恐怖!カピバラおじさん現る
毎日更新360日目。
毎日更新残り5日。
今日はある町のある屋外イベントに参加してきた。
そのイベントは食べ物などのブースが並んでる中、真ん中にステージがあり、そこで総勢20数組の芸人達がネタをするといったものである。
出番直前、僕は舞台袖で焦りに焦っていた。
持ってくるネタを完全に間違えたのである。
ファミリー層がメインとは聞いていたのだが、お子さん達が予想していた数の10倍はいたのである。
客席の大半を4.50人以上のちびっ子達が占めているのだ。
僕の前のピン芸人の方達は、動きのあるネタや客席を巻き込んだネタをして場を盛り上げている。
それにひきかえ僕が持ってきたネタは
毎度おなじみ恋愛ネタ。
太ったおじさんが恋だの愛だのほざいても、ちびっ子達が興味を示すわけがないのである。
しかも今日は漫談。
いつもはフリップを使いながらの漫談といったスタイルなのだが、今回は屋外なのでフリップが風で飛ばされてはいけないと思い、完全に漫談のみのバージョンにしてきたのだ。
"太ったおじさんが1本のマイクの前で自身の恋愛を語る"
とても子供に見せれたものではない。
苦味が過ぎる。
子供からすればデカいピーマンがしゃべっているようなものだろう。
一体どうすれば、、、
僕は苦悩した。
一応大昔に「まんたろう」という子供向けの紙芝居風フリップネタを作った事はあるのだ。
当時大勢の子供達の前でネタをする機会があり、それ用に作ったのだが結構反応が良かったのだ。
「まんたろう」をやりたい。
僕は心の底から思ったが、まんたろうは大阪の実家に置いてきてるのだ。
どうしようもないのである。
そうしてる間にも刻一刻と出番は近づいてきている。
まずい。
まず過ぎる。
僕は過去最大に焦った。
あと一つ子供用として考えられるなら「きてる」である。
僕には数年に1回ぐらいしか披露しない「きてる!」と叫ぶだけのギャグがあり、そっから「かえる!」「もどる!」などと言い、「どんな質問にも3文字で答えます」と展開していくノリの様なものがあるのだ。
このnoteでスキを押してくれた時に僕の写真が「ブラピ!」などと言うのは、そこからきているのである。
これは僕が持っている唯一お客さん参加型のやつなので、これをやるしかないかと思った。
しかし、問題はある。
そもそも大阪時代を最後に長らくこれをやってないし、しかもこのくだりはちゃんとツッコんでくれるMCさんがいないと成り立たないのだ。
結局3文字で答えれてなかったり変な3文字になってる事を転がしてくれる誰かが必要なのである。
1人用ではないのだ。
となるとここはやはり元の恋愛漫談をやり切るしかない。
それに最近の子供達はませている。
太ったおじさんの恋愛話に反応してくれるかもしれない。
僕は覚悟を決めた。
そうして僕の出番がやってきた。
「どうもどうもにっしゃんですー!よろしくお願いしますー!」
僕は勢いよく飛び出した。
「いや〜にっしゃんね、恋に夢中な男の子なんですけどね」
そう言った瞬間、周囲の空気が凍てつくのを感じた。
お子さん達はもちろん、周りの大人の方達の顔も死んでいる。
昔R-1の1回戦で漫談をして落ちまくっていた頃の事を思い出す。
「何故みんなにっしゃんの漫談が始まった瞬間に顔が死ぬのか」
当時ずっと疑問に思っていた。
結局いまだに自分の中で解けてはいない。
フリップを横に携える事でこの現象は起こらないのだが、たまに漫談をするとやっぱり起こるのである。
おそらく僕の色々工夫が足りないのだろうが、それにしたってなのである!
そんな冷たい顔せんでも!
何でにっしゃん漫談始めたらこうなるの!
何か漫談始めたら背中からカマみたいなん出てきてる?
もしそうやったらごめん!
非常に厳しいものを感じながら僕は続きをしゃべる。
「にっしゃんが恋愛するといつも不思議な事が起こるんですよ」
「にっしゃんがデートに誘うと絶対こういう返事が返ってくるんですよね」
こんな事を話しながら僕はふとお子さん達の顔を見た。
!?
