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化学肥料について考える

私たちの食を支えている農業では、作物の生産において、多くの農業では肥料が使われていると思います。


肥料には大きく分けて、有機肥料と化学肥料があります。

有機肥料は腐葉土や鶏糞など、植物や動物由来の有機物を原料に使った肥料に対し、化学肥料は鉱物に由来する無機物を原料に使った肥料のことをいいます。
 

今回は、化学肥料についてのメリットと環境に与える影響について議論していこうと思います。


化学肥料のメリットは大きくこの3つ

①即効性がある
②見栄えの良いものを作りやすい
③安定供給ができる

即効性がある

化学肥料は使用してから効果が現れるまでが早いです。


その理由は、有機肥料と比べたときに

化学肥料施す→植物が吸
有機肥料施す→微生物が分解→植物が吸収

というように、化学肥料の場合、微生物が分解する段階を省略することができます。

これにより、即効性が生まれます。


植物は動物と違って、胃袋などの消化器官がないため、微生物に、植物が吸収できる状態に分解してもらいます。


一方、化学肥料は、微生物に頼らずとも既に植物が吸収しやすい状態のものを供給できます。


例えば、もし、作物が窒素欠乏になった!となったときに、有機肥料を施して、それを微生物が分解して、、と待っていたら、手遅れになるところを、化学肥料なら回復させることができるといった使い方ができます。
 



見栄えの良い作物を作りやすい


同じ種類の作物でも、大きいものもあれば、小さいものあり、色がいいものあれば、虫食いがあるものもあると思います。


これは、野菜は自然の産物であるため、天候や土壌環境に左右されやすく、畑全体の栄養が均一であることなんてほとんどないことにより起こります。


これを化学肥料なら、畑全体に、均一に栄養を供給することで、形、色、見た目の良いものを作りやすくすることができます。


なかには、見栄えよりも栄養や味のほうが重要じゃない?という方もいるかと思いますが、現状、市場が形や色を重視しているため、ビジネスとして成り立たせるには化学肥料を使う方が良いとされています。
 


③安定供給ができる


本来なら、連作ができなかったり、畑の栄養がなくなっていて休ませる必要があるところを、化学肥料はそんなの関係なしに栽培することを可能にします。


というのも、化学肥料なら、窒素やリンなどの不足している栄養素を直接供給することができるからです。


これにより、期間を空ける必要がなく、同じ作物を毎年栽培できるので、安定供給ができるようになります。


安定供給ができると、大手の飲食チェーンや食品メーカー、大型スーパーなどに野菜を販売できるようになります。


今日も私たちが安定的に食べ物を食べられていたり、飲食店で食べたいものを当たり前のように注文できているのは、こうした化学肥料を使った安定生産のおかげであるかもしれません。


まとめると、化学肥料を使うことで、本来、作物は自然の中で育つが故に、不安定な生産になってしまうが、化学肥料の植物に直接栄養を届けられる性質から、安定的な生産をすることができるよくになります。



化学肥料の環境への影響は大きくこの3つ

①生物多様性に悪影響
②海の富栄養化
③製造に資源が多く使われる
 


①生物多様性に悪影響


前回載せたこの化学肥料と有機肥料の違いですが、

化学肥料施す→植物が吸収
有機肥料施す→微生物が分解→植物が吸収 


有機肥料の場合、微生物のエサとなる有機物が含まれているが、化学肥料の場合はそれが含まれていません。


つまり、これを続けていくと、エサがないため、土の中の微生物がだんだんといなくなってしまいます。


微生物がいなくなるとどうなるかというと、それを食べる土壌生物などがいなくなります。


さらに、土壌生物がいなくなると、それを食べる生物もいなくなります。


こうして連鎖的に生物がいなくなってしまうと、絶滅危惧種が増えたり、逆に、本来こんなにたくさんいるはずがない生物が、天敵がいないことを良いことに大繁殖する可能性などがあります。


