見出し画像

順位は関係ない!都道府県魅力度ランキングの見方・生かし方【元民間公募公務員が解説】

 みなさん、こんにちは。「公務員のための新しい広報の教科書」「中小企業・個人事業主のための新しい広報の教科書」著者です。

 民間調査会社のブランド総合研究所(東京)による「地域ブランド調査2021」が10月9日に発表され、都道府県魅力度ランキングがテレビなどのマスメディアやネットニュースで注目され、インターネット検索も急増している模様です。10月13日にはGoogleトレンドの急上昇ランキングで1位になり、

スクリーンショット 2021-10-16 10.39.22

過去5年間の検索量を相対的に比較しても、今年の反応は未確定ながら過去最高の2020年に迫る勢いを示唆しています。著者も公務員時代には市区町村のランキングやスコアを参考にしていました。

スクリーンショット 2021-10-16 10.40.46

 このランキングの結果をめぐり、ある県の知事は法的措置もほのめかすなど、ただならぬ様相も生じていますが、そもそもこのランキングはどのように作られ、どのようにその結果を生かすかという前向きな方向で考えてみたいと思います。ブランド総合研究所はこのランキングはアンケート調査によるものであるとして、調査概要を示してくれています。

この調査を知ることのメリット

 近年、同様の調査が乱立している中、この結果だけを受け止めて政策を変える必要まではありませんが、こうしたアンケートから把握できることがあります。

 ひとつは、相対比較ができるという点です。日本で一番魅力に感じられている都道府県と自らにはどれだけの差があるのかを数字で把握することができます。魅力を高めていく上でのベンチマークにできる点で、EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング。証拠に基づく政策立案)まではいかずとも、基準になることは確かです。ただし中止しなければならないのは、順位を気にするのではなく、今回は得点化されているので上位との得点差をしっかり見ようということです。その差が近いのか、遠いのか。それが大事なのであって、最下位か46位かということに何の意味もありません(その点である県知事の発言は的を外れています)。

 もうひとつは経年変化がわかるということです。多くの都道府県で毎年、魅力度向上のために予算をかけて情報発信やイベントの開催などさまざまな施策が行われていますが、それが効いたかを確認できるひとつの指標になります。魅力があるかないか、というのは非常にぼんやりした質問であり、回答する際の価値判断にもさまざまな要素が絡みますが、そのぼやっとしたものに寄与したと考えられる政策にはさらに予算をかけて注力すれば良いと思います。

 これら2つのメリットから、魅力度ランキングを年に1回確認するのは地方公共団体やまちづくり関係者にとって必要な仕事だと思います。

調査方法を振り返る

 さて、ここから魅力度ランキングの詳細に迫ります。公式サイトによると、ランキングを算出した根拠となるアンケート調査の概要は以下です。

調査方法 インターネット調査
回答者  年齢20代~70代の消費者を男女別、各年代別、地域別にほぼ同数ずつ回収。
※日本の縮図になるように、年齢や地域人口の分布にあわせて再集計(ウェイトバック集計)。
有効回収数 35,489人
※1人の回答者は市区町村の調査票の場合20の地域について回答。回答者数は平均で 648.5人
※同じく都道府県の調査票の場合は15または16の県について回答。回答者数は平均で1020.7人
調査対象 全国1,000市区町村(全792市+東京23区+185町村)と47都道府県
調査時期 2021年7月5日~7月20日

この概要からもいろいろなことがわかりますが、総数3万5千人から回収したアンケートだけれど、各人からすべての市区町村・都道府県について質問すると回答負荷が高くなるため、1人あたり20市区町村・15-16都道府県に絞って尋ねたことが明らかになっています。

ランキング算出方法を詳しく解説

 そして、話題となった都道府県魅力度ランキングの算出方法については以下のように述べられています。

「魅力度」とは、地域のブランド力、すなわち地域の魅力を数値化する指標。
「以下の自治体について、どの程度魅力を感じますか?」という問いに対して、「とても魅力的」を100点、「やや魅力的」を50点、「どちらでもない」「あまり魅力を感じない」「全く魅力的でない」を0点として、それらの回答を自治体ごとに集計(点数)として算出した。点数が大きいほど消費者はその地域を「魅力的」と感じる人が多いことになる。

つまり、アンケートでは5件法といって5つの選択肢を示していたものの、「どちらでもない」「あまり魅力を感じない」「全く魅力的でない」は同じ扱いを受けることになります。「とても魅力的」「やや魅力的」というプラスの意見のみが加点されるということが、このランキングの肝であることを理解しましょう。

