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スーツにさすがにおっぽれ


今日はこの前関西に帰った時に行ってきた高校ラグビー部のOB会&監督の勇退式について書いていこうと思う。

以前にも何回か書いたが、改めて説明すると

この会は元々監督が退職する2020年に行われる予定だったがコロナの影響で延期になり、四年越しにとうとう開催される事になったというラグビー部にとって一大イベントなのである。

歴代のOB(たぶん30年間ぐらい)が一堂に集まり、監督を見送るという普通に考えたら行った方がいい会なのだが、僕はここ数ヶ月行くかどうか非常に迷っていた。

理由は至って簡単。

極度の金欠&近況話せたもんじゃない&芸人いじりされるのうざい

である。

こんなもんとても行けたもんじゃないのだ。

この"集まりに行かない理由三種の神器"を携えながらも、それでも僕は行く事にした。

理由は「やっぱり気になるから」

NISSHANという人間は一度気になってしまった事を無視する事は出来ないのだ。


こうして何やかんやで行く事になったOB会。

関西にも帰り、いよいよ当日となった。

なったのだが。

実は僕を悩ましていた問題がもう一つあり、これまでの期間ずっと僕はこれに苦悩していた。

その問題とは、、、

「ホテルで行われるパーティー何着ていったらいいねん問題」である。

数年前に行った同窓会でも頭を悩ませたこの問題。

こいつがまた僕の前に立ち塞がったのである。

例えば結婚式とかならある程度服装は決まっている。

しかしこの同窓会やらOB会やらが絶妙に何を着て行ったらいいかが難しいのだ。

言っても場所はホテルである。

とはいえそこまでかしこまった会でもない。

しかし監督の勇退式も兼ねている。


、、、


むずいんじゃ!!!

何着ていったらいいねん!

もういっその事、服装指定してくれ!

それがもし「金太郎コスチューム」とか書いてあってもその通りにまさかり担いで行くから!

幅があるのが一番むずいねん!

特にNISSHANみたいなノーセンス&金欠デブには!

誰がノーセンス&金欠デブや!

まあ普通にスーツが無難なんやろうけど、もし自分だけスーツになったりとかしたら恥ずかしいし!

後はジャケット&パンツとかもいいんやろうけど無いし!

今から買う金無いし!

どうしたらいいんや!

みんなから浮きたくない!

「ああ〜あいつ芸人やからこういうの分からんねんな〜」てなりたくない!

うおおおおおおお!!!


僕は「パーティーに着て行く服に悩んで吠える」という吠え史上一番無駄な吠えをした。

ちなみにネットでも散々調べたのだが、やれオフィスカジュアルだのインフォーマルだの何がなんやら。

クールビズもどうなったらクールビズなんか分からんし。

そもそもクールは分かるけど、ビズって何や。

これが売れない芸歴17年、社会人経験ゼロの悲哀なのである。

頼むから40歳直前社会的常識ゼロ超絶人生崖っぷちおじさんにも対応出来る内容を書いてくれ。


と、散々嘆き悲しんだ結果

僕は普通にスーツを着ていく事にした。

だってそれしか選択肢がないのである。

ジャケパンなんて買うお金ないし(一丁前に略してみました)

ただやっぱり浮くのは嫌なので、友達数人にも聞いてみた。


まずは毎度おなじみ、めちゃくちゃ変な人"変人"

僕がスーツで行く事を検討している事を伝えると食い気味で

「ああ〜いらんいらんいらん!!!スーツなんか着んでも大丈夫やって!!!」

と叫んだ。

これやから社会人経験ゼロは!と言わんばかりである。

変人いわくそんなかしこまる必要は無いそうなのだ。

ちなみに変人は何を着ていくのか聞いてみた。

すると一言

「スウェット」


と答えた。

僕はスウェット!?と思ったが、何せ変人もサラリーマン17年である。

社会人経験は圧倒的に変人の方が豊富である。

そんなベテラン社会人が言うのなら俺もスウェットで、、、

ってなるか!

何やスウェットて!

何でわざわざホテルにスウェット着ていくねん!

何着ていったらいいかあんま分からんけど、これだけは分かる!

絶対スウェットではない!

あかん!

どう考えても1人目に聞く人じゃなかった!

