遠吠え

昨日の夜。

秋葉原でバイトを終え、山手線に乗っていた時の事。

どうにか席に座れた僕はぐったりとしていた。

今週1週間は何だか疲れた。

妙にイライラする事が多く、しかもここ数ヶ月の間は極力怒らない様にしようと心がけているため、溜め込む形になり非常にモヤモヤして疲れたのである。

ただ、今までの経験上、何かにブチギレてしまった後はまた更なる別のブチギレがやってきて、それの繰り返しになるのだ。

そんな事をしていると頭の中がそういう腹立つ事でいっぱいになってしまい、他の事を考えれなくなってしまう。

今は出来るだけネタの事に集中したいのだ。

そのためにはなるべく怒らない様にして穏やかに過ごすのが一番なのだ。

そんな事を考えていると、いきなり

「オオオオオオオオオオオオーン！！！」

という声が聞こえてきた。

僕は「なんや！？」と驚いた。

声の出所はすぐ分かった。

目の前に座っているおじさんがいきなり遠吠えしたのである。

そのおじさんは僕と一緒で秋葉原から乗車し、僕の前の座席に座っていた。

スーツを着て、ビジネスバッグを持った仕事帰りのサラリーマンといった姿である。

タブレットを片手に持ち、それをずっとスライドさせていた。

いわゆる普通の光景なのだが、そのスライドが徐々に早くなっていったかと思いきや、いきなり「オオオオオオオオオオオオーン！！！」と遠吠えしたのである。

それはそれは綺麗な遠吠えだった。

その場に向かって叫ぶのではなく、顔を上に向け、明後日の方向に放つ叫び、まさしく"遠吠え"。

まるで月夜に向かって吠える狼の様だった。

これが岩場の頂上とかならいい。

しかし、ここは山手線の車内である。

一言で言うと異様な光景なのだ。

一人のサラリーマンのおじさんが突如狼となり遠吠えしているのである。

しかもさらに不思議なのが、そんな凄まじい遠吠えが炸裂したのに、周りの人達は何事も無かったかの様にその場に座ったままだったのである。

普通「変な人がいる！！」となったら、みんな一目散に席を移動したりするものなのだが、全くそれが起こらない。

それどころか見向きもしていない。

誰一人としてリアクションが無いのだ。

僕は混乱した。

え、何これ！？

何この状況！？

何でみんな反応せえへんの！？

遠吠えしたよ？？

このおじさん、今遠吠えしたよ？？

めちゃくちゃ綺麗な遠吠えぶちかましてたよ？？

ノーリアクションおかしない！？

遠吠えやで？

おじさんの遠吠え、聞いた事ある！？

俺は無いで！！

何でみんな表情一つ変えへんねん！！

どういう状態やねん！！

おじさんの遠吠えやで！！

ていうか、おじさんの遠吠えて何や！！

おじさんは平然とタブレットの画面をスライドさせている。

周りの人達もそれぞれスマホを見たり、寝たりしている。

まるで何事も無かったかのようである。

僕が聞き間違えたのだろうか。

疲れやストレスから幻聴が起こったのだろうか。

おじさんはタブレットをスライドしつつ、スマホの方では誰かにLINEらしきものを送ったりしている。

吠える以外はどっからどう見ても普通のサラリーマンのおじさんである。

やはりあれは聞き間違え、、、

そんな事を思っていると、おじさんのスライドが徐々に早くなっていき、、、

「オオオオオオオオオオオオーン！！！」

吠えた！！

また吠えた！！

本日、2発目！！

あかん、このおじさんめっちゃ吠える！！

遠吠えが止まらへん！！

ていうかこのスライドが徐々に早くなっていってピークに達したら吠えるシステムなんやねん！！

助走からのジャンプみたいな！！

何やねん、このおっさん！！

狼に取り憑かれてんのか！！

何でこんな吠えるねん！！

そんで周りの人達！！

やっぱりノーリアクションなんかい！！

どういう事やねん！！

おじさんが短時間で2回遠吠えしてんで！！

何かあるやろ！！

何で何事も無かったかの様にみんな思い思いの時間過ごしてんねん！！

いよいよ車内は摩訶不思議な空間と化してきていた。

見事な遠吠えを2発放ったおじさん。

ノーリアクションの周りの人達。

混乱するNISSHAN。

何故遠吠えするのか。

そして何故それにみんな反応が無いのか。

１つ考えられるとすれば、みんな認識はしているが、下手に刺激すると何するか分からないため、あえて見て見ぬフリをしている可能性である。

充分あり得るのだが、そうだとすると先程も書いた通り、そっと席や車両を移動する人が必ず出てくるはずなのである。

しかし実際は誰一人動こうとしないのだ。

そうなるとやはりこの遠吠え

NISSHANにしか聞こえていないのだろうか。

全ては幻なのだろうか。

あと、NISSHANていう表記やっぱり違和感あるな。

そんなこんなで電車は着々と進んでいく。

相変わらずおじさんはタブレットをスライドさせているが、あれ以来遠吠えはない。

と、ここで僕の中で不思議な感情が芽生えた。

遠吠えを欲しているのである。

もう一回あの遠吠えが聞きたいのだ。

何故だか分からないが、耳が遠吠えを求めているのである。

そんな僕の想いに呼応するかの如く、おじさんのスライドの速度が上がっていく。

シャッシャッシャッシャッ

来る！！

遠吠えが来る！！

シャッシャッシャッシャッ

来い！！

遠吠え来い！！

シャッシャッシャッシャッ

おじさん「、、、」

吠えへんのかい！！！

吠えろや！！！

あんた吠えてなんぼやろが！！

何で吠えそうに見せかけて吠えへんねん！！

そんなフェイントいらんねん！！

素直に遠吠えしてくれ！！

素直に遠吠えしてくれて何や！！！

俺は一体何を求めてるんや！！

何でおじさんの遠吠え聞きたなってんねん！！

ていうかおじさんの遠吠えて何やねん！！

おじさん「「オオオオオオオオオオオオーン！！！」

吠えるんかい！！

結局吠えるんかい！！

ありがとう！！

いや、ありがとうって何や！！！

こうしておじさんは3回吠え、周りの人は全く反応せず、僕は謎の感謝をし、電車は池袋に着いてみんなぞろぞろと下車した。

僕もおじさんも池袋で降りたのだが、おじさんはいつの間にか姿を消していた。

あれは一体何だったのだろうか。

僕が見た幻だったのだろうか。

全ては謎のままである。

とりあえず何かストレス発散した方がいいのかもしれない。

そんな事を思った昨日の夜だった。

はい。

よう分からん話ですが、本当に昨日あった実話
なのです。

では最後に明日の告知を！

12月18日
『ビバ寄席』

シアターかざあな
19時55分開場20時開演
料金　1000円

出演者
まんじろう
レーズンダイナマイト
例の件
ゴスケ
マチルダ
さのニョッキ
ないものねだりの山﨑くん
NISSHAN
6年黄組
トワイライト渚
うだまん
ジョウダンアオナナテンパイ
ウォンバット
ぱろぱろ
山村和光
スクラップス
タニャロー
ハラコ
とべま〜し

是非、来て下さい！
よろしくお願いします！