か、顔が、、、
お子さん達の顔が、、、
完全に表情を抜き取られた顔をしている、、、!!!
ち、ちびっ子達よ!
何て顔をしてるんだい!
表情はどこにいったんだい!
"無"じゃないか!
まごうことなき"無"になってるじゃないか!
僕はこのままいくとお子さん達の成長過程において支障をきたすんじゃないかと危惧した。
何せ表情を抜き取ってしまっているのである。
こんな多感な時期に表情が無くなってしまっているのだ。
これはまずい!
僕は舞台上で焦りに焦った。
これはもうあれしかない!
今のネタを切り上げて「きてる」に切り替えるしかない。
「え〜まあね、そんな話は置いときまして、、、」
僕は自分で言いながら「置いときよった!」と思った。
漫談の途中に話を一旦置くやつがどこにいるのか。
しかもまだ始まって30秒程度。
いくら何でも置くの早過ぎる。
もはやヤケクソで僕は叫んだ。
「実はですね、僕3文字が得意で、どんな質問でも3文字で答えれます!誰か質問ある人ー!」
一体何が始まったのか。
さっきの恋愛話は何だったのか。
不穏な空気が会場を包む中、
数人の子供達がバッと手を挙げてくれた。
ありがとう、ちびっ子達。
ほんと助かります。
そう思いながら僕は1番初めに手を挙げた子をあてた。
「好きな食べ物はなんですか?」
しめた!と僕は思いすかさず
「バナナ!」
と答えた。
ちょっとだけ笑い声が聞こえる。
このくだりはとにかく早さが命なのだ。
適当でもなんでもとにかく間を開けない事が重要なのだ。
「歳はいくつですか?」
「、、、」
僕は早くも沈黙した。
空を見上げ、静かに佇む。
その様はまるで名優モーガンフリーマンの様である。
穏やかな表情で遠くを見つめる。
出てこないのだ。
頭の中に3文字が全く出てこないのだ。
というかこの歳の質問「ななつ!」て答える、これまた言わばサービス問題なのだが
焦っていた心の乱れか、それとも歳からくる衰えか
全く出てこなかったのである。
そこから先は惨劇という言葉でしか表現出来ない事態となった。
次々質問してくれる子供達。
沈黙し続けるにっしゃん。
スティーブンセガールさん。
沈黙シリーズ最新作、僕にやらせてください。
空前絶後のグダグダっぷりを晒しながら僕はまだ質問を募集した。
「し、しつも、、、」
!?
僕は口の中に異変を感じた。
カラッカラなのだ。
砂漠に顔2時間埋まったんかいうぐらい口がカラッカラなのだ。
あまりの事態に口の水分が全て飛んでいったのである。
たぶん減量中のボクサーでもこんな口にはならないだろう。
それでも無理に喋ろうとすると、水分がなさすぎて上唇が歯にくっついた。
僕は歯茎が丸出しになった。
歯茎丸出しのやつが何か喋ろうとして喋れないでいる。
こんな恐ろしい光景、他にあるだろうか。
僕は歯茎丸出しのままジタバタと動いた。
その姿はまさにカピバラの化け物。
恐怖!カピバラおじさん現るの巻である。
ちびっ子達は固まっている。
つい数分前と顔が変わっているのだ。
怖くないわけがない。
このままではトラウマになってしまうかもしれない。
お笑いというものを怖がってしまうかもしれない。
僕は歯茎丸出しで喋れない状態のまま、心の中でちびっ子達にこう願った。
にっしゃんの事は嫌いになっても、お笑いの事は嫌いにならないで下さい。
こうして僕の出番は終わった。
とんでもない大惨事となった。
というか振り返れば3文字の元の「きてる!」も言い忘れてたし、とにかくめちゃくちゃである。
ただ3文字を言えないカピバラの化け物となってしまった。
改めて自分の腕の無さが悔やまれる。
もっと幅を広げなければ。
こういう時、何とか対処出来るようにならなければ。
と、非常に反省している。
とりあえず今度実家に帰った時「まんたろう」を持ってこよう。
またどこかでリベンジがしたい。
いつか必ず。