とりあえず僕は別の友達"キャラ"にも聞いてみた。


キャラはラグビー部時代監督や先輩にキャラ作りして媚びていた人でこういう事に関して信用なるかと言えば怪しい部分はあるのだが、まあ変人よりはマシといった所である。

キャラはこう言った。

「まあスーツでもいいけど、そんな堅くなくてもジャケットとかポロシャツでもいいんちゃう!俺はポロシャツ着ていくで!」

僕はポロシャツ!?と思ったが、それを言葉にはせずに飲み込んだ。

何せキャラもサラリーマン17年である。

僕とは社会人の実績が違うのだ。

そんなベテラン社会人が言うのなら俺もポロシャツで、、、

ってなるか!

何やポロシャツて!

何でこんな短期間に絵に描いたようなノリツッコミ2回もせなあかんねん!

いや、スウェットよりはマシやけど!

ポロシャツもだいぶ怪しい!

おそらくポロシャツを着ていけば、NISSHANとキャラの2人だけがポロシャツという事態になる。

そしてみんなからダブルポロシャツ、ポロシャツブラザーズ、相棒〜警視庁ふたりだけのポロシャツ〜みたいなあだ名をつけられてしまうのだ。

僕はまた別の友人に聞いてみた。


次の友人は高校時代イケメンだったが今は割と普通の"元イケメン"である。

こいつは僕をパチンコの世界に誘い込んだ極悪人でもある。

僕が何着ていく?とラインを送ると

「無難なんはスーツかな!もしくはジャケパンか!まあでも何でもいいんちゃう笑」

と返ってきた。

THE適当。

この人は自分が興味ない他人の悩みにはいつもこんな感じである。

何でもよくないからあんたに聞いとんのや!

娘からの相談にそんな返ししたあかんで!

「もうパパには相談しない」ってなるで!

てかみんな息子やら娘やらおるな!

こっちは彼女すらおらんのに!

うおおおおおおお!!!


