山田にら

日々、料理×ワインのマリアージュを研究中。一日も早い新型コロナの収束を願っています。h…

山田にら

日々、料理×ワインのマリアージュを研究中。一日も早い新型コロナの収束を願っています。http://niraya.net/

最近の記事

最期のワイン

2022年8月、膝の手術で入院した。 16日の入院期間中、持ち込んだiPadで漫画「コウノドリ」全32巻を読了した。「コウノドリ」は、2015年と2017年に綾野剛主演でドラマにもなったのでご存知の方も多いだろう。 実在する産婦人科医でジャスピアニストでもある人物をモデルとした、綿密な取材をもとに作られた物語は、多くの医療従事者も納得のリアリティらしい。出産は病気ではないが命懸けであるということ、生まれてくること自体が奇跡であるということをこの漫画で改めて学んだ。 そして

    • なぜ村上春樹のエッセーは面白いのか

      毎年ノーベル文学賞の時期になると、候補に名を挙げられ、世界中のファンが今か今かと受賞を心待ちにしている日本を代表する小説家、村上春樹。 私が読んだ村上作品で一番印象に残っているのが「アンダーグラウンド」。地下鉄サリン事件を彼の視点で描いたノンフィクションである。単行本は辞書並みのぶ厚さの738ページ。十数年前、10日間入院する機会があり、その時に持ち込んだ。村上春樹自身による、被害者を含む62名の関係者へのインタビューは、世間を震撼させた事件だけに内容もすごかった。けれど、

      • 自称フランス人

        「山田にらと申します。自称フランス人です。 今回、この栽培クラブに参加したのは、中目黒のイタリアンレストランで 開催されたメーカーズディナーでいただいたワインがとても美味しかったので、そのワインが生まれたぶどう畑を実際に見てみたいと思ったからです。 ぶどう栽培については何も知らない初心者ですが、 皆さまご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」 「びっくりしたー。自称フランス人を名乗る人がいたよ、Kさん、あの人大丈夫かな?」 「あの人がフランス人って、どういうこと?オー

        • 100文字エッセー・3

          目の前でエレベーターを閉められた。 急いでいたのか、間違えて「閉」を押したのか。 「そんな余裕のないやつは地獄に落ちてしまうがいい」と呪ってみたが、ブーメランで帰って来るのが怖くなって、早々に撤回する。

        最期のワイン

          100文字エッセー・2

          盗んだ三輪車で街を走っている途中、泥水まみれの赤いル・クルーゼを拾った。 刑事のような黒いランドセルを背負った小学生が捜査に来た。 奥でキンプリの平野紫耀くんが何か話している。 誰かこの夢の意味を教えて。

          100文字エッセー・2

          100字エッセー・1

          メジャーリーグで大活躍中のオオタニサンは運を呼び込むためにゴミを拾うことを日常としている。 そんなオオタニサンにあやかろうと電車内でゴミを拾った。持っていたカバンを置き忘れた。 神さまはにわかには冷たい。

          100字エッセー・1

          サイゼリヤ炎上

          私は自他ともに認めるフーディー *1 。「生きているうちに世界中の美味しいものを 一つでも多く食べるぞ!」をモットーに日々生きています。 私にとって食べることは真剣勝負。一食たりとも疎かにできません。 朝は濃いめの紅茶にカルダモンパウダーをひと振りして、無調整豆乳を注いだホットドリンクからスタート。 それと、カットしたバナナと季節のフルーツにブルガリアヨーグルトをかけて、美味しいジャムをひと匙。バナナはシュガースポットが出るまで育ててからいただきます。 昼は家で仕事をして

          サイゼリヤ炎上

          ワインとリハビリ

           膝の手術をした。  三年前の成人の日、動き出したバスの車内で大荷物を抱えた私は、座席に座ろうとして左足を軸に回転したら、膝が通常とは逆の方向に曲がった。膝に強烈な痛みと不安定さを感じていたが、その日はワイン会が2件とチーズプロフェッショナル協会のイベントが入っていて、スケジュールをこなすために休日でも営業している接骨院に駆け込み、とりあえず歩けるようにしてもらった。  その接骨院へは半年ほど通った。膝の不安定さはあったものの、痛みもなくなり、サポーターをすれば普通に歩ける

          ワインとリハビリ

          おそうじエンジェル

           週2回、その人たちはやって来て、オフィスの執務室の共用部分やラック、打ち合わせデスクなどを拭く。60代前後の女性5〜6人のワンチーム。いつも笑顔で楽しそう。幸せオーラを放ちながら、かいがいしくたち働く彼女たちを、私は密かに「おそうじエンジェル」と呼んでいた。  今から15年前、5度目の転職で入社した会社は典型的なブラック会社だった。地方のハウスメーカーから独立したベンチャーで、マンションの住人専用のコミュニティサイトがヒットして、南青山にオフィスを構える上場企業の目にとま

          おそうじエンジェル

          憂鬱って書ける?

           私がパソコンというものを初めて手に入れたのは26年前の冬。出たばかりのボーナスを注ぎ込んで買った、6色の縞模様のりんごのロゴ※1のついたちっちゃいテレビみたいな箱だった。  当時、私は立川の紅茶専門店で働いていた。お店のメニューを作るのにワープロ(懐かしいわぁ)で打ち出したテキストと、インスタントテックス(こすると転写できる文字シール)を駆使して、版下(印刷物の元になる原稿)を作り、事務所のコピー機でコピーした台紙に、撮影して焼き増しした料理の写真を貼り、パウチをして作っ

          憂鬱って書ける?

          ロゼカバにベリー

           私には友達がいない。多分、物心ついた時から。  「友達」という言葉をインターネットでググる※1と、 ともだち【友達】互いに心を許し合って、対等に交わっている人。一緒に遊んだり喋ったりする親しい人。 とある。  子供の頃の遊んだ記憶を思い返してみる。   高度経済成長時代、私は家族とともに東京の西の方の団地に住んでいた。当時の団地の子供たちの遊びというと、ゴム跳びだ。私はこれがことごとく下手だった。背はクラスの後ろから三番目、手足は他の子よりも長かったはずだが、自分の足

          ロゼカバにベリー

          「もちろん修理できますよ」

           2018年6月、フランスから帰国して自宅で荷物を整理していた私は、お気に入りの赤のリモワが負傷しているのに気づいた。ボディのコーナー部分に亀裂が入っている。出発時のホテルでパッキングした時にはなかった亀裂だ。ボンマルシェの食品館で購入した瓶詰の蓋が凹み、中身が若干漏れていた。相当手荒い扱いを受けたのだろう。スーツケースの傷は旅の勲章、その時はそう思うことにした。  半年後、ワイン仲間とフランス・ボーヌの街で行われたワイン祭りに参加するため再びリモワと旅に出た。帰国の時、し

          「もちろん修理できますよ」

          公園ワイン会

           その公園にはバーベキュー場近くの広場にいい感じのテーブルと椅子がある。何がいい感じかというと、木を組み合わせた長方形のテーブルに、四方を木で囲んだ椅子があり、十人ほどが座れるようになっている。  桜も終わりかけのとある日曜の昼下がり。 公園に集まった私たちは、テーブルにクロスをかけ、それぞれが持ち寄った手作りの料理を並べ、ワインを注いで乾杯をする。これを私たちは「公園ワイン会」と呼び、月一回のペースで集まっていた(寒い季節はお休みだ)。  持ち物はグラスと食器、それと

          公園ワイン会