書評「欧州旅するフットボール」(豊福晋)
双葉社の長坂様から献本頂きました。ありがとうございます。
本書「欧州旅するフットボール」は、バルセロナに在住し、ヨーロッパのフットボールを長年取材してきた豊福さんが、スペイン、イタリア、イングランド、ドイツなどの国々の取材を通じて描いた、フットボールに関するエッセイをまとめた書籍です。
本書は2つのテーマについて書かれていると感じました。
フットボールの魅力を形作るのは「ピッチの外」
1つ目は「ピッチの外」。
本書で描かれているのは、チャンピオンズリーグに出るチームや、スター選手のことばかりではありません。
一見フットボールとは関係なさそうに思える、美味しい食事やお酒、地元の人々との交流、多くの日本人が知らないようなクラブの話だったりと、最近のフットボールに関するコンテンツでは、あまり取り上げられないテーマである「ピッチの外」のことを深く掘り下げています。
昨今は、フットボールの戦術やトレーニングに関するコンテンツが増えました。一方で、戦術やトレーニングといった「ピッチの中」に関するコンテンツが増えれば増えるほど、「ピッチの外」のフットボールに関するコンテンツは、現地で取材するライターが少なくなったこともあり、少なくなった気がします。
僕は、フットボールという競技の「ピッチの中」での出来事だけでなく、「ピッチの外」の世界にも興味を持ち、のめり込んでいった人間です。フットボールは世界中で親しまれているので、フットボールを共通言語にすれば、世界中の人々と交流できるのではないか。できるなら、世界中のフットボールを観てみたい。そんなことを考えているうちに、僕はフットボールの魅力に取り憑かれていきました。
最近はフットボールのピッチの中のことばかり気を取られていましたが、10代の自分がなぜフットボールに興味をもったのか、仕事に忙殺されて忘れていたことを、本書は思い出させてくれました。
ヨーロッパで日本人がフットボールするということ
2つ目は「日本人であること」。
本書にはヨーロッパで日本人がフットボールをプレーするということがどういうことなのか、ピッチの中の情報やメディアで取り上げらているコンテンツだけでは分からないことが書かれています。
外国人大学があるということくらいしか知られていないペルージャからキャリアをスタートした中田英寿、海水を薄めた水でシャワーを浴びていた中村俊輔といった選手たちが、世界中から優秀な選手が集まるヨーロッパで、居場所を勝ち取るためにいかに戦ってきたのか、地元の人々に本当はどう思われていたのか、メディアでは伝わらない本音が伝わってきます。
最近ヨーロッパでプレーする日本人選手のコメントを読んでいると、日本のフットボールファンはヨーロッパでフットボールをすることの大変さを、理解できていないのではないかと感じることがあります。
同じ実力だとヨーロッパの選手が起用される状況で、どうやったら出場機会を得られるのか、どうやったらよりレベルの高いチームでプレーできるのか。文化も言語も習慣も違う世界で、いかに戦っているのか。ピッチの中だけでは分からないことがあるのではないかと思うのです。
どんなにコンテンツが増えていても、実際に体感しなければ、ヨーロッパで日本人がどう見られているのかは分かりません。そして、長年ヨーロッパで戦い続けているのは、著者も同じです。そのことを思い知らされました。
フットボールで世界を旅する
本書を読み終えて、久しぶりにヨーロッパでフットボールを観たい気持ちが高まってきました。
家族もいるし、子供もいるので、お金がかかるからと諦めていた「フットボールで世界を旅する」という夢を実現するために、何ができるのか。そんなことを考えさせられた1冊です。
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