2度目の無駄吠えを炸裂させた僕は最終手段、"おさる"に聞いてみた。

おさるはおさるっぽい人なのだが、実は変人よりも変な人の可能性がある。

ていうか年々変に進化していってるのだ。

なのでおさるがスーツと言ったら逆に、、、みたいなとこもあるのだが、とにかく援軍が欲しいので聞いてみた。

するとおさるは一言

「スーツやな!!!」


おさるNISSHANスーツ軍爆誕。

若干不安な2人だが、これで

スーツ2、スウェット1、ポロシャツ1、何でもいい笑1

となった。

バラバラ過ぎるやろ。

誰を信じたらいいねん。

何でもいい笑1腹立つな。


そんなこんなで当日。

京都駅にNISSHANスーツverが降り立った。


普段着慣れてないので、どうにも落ち着かない。

京都駅には17時に変人と待ち合わせをして合流し、2人で駅直結のホテル会場に向かう、そんな段取りである。

僕は先に京都駅に到着し、変人に「もう着いてるよ!」とラインを送った。

これは稲川淳二の怪談に出てくる「もう乗ってるよ!」というセリフをもじったものである。

独身おじさん2人が24年もつるんでるとこんな事になってしまうのだ。

するとほどなくして変人から電話がかかってきて、「どこどこどこ?どこなの〜?」と言ってきた。

これは稲川淳二の怪談「かくれんぼ」に出てくる一節である。

僕は「ここだよ」とかすれた声で返した。

これも「かくれんぼ」に出てくる一節である。

繰り返すが独身おじさん2人が24年もつるんでるとこんな事になってしまうのだ。

もう普通に会話なんて出来ないのである。


スーツ姿の僕を見るなり変人は唇を食べた。

昔から変人は笑いを堪える時、唇を食べるのだ。

高校ラグビー部時代、一瞬これがみんなに流行し、みんな唇を食べていた時があった。

監督が真剣に話している中、みんなが唇を食べだし、結果キャプテンが監督にブチギレられていた。

どんなチームやねん。


変人は唇を食べながら僕に「いや〜スーツか〜」と言った。

完全に間違えてると言いたげである。

そういう変人はやはり下が黒のスウェット。

上はちょっとした青のシャツを羽織っており、一見黒のパンツの様に見えるが、よく見るとスウェット。

まごう事なきスウェット。

「これぐらいでいい思うねんけどな〜。スーツは浮くで〜」と言っている。

そんな事を言いながら2人でホテルの受付に向かった。

すると途中、OB会に参加する同級生に出会った。

何をしても全て無難にこなす、通称"無難"である。

実は僕は今回の服装に関して一番無難に聞きたかったのだが、長らく個人では連絡取ってないため聞けなかったのである。

何せ無難である。

真似しとけば間違いないのだ。

ていうかこの歳になって分かるのだが無難という事は一番凄い事なのだ。

全てを無難にこなすというのはみんなやりたくても出来ない凄い能力なのだ。

現在本人は結婚して子供いっぱいいて出世してお金稼いでとこれ以上ないぐらい人生順調である。

すげえぜ無難。

ちょっとでもその能力欲しかったぜ。

ちなみに無難の服装はジャケット&パンツ。

さすがである。

無難のジャケパンを見てスウェット野郎の顔色が若干曇る。

僕は戦況が自分に傾いているのを感じていた。


こうして僕達はパーティー会場を目指して、3人でホテルを歩いた。

そして会場を発見し、受付に辿り着いた

その瞬間、

僕達の目に飛び込んできたのは、、、


大量のスーツとジャケパンだった。


僕は小躍りした。

心の中にいるゲンドウ&冬月先生が「勝ったな」「ああ」と勝利宣言をしてくれている。

内訳はスーツ7割、ジャケパン3割といったところ。

もちろんスウェットはいない。

僕は嬉しさで身悶えていた。

やった!

やったで!!!

スーツ大正解!!!

スウェット大間違い!!!

てか、改めてスウェットて何やねん!

スウェットなわけないやん!

何をどう考えたらスウェットになんねん!


スウェット野郎をチラッと見ると悔しそうに「ああ〜!スーツか〜!」と言っている。

この人は一体何に勝算を見出していたのだろう。

すると追い討ちをかける出来事が。

スーツの元イケメンが受付に到着し、変人を見るなり

「ブハッ!!!お前何ちゅう格好してんねん笑笑笑」

と爆笑したのだ。

スウェット野郎、終焉。

やはりホテルのパーティーにスウェットは無謀だったと言える。

そして元イケメン。

お前きっちりスーツで来とるやないか。

何でもいいんちゃう笑は何やったんや。

そんな事を思っていると受付にとんでもない人が姿を現した。

かなり上の先輩で僕達も面識はないのだが

その人の出立ちは

Tシャツ&ジーパン、そして顔面にはドンキとかに売ってそうな真っ赤なパーティーメガネ。

もはや勇者。

何でそれでいける思ったんや。

この知らんおっさん、規格外やないか。

変人のスウェットが正装に見えるて。

パーティーメガネを目の当たりにした変人はボソッと言った。

「俺、こっち側になるんか、、、」

僕は心底スーツを着る事を選択して良かったと思った。


そんなこんなでOB会&勇退式が始まった。

僕らの代の参加メンバーはNISSHAN、変人、元イケメン、おさる、無難

3年間最初から最後までマネージャーをしてくれた、現在仕事をとんでもなくバリバリしている"キャリアウーマン"

そして一回このnoteで書いた事がある


人類史上最も佐戸井けん太に似ている男、"おっぽれ"

おっぽれは高3の全国大会予選直前、あるちょっとした不祥事を起こし、口では「終わり!」と言っているが内心さらさら活動休止する気はないスクールウォーズ好きな監督のドラマ的展開作りに全員参加させられる発端となった男である。

ちなみに"おっぽれ"とは、ちょっとした不祥事をみんなの前で号泣しながら謝罪した際、上履きに「おっぽれ!おっぽれ!」と謎の落書きが書いており、みんなそれを目にして謝罪が入ってこないばっかりか唇を食べる羽目になった言葉である。

僕はおっぽれとは同窓会以来5年ぶりの再会。

おっぽれは意外とこういう集まりに全て参加するタイプなのだ。

最初からいたのは以上の7人で

キャラは息子(6歳)のラグビーの試合を観に行くという、現役時代ラグビーが嫌いで引退までのカウントダウン日めくりカレンダーを作っていた男とは思えない理由で遅刻していた。


そんなこんなで監督の勇退式が始まり、監督や会長の挨拶、花束贈呈などを経て、みんなで食事をしながらの懇親会が始まった。

ある意味僕にとってはここからが本番である。

恐怖の質問「お前芸人どうやねん?」の襲来が予想されるからだ。

しかし僕は今回参加するにあたってある秘策を用意していた。

名付けて

"さすがに返し"