ではランキング結果をどのように見ればよいのか

 2021年の魅力度ランキングを示すと、下記のようになりました。

スクリーンショット 2021-10-16 10.53.00

1位は北海道で73.4ポイント、2位京都府は少し離れて56.4ポイント、僅差で3位沖縄県が54.4ポイント。40点台が3都府県、30点台が8県、20点台が15県、10点台が18県という分布でした。果たして北海道がどのくらいすごいことなのか、10点台に沈んだ県はどう捉えたら良いのかを考えます。

 この調査は、各都道府県について「とても魅力的」と全員回答すれば最高得点となり、100ポイントです。日本人は他国に比べて両極端な選択肢を選びにくい傾向にあるとの研究もあり、100点はおろか、半数が「とても魅力的」を選ぶということも考えにくいです。ということは、半数が「とても魅力的」残りが「やや魅力的」と答えた場合の100点×50%+50点×50%=75点あたりが現実的な最高ラインになるのではないかと思います。北海道の73.4ポイントはこれに迫る水準であり、いかに多くの日本人から魅力に感じられているかが明らかになったと言えます。

 その次の水準を検討する際に、著者がよく利用する「2:6:2の法則」を使いたいと思います。この法則のご紹介はこちらをお読みください。これを適用するとつまり「とても魅力的」2割、「やや魅力的」6割という仮定ができ、100点×20%+50点×60%=50ポイントが割り出されます。この前後にある京都府・沖縄県・東京都についても、今回の調査においては非常に高水準という評価ができるように思います。

魅力向上を目指すべきラインは

 それでは、このランキングで下位に甘んじ、今後魅力向上を政策として重視しなくてはならないラインはどこにあるのでしょうか。ひとつの仮説としては、上記「2:6:2の法則」の半分、つまり「とても魅力的」1割、「やや魅力的」3割(残り6割は「どちらでもない」以下)という配合となる、100点×10%+50点×30%=25ポイントが基準になるのではないかと考えます。そうなると、21位青森県以下は魅力を高める努力が必要と言っても過言ではないことがわかります。

 なお、公式サイトによれば経年変化の座標となる前年からの伸び率もランキングとして示されており、

スクリーンショット 2021-10-16 11.27.05

2021年のランキング上位だった北海道・東京都・沖縄県・大阪府のほか、千葉県・長崎県らが大きく数字を伸ばしたと記載されています。

 ここから考えると、伸び率上位に入る「5ポイントアップ」、つまり「とても魅力的」を5%伸ばすか、「やや魅力的」を10%伸ばすかが現実的な目標になるでしょう。または千葉県らが行った魅力向上施策から学んで生かすということも選択肢になると考えられます。

さいごに魅力度ランキングに物申す【改善案】

 ここまで前向きに「魅力度ランキング」について解説してきましたが、こちらの調査方法や算出結果が、地方公共団体に対する道標となるに十分な解であるとは考えていません。

 ひとつは、今回触れなかった市区町村も全国すべてが対象になっているわけではなく、800自治体あまりは数値が出ず参考にしようもないのです。ここは企業努力で、全1788自治体を対象にしたランキングを作るべきだし、1市区町村あたりのサンプル数が数百人にとどまっている点も調査としてまだ不足しているように思います。

 また、今回炎上?している都道府県の魅力度ランキングについて、質問内容も選択肢も集計方法もとても粗いように感じられます。魅力の解釈が回答者に委ねられ、衣食住で多彩な魅力を示せる都道府県だけが強い調査にうかがえます。先日、TOKYO FM「山崎怜奈の誰かに話したかったこと(ダレハナ)」でも乃木坂46山崎怜奈さんが「面積の広いもの勝ちでは」との趣旨の反応をしていましたが、そうとられても仕方ない粒度であるという点です。

 そこで著者が提案するのは、都道府県に関するアンケートを廃止し、全市区町村に関する魅力度ランキングに特化、都道府県魅力度ランキングは各広域自治体内の市区町村魅力度スコアを人口か面積かでウェイトバック(重み付け)して算出するというものです。著者も実際にこれでシミュレーションしてみたいのですが、そもそも全市区町村の数字が出ていないため、どのくらい正当性を持った対案なのかはわかりません。しかし、現在のアンケート1本よりは自治体職員にとって生かしやすいのではないかと思うのです。

 ということで、テレビやネットニュースが報じない角度での魅力度ランキングに関するご案内をしてみましたがいかがでしたでしょうか。異論反論大歓迎、ツイッターのほうまでいただければ幸いです。

 今回もお読みいただき、ありがとうございました。

<<おしらせ>>
絶対に住民に伝わる! 公務員のためのSNS・動画・ホームページ 新しい広報の教科書 ~良いプロモーションは税金を使わずできる~
→中小企業・個人事業主のための「SNS・動画・Webサイト」 新しい広報の教科書 ※Kindle版がお安くなっています


サポートいただける方は、どんな記事をご所望かを是非お伝えくださいませ。日頃の発信に活かし、還元させていただきます。