書評「元祖プロ・コーチが教える 育てる技術」(ジョン・ウッデン)
「コーチ」という言葉の語源は、「馬車」なのだと聞いたことがあります。
馬車を目的地まで連れて行くのが、語源に照らし合わせたコーチの役割なのです。最近はチームの勝利を追い求める過程で、特殊な戦術を用いるコーチが注目されがちですし、ネットではこうしたコーチがもてはやされがちですが、特殊な戦術を用いるコーチの多くは目的地を見失ってしまうことがあるような気がします。
本当のコーチとは、目的地にチームを連れて行く過程で、連れて行く選手やスタッフを成長させる人なのではないか。僕はそう考えています。選手やスタッフを成長させるコーチに共通しているのは、どこか哲学者というか、教師のような指導をしていることです。そして、選手やスタッフを成長させる指導者の言葉には、競技の枠を超えて、人の心を動かす力があります。
サッカーなら、イビチャ・オシムさんは人の心を動かす言葉を持っている指導者の一人です。ヨーロッパのトップクラブを率いる監督だと、マンチェスター・シティのペップ・グアルディオラ、アトレティコ・マドリーのディエゴ・シメオネ、リバプールのユルゲン・クロップといった監督の名前が浮かびます。
バスケットボールなら、シカゴ・ブルズやロサンゼルス・レイカーズで実績を残したフィル・ジャクソンや、サンアントニオ・スパーズを長年率いているグレッグ・ポポビッチの名前が浮かびますが、バスケットボールで「選手やスタッフを成長させる」コーチとして、必ず名前が挙がる指導者がいます。
その名は、ジョン・ウッデン。
米国大学バスケット史上最高のコーチといわれ、60年代から70年代にかけてUCLAを10回にわたり全米チャンピオンに導くという大記録を打ち立てました。その高潔な人格から、広くアメリカ人の尊敬を集め、彼の言葉はバスケットに限らず人生全般に役立つ名言として引用されることが多いところも、イビチャ・オシムさんに似ています。
本書「元祖プロ・コーチが教える 育てる技術」には、ジョン・ウッデンの哲学、そしてコーチという仕事で必要な考え方が、分かりやすく端的に収められています。
成功とは
ジョン・ウッデンの言葉で知られているのは、「成功」という言葉の定義です。ジョン・ウッデンは、「成功」という言葉を、自身の経験を基に、以下のように定義しています。
「成功とは、なりうる最高の自分になるためにベストを尽くしたと自覚し満足することによって得られる心の平和なのである」
そして、ジョン・ウッデンは成功に必要な要素を「成功のピラミッド」という形で定義しています。
ジョン・ウッデンは「成功のピラミッド」を作る過程で導き出した、「チームを成功に導く条件」として以下の6点を挙げています。
1.勤勉に努力していること
2.情熱を持っていること
3.精神面、肉体面、道徳面のコンディションが万全であること
4.基本に忠実であること
5.チームに貢献する気持ちを持っていること
6.細部まで注意が行き届いていること
スポーツの枠を超えて、基本の大切さを教えてくれる書籍
こうしたジョン・ウッデンの言葉は、とても普遍的で、バスケットボールに興味がない人にも理解出来ると思います。
ジョン・ウッデンの言葉は、基本的な内容が多く、耳障りのよい響きはありません。ただ、本書を読んでいると、基本の大切さ、そして、当たり前の大切さに、改めて気付かされます。
バスケットボールに興味がある人だけでなく、多くの人に読んでもらいたい1冊です。イビチャ・オシムさんの本が多くの人に受け入れてもらえるのですから、本書ももっと多くの人に読まれてもおかしくない。そう思います。
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