「お前芸人どうやねん?」
「いや〜もうさすがにね」
「まだやってんの?」
「いやもうさすがにですよ」
「いつまでやるつもりなん?」
「これはもうさすがにですね」

と、全ての質問に"さすがに"で返していくのだ。

はっきりとは答えず嘘はついてないが、何となく相手に察する事を促す、我ながらナイスアイデアである。

正直に現状を話す事も考えたが、やっぱり色々めんどくさそうやなと思っていた矢先、ふと「さすがに」という事が頭に降りてきたのだ。

まさに天からの言葉、さすがに。

僕はこのさすがに返しを懐に忍ばせながら、ムシャムシャ料理を食べていた。

すると早速先輩が僕に質問してきた。

「西村!お前芸人どうやねん!まだ続けてんの?」

「いや〜さすがにですよ!!!」

僕は渾身のさすがにを炸裂させた。

すると先輩はしばらく無言で固まった後、不思議そうな顔をしながら

「え???」

と言った。


さすがに不発。



おかしい、何でや。

めちゃくちゃ変な空気なってもうた。

想像上では凄いスムーズにいくはずやったのに。


僕は慌てて「あ、いや、まだやってますよ!」と言い直し、結局謎のさ行を発しただけの男となってしまった。

しばらくすると今度はマネージャーのキャリアウーマンが同じ質問をしてきた。

「西村くん、芸人の方はどうなん?」

僕は待ってましたとばかりにこう返した。

「いや〜もうさすがにやな!」

するとキャリアウーマンはしばらく無言で固まった後、不思議そうな顔をしながら

「え???」

と言った。


さすがにまたもや不発。


さっきと全く同じ展開。

デジャヴ。

デジャヴパニック。

僕は慌てて「あ、いや、まだやってるよ!」と言い直した。

そしてその後も数人にさすがにをぶちかまし、その度に渾身の「え???」を頂戴していった。

僕はとうとう気付いた。


はは〜ん。

さてはこれあれやな。

「さすがに」会話成り立たんな。


こうして僕の謎の秘策は終わりを告げた。

完全なる机上の空論。

服部平次が初登場の時、新一に言われたやつ。

てか、改めて考えたらさすがにって何やねん。

どういう意味やねん。

結局毎回芸人やってる言う羽目なってるし。


そんな無駄な秘策を僕が披露していると、遅刻していたキャラが到着した。

その出立ちは事前に宣言していた通りの

ポロシャツ&綿パン。

どこからどう見ても"ただの休日のおじさん"である。

パーティー感は皆無。

周りと見比べるとしっかり浮いている。

そしてその横にいるのは、スウェット野郎。

さらにその横をパーティーメガネが通り過ぎた。

何じゃこのトリオは。

ホテルのパーティーを何やと思ってるんや。

こんなんスーツかジャケパンしかないでしょうよ。

僕は直前まで迷い倒してたのを棚にあげ、スーツをサッとなびかせた。


そんなこんなで懇親会開始から約1時間半。

そろそろ終わりが見えてきた。

監督は各年代のテーブルを回り、思い出話に花を咲かせている。

のけぞって笑ったりしていて非常に楽しそうだ。

そのうち僕達のテーブルにも来るだろう。

そこで僕達には一つ不安が。


"僕達の代はあんなに盛り上がるのか"