これが巡り巡って僕たちの生活にも影響が出たりします。


例えば、地上で失われた生物多様性は海にも影響が出ます。


地上から送られる栄養が海に供給されなくなり、漁獲量が減少し、日常的に食べていた魚があるとき急に高くなって食べれなくなるということが起こりうるのです。


②海の富栄養化


化学肥料を使い、作物が吸収しきらない場合があります。

そうなった場合、化学肥料の栄養が地下水脈に到達し、川へと流れ、やがて海にも流れます。

すると、海に栄養が過剰に増える「富栄養化」という現象が起こります。

富栄養化が起こると、プランクトンや海藻が急激に増殖します。


すると、海中の酸素が急激に減少し、魚たちが呼吸できなくなり、死んでしまいます。

富栄養化

プランクトンや海藻の増殖

海の中の酸素減少

魚が死滅

海に栄養が増えることは、一見良いことですが、急激に増えてしまうと生態系のバランスを壊してしまいます。


生態系はバランス良く保たれていることが重要で、化学肥料はそんなバランスを壊してしまうこともあるということです。



③製造に資源が多く使われる

化学肥料を製造するために、たくさんの資源が使われます。


これにより、二酸化炭酸の排出による温暖化問題や、日本が資源輸入国であるがゆえの地政学的なリスクが存在します。


地政学リスクは環境とはまた別ですが、話しておこうと思います。


具体的にどういう構造で問題なのかを、植物の主要栄養素の窒素、リン酸、カリウムの化学肥料の製造について見ていきます。


<窒素肥料の製造>

ハーバー・ボッシュ法という、空気中の窒素(N)と水素(H)を反応させて、アンモニア(NH3)を作り、このアンモニアを原料として窒素肥料を作っています。


ここで問題なのが、水素を用意することです。


水素を用意するために、大量の化石燃料を使い、二酸化炭素を排出します。


水素の作り方は色々ありますが、日本で行われているのは、化石燃料であるメタン(CH4)に、水蒸気(H2O)を反応させ、水素(H)を取り出し、二酸化炭素(CO2)を発生させます。


窒素肥料を作るために必要な水素を作るために、二酸化炭素を発生させるため、窒素肥料の製造は温暖化に繋がります。


<リン酸肥料の製造>

リン酸肥料は単純にリン鉱物を原料として作ります。


このリン鉱物ですが、日本にはなく、100%輸入で賄っています。


さらに、リン鉱物は偏在資源(地球のかたよった場所に存在する資源)であり、中国、モロッコ、アメリカで世界の7割を占めている資源です。


偏在資源の100%輸入は地政学的なリスクが高まります。


というのも、資源所有国がその資源の輸出を制限したり、関税を上げたりすることで、その資源の価格が一気に高騰するからです。


どういうことかというと、

偏在資源でなければ、その資源は、世界のあらゆるところにあるので、たった一国が輸出制限をしたとしても、まだまだたくさん他の国がその資源を持っているので、その国から輸出してもらえば済みますが、

偏在資源の場合、一国の輸出制限で、一気にその資源の出回る量が少なくなるので、その資源の価格が高騰します。


簡単に言うと、マスク入手困難状態のような感じです。


これはゆくゆく、僕たちが食べる野菜にも影響がでます。


野菜を作るための資材が高騰したら、その野菜の価格も上げて販売しないといけないので、野菜の価格が高騰するおそれがあります。


<カリウム肥料の製造>

カリウム肥料もリン肥料と同じで、


カリ鉱石を原料とし、そのカリ鉱石はカナダ、ロシア、ベラルーシの3国で、世界の3分の2を占めている偏在資源です。


同じように、

カリ鉱石の輸出制限

カリ鉱石の高騰

化学肥料の高騰

野菜の高騰
となるリスクがあります。


化学肥料は前回話したように、とても便利な肥料ですが、生物多様性の破壊、環境汚染、温暖化、地政学的リスクなど色々と問題もあります。


「それなら化学肥料使うなよ!」と一概にも言えないと思います。


今日も当たり前のように、食べ物が買えて、注文したい料理を頼めているのも、化学肥料を使って生産しているおかげなところもあり、このような生活を無意識に望んでいる我々にも問題があると思います。


人間は便利さを追求するがゆえに、環境を疎かにしてしまったのかもしれません。