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『ブラインドサイト』神経科学要素全解説

上巻
p16根治的大脳半球切除術 
自閉症者は神経刈込が不十分という話もあるし、半球を一つにするということで負荷をかけて学習を適切に起こすようにするものか?シミュレートに特化しているのも後天的に脳をしばいたためっぽい もともとの意識がなぜ失われたかというのは謎(ハーモニーでは逆にこのシミュレートによってミァハは意識を得ている)
半球切除術は少ないがてんかん等に実際に行われる術式。片麻痺、半盲のほか右半球では空間失認が、左半球では失語が起こるはずだが、本作では何らかのしばきによって解決しているのだろう、なお言語機能は乳幼児期ならわりと無事らしいが、以前の人格を知る友人がいることから明らかにそのあとの施術だろう
p28 数百万のシナプスを人間の頭蓋に 人間のシナプスは1ニューロン1000個、全体で10^14のオーダー、どこから来た数字だろうか
p40 バソプレシン吸入 オキシトシンの愛情効果か、オキシトシン点鼻の効果は現在では否定的(追記:ネズミで親の養育行動やつがいの維持にバソプレシンが関与するという研究があるらしい)
p63頭頂葉が素晴らしく……俺はその場に存在できる 映像ではなくそこにいる感覚を送る場合なので体の空間的な位置の把握をしている頭頂葉を使っているのだろう
p78ネッカーキューブを同時にみれる ルビンのつぼやネッカーキューブはある程度の時間で交替し、決して同時に観ることはできない、知覚交替は注意の切り替わりで起こり、脳波の位相が関与しているとかしていないとか 吸血鬼が全く違う意識を持っているのが分かる 意識が一つかどうかすら疑わしい、赤くて青い状態など(人間にとっては)ありえない
p79吸血鬼が過去形を使わない 記憶の再生が現在とどう区別されているかは結構難しい問題、記憶の再生は海馬でのLFPの位相上のどこでスパイクがあるかなどがかかわっているらしい。記憶力の問題だけでなく、メタ認知や一緒に情動が湧き上がってくるかなどが現実感をつかさどる、完璧に生きなおすのでも過去かどうかの区別がなければ時間の流れを作れないのでは?過去の情報は圧縮して再生されるので時間感覚そのものがかなり人間と違う可能性(触れられていないが不老不死なのか?) 円城塔の『いい夜を持っている』でもこういう人がいた
統合者 理解できないものとの橋渡し、心の理論がないことがバイアスをなくしているのか?自閉症者はベイズ的な事前分布が弱く感覚情報に敏感という話もある 自閉症者を自閉症者のままシミュレーションを得意にさせたようなものか
p87 非侵襲的な再配線 decnefで顔の好みを変えられたという話がある、意外とできる
中国語の部屋 意味が分かってないパターンマッチングとなっているが、中国語の部屋はルールベース度な記号論理の集合で、パターンマッチはニューラルネットのようなコネクショニズム的なものが得意としている、 ルールに習熟すると無意識になる→ロールシャッハに意識がないとしているが、IIT的には同じ出力でも処理の仕方次第で意識が起こる、逆にフィードフォワードでゾンビも作れる どうしてクルーがそれを判断できたのか?意味不明なものには意味不明と返す例外処理があればいいだけなのになぜロールシャッハにそれがないのか 統合者が中国語の部屋というのも、高機能自閉症者が対人ルールを後天的に共感なしで学ぶのに似ているが、彼らはそれゆえにそれを意識的にやっている
p249 TMS効果 TMSなどはその時の活動だけでなく、惹起された活動によって結合を変えて永続的な効果を持つ うつ病などが一か月ほどTMSをして徐々に改善されてやがてTMSが必要なくなるのもそのため
P252 コタール症候群 自分が死んでいると思い込む アントン症候群 見えてないのに見えていると思い込む ダマスカス病 聞いたことがない、調べても出てこない(誰か教えて) 病態失認自体は珍しくない(認知症や統合失調症、半側空間無視) 盲点は周りの情報によって補填され見えない 情報には情報の確信度みたいなメタ情報があり、それだけが残っているということはある、上がってくる感覚情報だけでなく、トップダウンの思考にも確信度があり、情報がないことによってこれを再学習するには時間がかかる(何もないという情報は確信度が低いため更新が遅い)ACCやPFCの自己モニタリングの障害か 脳にはメーターメーターがいっぱいある
p269 心の中に世界のモデルを持っていて ベイズ脳仮設では脳は生成モデルを持っていてこれを使って推論により世界を認識する、更新により学習する この更新がうまくいかないのが統合失調症の妄想とか、のちにありえない情報は意識に上らないというのもあるが、むしろ驚くべき情報ほど意識に上りモデルを更新するというのが一般的
p264側頭葉てんかんは神を感じることがあるらしいLSD等のインスタント悟りに近い状態か、全体のコネクティビティが変化することによるものなので広範な脳刺激が必要になると思われる
多重人格 解離性障害の多重人格に神経科学的説明がついていないので、確かに古めかしいフロイトなどの思想が残っている
P210多重人格とマルチコア 並列処理のように言うが記憶を共有しない場合も多い、解離性障害の多重人格に神経科学的説明がついていないので、確かに古めかしいフロイトなどの思想が残っているのは確かにそう ちなみに解離性障害は日本では記憶喪失になるのに対しアメリカでは多重人格になるという顕著な文化の差がある、日本で多重人格はほぼ見られない
p221 9テスラ MRIだと最新の高解像度のもので3テスラ、通常1.5テスラ。それ以上は死体や試料に使う研究用