身も蓋もない言い方になるが、今回僕達の代で集まったメンバーはちょっとインパクトが弱いのだ。

キャプテン、フォワードリーダー、バックスリーダーとチームの中心人物達が欠席しているのである。

今回参加しているのは当時から比較的おとなしめのメンバーで、他のテーブルみたいに思い出が花咲くのか非常に怪しいのだ。

僕達はみんな

これは厳しい戦いになる、、、

と険しい表情を浮かべていた。


ていうかそもそも全員の名前を覚えているかも分からないのだ。

何せ35年分である。

いくらなんでも全て覚えておくのは、至難の業と言えるだろう。

僕達は不測の事態に備え、あらかじめ盛り上がりそうな思い出話をピックアップしておく事にした。

しかし、これがまあ〜出てこない。

どっちかっていうと裏で監督の事をあれこれ言っていた思い出は溢れるほどあるのだが、表で監督と共有している思い出は驚くほど皆無なのである。

一応、変人の試合中う○こ全漏らし事件という永遠に語り継がれる究極にして至高の思い出話はあるのだが、残念ながら監督はそれを知らないのである。

今日いきなり「監督!監督!僕ね、う○こ漏らしてたんですよ!」と言われても訳がわからないだろう。

なのでそれも却下となり、結局会議の結果

「キャラの息子がラグビーしている」

というワンエピソードで戦う事となった。

大丈夫。

これならいける、盛り上がる。

僕達は必死にそう思い込む事にした。


そしていよいよ決戦の刻は訪れた。

まあ正確にはなかなか僕達のテーブルに監督が来ないのでマネージャーのキャリアウーマンに呼んできてもらったのだ。

キャリアウーマンに連れられ歩いてくる監督。

自分から来なかった事からも何やら怪しい気配が感じられる。

僕達はキャラの息子ラグビーエピソードを懐に忍ばせながら監督を迎えた。

メンバーの配置は僕から時計回りに

NISSHAN→キャラ→変人→おっぽれ→無難→元イケメン→おさる→キャリアウーマン

となっている。

監督は僕とキャリアウーマンの間に来て、まず第一声僕を見ながら大声で

「おいお前、芸人どうなってるんや!!!」

と笑顔で言った。

とりあえず芸人を目指したデブの事は覚えていた様である。

僕は内心「好機!」と思った。

ここでトップバッターの僕が盛り上げれば、そのまま勢いよく思い出話に花を咲かせる事が出来る。

舞台でも何でもトップバッターが大事なのだ。

幸い監督はゴキゲンに芸人の事を聞いてきている。

これはもろたで工藤!

と、僕はノリノリでこう答えた。


「いや〜さすがにですよ!!!」


その瞬間、監督の時が止まる。

しばらく固まり、絞り出す様な声でこう言った。

「、、、、、、、え???」


まさに愚行。

すでに破綻していた作戦をなぜまた出してしまったのか。

ていうかここでスカしてどうすんねん。

何が目的やねん。


僕は慌てて「あ、いや、まだやってます!東京でやってます!」と言い直した。

今日何回やんねんこのくだり。

すまん、みんな。

完全にスタートミスった。

凄い変な感じなってもうた。

しかし、次はキャラである。

僕達の唯一にして最強のエピソード「息子がラグビー」が控えているのだ。

大丈夫、きっと挽回出来る。


監督は「お〜〇〇(キャラの名前)、お前はどうしてるんや?」と言った。

キャラは待ってましたとばかりにこう言う。

「僕の息子(6歳)がラグビーやってます!!!」

いきなり炸裂した当代最強のエピソード。

炸裂した瞬間、

監督を筆頭に僕達全員こう思った。


だから何やねん、、、


息子ラグビーしてるからって何やねん。

それがどうしたっていうねん。

それ聞かされて何て言ったらいいねん。

俺達は何でこれで戦えると思ったんや。


監督は何とか絞り出す様に「お、おお、そうか〜」と言った。

正しい反応である。

そして次に「お〜○○(変人の名前)、お前はどうしてるんや?」と言った。

予想以上に名前を覚えている。

覚えられていた変人も嬉しそうにこう言った。


「オオオフ、オフオフオフ、オオオフ、オフオフ」


その声、まさに原始人。

変人は昔から緊張すると極端に声がこもってしまうのだ。

重低音を鳴り響かせ、人というよりかはウーハーになる。

当然、誰も聞き取る事は出来ない。

監督も確実に聞き取る事は出来てないはずだが「そ、そうか」と言っていた。


NISSHAN、キャラ、変人、ここまでの盛り上がりはゼロ。

非常に流れが悪い。

何とかしなければ。

しかし、次はおっぽれ。

おっぽれにはおっぽれ事件がある。

間違いなく監督もおっぽれ事件は覚えているはず。

今となっては逆にめっちゃ盛り上がるはず。

おっぽれ、後は頼んだ!


そう思った瞬間、監督の動きが止まった。

いきなり静寂が訪れる。

時間にして数秒だが、まるで永遠の様に感じられる。

非常に静かである。

僕の頭の中で最近インスタの飯作ってる動画でやたら流れてる手嶌葵さんの「しずかだなあ」が鳴り響く。

そしてその場にいた全員がこう思った。

「か、監督、、、あんたまさか、おっぽれの名前忘れてるんじゃ、、、」


永遠の様な静寂の後、監督はゆっくりとこう言った。

「お〜○○(おさるの名前)、お前はどうしてるんや?」



飛んだ!!!

