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書評「料理の旅人」(木村俊介)

本書は、日本レストラン界の青春時代を語る、料理の世界で生きてきた25人のインタビュー集です。

僕は、料理人になった人は「とにかく料理が好き」というイメージを持っていました。しかし、本書を読み終えて、そのイメージは覆されました。

”料理が好き”だけでは続けられない

本書に登場する料理人が異口同音に語っていたのは「”料理が好き”だけでは、料理人は続けられない」ということです。

長時間労働で休みは少ないこと、手間も時間もかかる故に大きな利益が得られる仕事ではないこと、料理だけ作ればよいのではなく、オーナーシェフともなればサービスや経営や人材のマネジメントにも気を配る必要があること、など。料理人は自身の仕事の質を維持するためには、圧倒的な仕事の分量が必要であることに、本書を読んでいると気付かされます。”好き”というだけで、長い年月続けられる仕事ではないのです。

お金は”儲け過ぎず、使い過ぎず”

本書には、料理人が”お金”について語っている言葉が数多く登場しますが、異口同音に語っていたのは、”儲け過ぎず、使い過ぎず”という考え方です。

長年続けていくには、自分だけが良い思いをすればいいというのではなく、仕入先とよい関係を築き、買い叩くことなく適切な価格で材料を仕入れ、適切な価格でメニューとして提供する。儲かったお金は貯金しておき、よりよい料理を作るための投資が必要になったら遣ったり、不況の時代を耐え忍ぶための資金とすること。お客が入らない日でも良い物を仕入れ続けないと客足が戻ってこないので、材料代はケチらない。

こうした考え方は特別な考え方ではないと思いますが、何十年にもわたって続けていくのは、難しいことです。続けていくには、自分の欲望を律して、料理に身も心も捧げる必要があります。簡単なことではありません。

”お金”より”信頼”

本書を読んでいると、料理人は、自分の考えた料理がお客に喜んでもらえること、喜んでくればお客がまたお店に来てくれること、自分が考えた料理を提供するために、取引先や従業員が働きやすい環境や関係を構築すること。一言で言うと、”信頼”を得ることを、何よりの喜びとしています。

”信頼”はお金じゃ買えませんし、短い時間で手軽に獲得できるものでもありません。長い月日をかけて、丁寧な仕事を積み重ねてきた人にだけ与えられるのだという事実を、本書に登場する料理人たちは自身の体験から、読み手に伝えてくれます。

人に喜んでもらえる仕事がしたいと思っている人なら、ぜひこの本を読んで欲しいです。なぜなら、料理人という仕事の甘さも、苦さも、美味さも全てこの本に詰まっているからです。

そして、料理の世界にとどまらず、これから何かを開拓しようとしている人にもおすすめの1冊です。

※2013年4月に公開した記事を再編集しました。

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