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書評「サッカーとビジネスのプロが明かす育成の本質 才能が開花する環境のつくり方」

僕がサッカーに興味を持って30年くらい経過するのですが、約30年の間で心から「上手い」と思った日本人が3人います。

1人は小野伸二。高校3年生から浦和レッズの1年目くらいの頃の小野伸二は本当にすごかった。世界一のサッカー選手になるのかもしれない。そう思ったこともあった。

2人目は小倉隆史。「レフティーモンスター」と呼ばれるほど、FWとは思えないほどのボールを扱う技術など、能力は群を抜いていた。小倉が怪我をしなければ、たぶん日本のサッカーはもっと違う歴史をたどっていたと思う。

この2人が出てくる前に、「上手い」と思った選手がいます。その選手の名前は菊原志郎。16歳7ヶ月の若さで読売クラブでデビューし、21歳で日本代表に選出され、将来を嘱望されました。

菊原さんが上手いと思ったのは、難しいプレーを簡単にやるから。派手なプレーをするわけではないけど、簡単にボールを止めて、簡単にパスを出す。簡単に相手を外してボールを運ぶ。どれも簡単にできるプレーではないのに、本人は涼しい顔で簡単にやっていることに、プロの技術の高さを感じたのだ。そして、小学生の僕は菊原さんのドリブルや、アウトサイドを使ったターンを練習していたのを、書きながら思い出した。

菊原さんは引退後にサッカーの指導者として、東京ヴェルディのコーチを経て、U17日本代表のコーチとして、中島翔哉、南野拓実、植田直通、鈴木武蔵、喜田拓也、早川史哉、中村航輔といった選手を教えて、横浜F・マリノスを経て、現在は中国スーパーリーグの広州富力でU-13のチームを全国優勝に導き、現在は広州富力アカデミーの育成責任者として活躍している。

「名選手名コーチならず」という言葉がありますが、菊原さんは「天才」と呼ばれた選手時代を経て、コーチとしても活躍された稀有な存在でもある。

本書「「サッカーとビジネスのプロが明かす育成の本質 才能が開花する環境のつくり方」」は、菊原さんと楽天大学の仲山進也さんが「個の育成」「チームの育成」について語った書籍だ。

第1章:天才の育ち方
第2章:強いチームを育む組織文化
第3章:組織の育成-自走するチームの作り方
第4章:個の育成①-伸びる子と伸びない子の違い
第5章:個の育成②-自走人の増やし方
第6章:「個を伸ばす指導者・保護者」と「個をつぶす指導者・保護者」の違い
第7章:グローバル時代の育成
第8章:サッカーから学んだことを通して幸せになる

技術を言語化出来る人

本書を読み終えて、こんなエピソードを思い出した。

あまり知られてませんが、Jリーグ開幕当初「木梨憲武のサッカーだ!」という番組があったを知っているだろうか。木梨憲武さん、川添洋一さんが、毎週Jリーガーをゲストに迎え、選手の得意技を教えてくれるという番組。毎週土曜日朝7時から30分放送されていた番組だ。

この番組では、ラモスさんがドリブルを、木村和司さんがフリーキックを、水沼貴史さんがセンタリングの上げ方を、都並敏史さんがスライディングを実演して教えてくれるという、いま思うと貴重な番組でした。いまYouTubeで公開したら人気番組だと思います。早すぎたのだ。

木村和司さんはフリーキックを蹴るとき、「壁の右から何番目の頭の上を通す」とか宣言してから蹴るのですが、宣言通りの軌道を描いて通過するので、出演者が驚愕していたのを覚えている。ただ、ラモスさんや木村さんは技術を言葉に置き換えて教えるのは、あまり得意ではなかった。

技術を言葉に置き換えて教えるのが上手かったのは、都並敏史さんと菊原志郎さん。特に菊原さんが披露してくれたドリブルのコツは分かりやすく、何度も映像を観て練習した。だから、指導者として活躍していると聞いても納得する。

菊原さんは「技術の世界の話を言葉で表現する」のに長けていて、より多くの人に伝えられるコミュニケーションの上手い人でもある。「言語化」という言葉を目にする機会が増えましたが、言語化とは相手に伝わる表現を選択できることでもあるのだなと、本書を読み終えて改めて感じた。

読む人によって様々なテーマで読める本

本書は「人と組織の育て方」の話でもあるが、人と組織を育てるために必要な「人と人とのコミュニケーション」の話でもある。特に読売クラブに関する考察は、「カルチャーの伝承」というテーマについても考えさせられる内容だ。読む人によって、様々なテーマで読める本だと思うので、ぜひ読んで欲しい1冊。


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