このおっさん、飛ばしよった!

おっぽれ、無難、元イケメンの3人一気に飛ばしよった!

こんな綺麗な飛ばし方ある!?

漫才の古のつかみ、べっぴんさんも1つ飛ばしてやのに!

3つ飛ばしよった!

スキージャンプやん!

もはやスキージャンプレベルの飛び方やん!


いつの間にか監督はおさるのターンを終え、キャリアウーマンの華麗な仕事遍歴を聞いている。

「へ〜凄いな、は〜凄いな」と必要以上にオーバーにリアクションしている。

はは〜ん、さてはこのおっさん、これでこのテーブル終わらす気やな。

そうはさせるかと僕は無理矢理流れを戻そうとした。

「おっぽれ事件!おっぽれ事件覚えてはりますか!」

すると監督は「お〜覚えとるぞ!あれな、1年後にワシがな、ネタバラシしてな!〇〇(おっぽれの名前)がめっちゃショック受けてな!」

実は監督は事件の1年後、みんなを最後の大会前に奮起させるためドラマ作りをしていた事をおっぽれに告白し、全員気付いてはいたけど今初めて知ったみたいなしらこいリアクションをするという一幕があったのだ。

監督はそれを再び嬉しそうに言っている。

僕はこの瞬間「おっぽれ、ここや!!!」と心の中で叫んだ。

ここでおっぽれがいいリアクションをして、最大の盛り上がりを作るのだ。

おっぽれがまさにおっぽれ!おっぽれ!なゴールを決めるのである。

すでにセンタリングは上がっている。

後はおっぽれが合わせるだけである。

合わせるだけだったのだが。


おっぽれ「え?えっと、え?」


え、おっぽれ?

どうしたおっぽれ?


おっぽれ「え?はい?あ、いや」


おい、おっぽれ!!

何をゴニョゴニョしてんねん、おっぽれ!

もうあん時はビックリしましたよ〜!みたいなんでいいんや!

ゴールは目の前なんや!


おっぽれ「あ〜えっと、何すかね?」


おっぽれ!!!

しっかりしろ、おっぽれ!

おっぽれのおっぽれたる所以を見せてくれ!

ていうか!

ていうかやな!

おっぽれて何や!!!!!


こうして監督とおっぽれの会話は全くスイングする事なく終わった。

そして次に無難の一瞬だけラグビー部にいたという兄貴の話をして、監督は別のテーブルに移動した。

僕達すら知らなかった無難の兄貴が一瞬だけラグビー部にいた話。

何故無難本人の話じゃなく一瞬で辞めた兄貴の話を?とみんな思ったが、それよりもっと悲惨な事があった。

そう。

そうなのだ。

元イケメンが全く触れられてなかったのだ。


完全にスルーだったのである。

おっぽれ→無難と来たから次は元イケメンかと思いきや、別のテーブルに行ってしまったのだ。

これはおそらくあれだろう。

マジで名前が分からなかったのだろう。

会話しながらもしかしたら監督はこう思っていたのかもしれない。

「わしの勇退式に見知らぬ男が紛れ込んでおる、、、」

そんな想像をした僕達はみんなで一斉に唇を食べた。


こうしてOB会&勇退式はフィナーレを迎えた。

最後にみんなで写真撮影をしたり、監督を胴上げしたり、盛り上がって終わった。

パーティーメガネのおっさんも楽しそうにしていた。

まあ僕達のテーブルはなかなかの惨劇になっていたが(特に元イケメン)、何やかんや良かったと言えるだろう。

惜しむべくは僕がこの日を迎えるまでに芸人として売れる事が全く出来なかった事。

ちょっとでも売れる事が出来ていれば、もっと全然違う展開があったのに。

これに関してはやはり非常に悔しく思う。

だけどそれと同時にもう一回やる気が出てきた気もする。

正直去年から本当に色々しんどかったし何かと良くない事を考えてしまう事もあったのだが、こんなままでは終われないとまた思う事が出来た。

行くかどうか非常に悩んだが、行ってよかった。

今となってはそう思っている。


最後に監督。

長い間、本当にお疲れ様でした。

いつまでもお元気でいて下さい。

あとあの見知らぬ男は2003年卒業組の元イケメンです。

れっきとしたOBです。

安心して下さい。

それでは、また。


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