下巻
p31 ニュートン力学とサイコロを組みわせて 人間が乱数を作ると(人間乱数)完全なランダムとは違う性質をもったものが現れるが吸血鬼はそれがないらしい、人間乱数は前後の相関が問題っぽいので50くらいの間隔ごとにサンプルを使えば解決できそう 力学をシミュレーションして乱数を作れる ニュートン力学の獲得は人間ではおそらく後天的だが乳幼児のうちに獲得されるっぽいが一部の時間発展の予測は生得的っぽい 
p45 磁覚は鉄なしでも電場等を感知するたんぱく質が作り出すこともある、量子的な効果を利用するらしい
p49シンクロしていない IITでよく意識がないものの例として使われるデジタルカメラのような神経機構か
p78 ミツバチやアシナガバチは……単に脳がそう配線されているだけで、知性があるわけではない 知性を生得的なプログラミングではなく、それを動的に組み替える能力ととらえているらしい その学習アルゴリズムは生得的なものであり、区別は難しい
p105 断片的技能 サヴァン症候群、最近は脳は空間把握と言語機能にはトレードオフがあるという説がある、局在論への挑戦でもあるので慎重な議論が必要だが
正の動機付けで皮質盲のサルから盲視情報を引き出すことはできる
p131 お前は盲目だ サッカー度間の映像は確かに意識には上がらない(サッカード抑制)ぼやけからではなく、脳が眼球運動の情報を使って能動的に抑制している 反応閾値は上がるが完全に見えなくなるわけではない これは一枚の静止画を再構成するときの話であり、静止画と静止画の間はまた別の話 サッカード中にのみ動くことで姿を消していたようだが、静止画のサリエンシーマップ(周辺視野も含む)によって次の眼球運動の位置が決まり、常にぼやけた位置にいることは可能だが姿を消すまではできないはず
p139糸の存在が分かるとでも? Sense of agencyにより自由意志感を作っているので脳全体を操れるのならそれが自分の意思でやったと思わせることも容易
p139盲点 視神経が貫いている部分があり視覚情報を受け取っていないが、周りの情報から推測されたものが穴を埋めているので気づかない
p151 睡眠 オフライン学習の必要性が最近指摘されている
p153 神経配線は脳幹にすべて集まる 皮質間のリカレントな接続の割合は多いし、基底核でゲートされてからの情報が行く 運動ならともかく高次の思考はどうだろうか
p153 トカゲだったころ 爬虫類の脳と脳幹、本能を対応させるのは現代では時代遅れ
p159 夢遊病者 記憶がないことと意識がないことの区別の問題がある 例えばハルシオンを飲んでから複雑な医療行為をし、翌朝それを覚えていなかったとしてそれは意識なくやったのか、意識ありでやったが覚えていないのかは区別できない 夢遊病の場合は?
p159 リベットの実験
p160 自由意志sense of agencyはレトロスペクティブに計算される、ポストディクションにより、それが現在にあったものだということになる
p162 シミュレーションや再帰はどこかで止められる、コンピュータと違い人間はどこかで無限ループをやめる
自分に気づく意識は内受容感覚等からできるsense of agency や sense of ownershipから生まれるミニマルセルフとギャラガーは主張している 鏡像認知が必要とは限らないし、鏡像認知は魚でもできるなど進化や知性の程度とはまた異なる概念
意識の進化的意義は最近は良く取り上げられている、あるいは進化的に発達した情報処理機構は必ず意識を生むのか議論されている
p210 四色感 女性にはまれに四つ目の錐体を持つ者がいる(近赤外光が見えるわけではない)

参考文献 白質が相対的に欠乏 モジュール間の独立性が高いことが情報処理能力とどう関係するかは微妙、発達障害などはむしろネットワークが強いことが示唆されている
プロトカドヘリンは神経回路の形成に関与するのでさもありなん
十字架恐怖症 領域間の結合が弱い分領域内の結合が強いことによるものらしい 方位選択コラムがどうなっているのか、ポピュレーションべクトルの計算が違うのか、側方抑制などと逆のことがフィードバックループで加速するのだろうか、コサインチューニングカーブの周波数が違うのか
変化盲 徐々に変わるものは気づかれない、アハ体験なんか、あるいは間にマスク刺激を入れると変化が分からなくなる、人間の脳は差分比較を常にしている、非注意対象の変化に気づかないのはゴリラの動画が有名
タイムシェアリングするニューロン 運動と感覚両方に反応するニューロンはある、感覚野に電極を載せてしばらくすると感覚やでBMI経由でロボットアームを動かせるようになるというのもある 完全に自由にスイッチというのは聞かない 
美的感覚  内的報酬(好奇心や報酬予測)が意識に重要というのは深層強化学習の研究者らが注目している
意識的な意思決定 実は大半が無意識や情動で処理されている(さもなければフレーム問題になる)という説もある
顔グラフ 顔の認知とその評価は別のところが行っている(カプグラ症候群)、神経細胞の数とはあまり関係がないと思う

抜けや勘違いはあると思います

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