彼女の気高い意志について書く。

『アイカツスターズ!』では多くのアイドルたちが四つ星学園というアイドル学校で互いに切磋琢磨しトップアイドルを目指している。四つ星学園には4つの組があり、それぞれ歌手、女優、ダンサー、モデルを目指している。そして、年一回のオーディションで選ばれる各組のトップはS4と呼ばれ、全生徒のあこがれであり目標となっている。

そのなかでも特に歌組はハイレベルな戦いが繰り広げられており、劇組(女優の組)のS4は過去に歌組S4に勝てない事を悟って転科している。歌組は音楽エリートの猛者たちが集まるが、その中でも別格が二人いる。それは主人公虹野ゆめとS4白鳥ひめである。この二人はアイカツシステムというある種の神に選ばれた謎の”力”を持っており、いわば神話の存在である。主人公のライバルであり、音楽一族の生まれのエリートである桜場ローラですら、一時はその力の前に絶望したことがあるほど、二人の存在は他の人間たちを圧倒する怪物的存在である。なまじ実力があるからこそ、他の成績上位者は別格の存在に対しある種のあきらめすら見える。

しかし、そんな戦いに人間のままで果敢に挑む者がいる。それが白銀リリィだ。彼女は特別な”力”は持っていない。それどころか病弱な体のため休学を繰り返しており、満足に激しいレッスンをすることすらできない。しかし彼女はあきらめない。ツンドラの歌姫と呼ばれる彼女だが、ベッドに臥しているときに読んだ偉人の言葉や物語の力を借りて心の内で夢への情熱を燃やし、常に自分に何ができるかを考えたレッスンを積んでいる。死した人間が積み重ねてきた言葉の力、物語が彼女を奮い立たせる。また、彼女は病に臥すことで誰よりも死を見つめてきた存在だ。だからこそ、自分の限界を、人間に残された時間の貴重さを理解している。そのことが彼女を一瞬一瞬にすべてをかける存在へと練り上げた。彼女はステージに上がる前にこうつぶやく。「白銀リリィ、このひと時に魂を込めて」と。

彼女の歌は翼の折れた鳥かごの鳥についての歌である。身体はもはや自由にはならない、しかし、この歌という魂だけはどこまでも自由であれと高らかに謳いあげる。これは彼女の人間観そのものであろう。いつかは滅び、今現在もままならない体を持つ人間、でもその精神は気高く咲き誇ることができるという人間賛歌の歌なのだ。

彼女はこの歌を、定命の者が積み重ねてきた物語を、死すべき体だからこそ見つけたこの一瞬を武器に、神々の戦いへ挑んでいく。その気高い精神に我々は涙するのだ。

ただの人間がただの人間であるがまま、人間であるからこそ神々の戦いへと手を伸ばす存在が好きな人は多いだろう(仮面ライダーアギトの氷川誠やニンジャスレイヤーのヤクザ天狗、HELLSINGなどがほかに挙げられる)。それはその挑戦が人間存在に対する肯定であるからなのだ。

「私は人間だ。人間は魂の心の意志の生き物だ。」

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