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公園ワイン会

 その公園にはバーベキュー場近くの広場にいい感じのテーブルと椅子がある。何がいい感じかというと、木を組み合わせた長方形のテーブルに、四方を木で囲んだ椅子があり、十人ほどが座れるようになっている。

 桜も終わりかけのとある日曜の昼下がり。

公園に集まった私たちは、テーブルにクロスをかけ、それぞれが持ち寄った手作りの料理を並べ、ワインを注いで乾杯をする。これを私たちは「公園ワイン会」と呼び、月一回のペースで集まっていた(寒い季節はお休みだ)。

 持ち物はグラスと食器、それとワインか料理。「ワインか料理」と言っているのに、たいていの参加者はワインと料理の両方を持ってくる。料理は出来合いでもいいのだが、これもわざわざ手作りの、さらに料理に合わせてワインを持ってきたりもする。大宮から武蔵野の公園まではるばるやって来る料理王子などは、前日の土曜日に自分で釣ってきた魚を昆布締めにし、それに合わせてシャンパーニュを持参したりするものだから、下手な飲食店には行く気になれない。料理王子に触発されて料理に目覚めた市役所勤めの坊主頭も、毎回試行錯誤が感じられる手料理を持参する。彼はこの「公園ワイン会」でちゃっかり生涯の伴侶を見つけた。仕事で帰りが遅い愛妻のために手料理を作って待っているなど、とても仲睦まじい。ちょっと妬ける。

 五十の年にリストラに遭ってからのんびり好きなように過ごしている私と違い、職場で責任ある職に就き、日々戦っている彼・彼女らにとって、日曜日の料理はいい息抜きになるのだろう。

 年齢も職業も住むところも全く違う、ただワインが好きだというだけで集まった人たちと、その公園で風を感じながら飲み、食べ、語らう時間が明日への活力となり、ここでまた頑張ろうと誓う。

 新型コロナの流行以降、都立公園での飲酒が禁止され、淋しい日々が続いている。こっそりと「公園ワイン会」を行うこともできるかもしれない。だが、そういうものは必ず誰かが見ている。厳しいロックダウン期間中に行われたという英国首相官邸内のワイン会も暴露されてしまった。本当はみんなワインを楽しみたかったのだ。

 人生を卒業する時にはなるべく天国に行きたいので、日頃の行いは良くしておいた方がいいのだが、それよりも何よりも、いい歳をした大人が路上飲みの若者たちと同様に顰蹙を買うのはプライドが許さない。

 だから、もう少しだけ我慢する。もう少しだけ。

#休日のすごし方

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