2020年6月福島取材⑧/抜けるような青空なれど
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<続き>
大野駅から役場方面へ向かって歩く。駅には大川原地区の大熊町役場まで約5km、徒歩70分と書かれていた。別にトレッキングコースというわけでもハイキングコースでもない。バリケードで制限された道のりを抜け、さらに誰も住まない町なかを通り過ぎるだけだ。ここを70分歩き続ける人は、僕のような変人しかいないだろう。ほとんどの人はバスかタクシーを使うはずだ。
最近SNS上で、「おいでよ大熊町」と「大熊町」の名を冠したアカウントが、人が暮らすようになった役場周辺を見ていかない人たちをSNSで吊るし上げて批判している。「これは如何なものか」と強い違和感を持った。「おいでよ」と言いながら己の意図した通りの写真、文章、スタイルで紹介していないとSNSで晒し者にする。もしこんなことを町役場の職員がやってるとすれば非常に悪質で、「福島」を語りにくくさせていることにしかなっていないと思う。僕自身、常磐線が全通となったものの、夜ノ森や大野や双葉駅で駅前の写真だけ撮って去っていく鉄ヲタに対して、周辺も歩いて見てくれよと思っていたが、それにしてもあれはやり過ぎだ。
(「酒は大七、魚は大八」)
たくさんの崩れかけた建物が晒しものになっている双葉駅と違い、大野駅から県道251号(小良ヶ浜野上線)までは厳重にバリケードで封鎖され、通行可能な道路以外は歩けないようになっている。これは夜ノ森駅東口側と同じだ。道路上はしっかりと除染され線量が低い(といっても震災前の10〜40倍はあるが)ため、全体的に低いと僕も誤解してしまったが、これは東京新聞原発取材班の記者さんによれば、大きな間違いだ。逆に、このエリアの線量が今も非常に高いからこそ、バリケードで厳重に入れる場所を制限しているということ。「避難指示解除エリア」とされる大野病院前で1〜2μSv/hあることを考えると、立入が制限されている区域がかなり線量が高いということは想像に難くない。
(モニタリングポストは0.664μSv/h。ネットでこの数字だけ見れば、ここが帰還困難区域だとは思わないし、「線量は下がってるが防犯のために帰還困難区域が設定されている」という嘘も真実味が出てしまう。)
ゴーストタウンと呼ぶにふさわしい町なかを歩いていると、たまにモニタリングポストを見つける。そこに表示されている数値は、0.6だったり0.9だったり。これだけ見ると低いように感じるが、僕が線量計を持って歩いた限りでは、実際はこの3割増と考えるのが正しい。そしてその数値はあくまでもその場所(点)の線量であって、周辺にはもっと高い場所が多数あると考えるべきだ。ネット上で公開されているモニタリングポストの数値だけを見て、このエリアの線量が十分に下がっていると判断するのは明らかに間違っている。自ら精度の高い線量計を持って現場を歩かなければ、実態は見えてこない。
(コインランドリーラスカルは浪江にもあった。営業が再開している店舗もある。)
ダンプの通行に支障がないように整備されたのか、とても広く綺麗な県道251号との交差点で左折すると、大熊町保育所がある。
直前のバリケードの向こうにあったモニポは0.9μSv/hを示していたが、ここの前では僕の線量計は目に見えて上がり、場所によっては2.0μSv/hまで上がった。隣の老人福祉センターとともに、厳重なバリケードで敷地内には入れないようになっており、中の線量はどれだけ高いのかと思う。
(大熊町老人福祉センター。敷地内に入ることは出来ない。)
そこから県道251号を西へ向かい、今度は大野幼稚園を目指す。
ここから南方向はバリケードがなくなり、双葉のように自由に見て歩くことが出来るようになっている。
(大熊町保健センター。ここも敷地内に入ることは出来ない。)
少し歩いただけで、251号の線量が高いことはすぐにわかった。2μSv/h近い場所がたくさん出てくる。そして風が吹くと線量が上がる。新築された大熊町役場まで向かう道から外れているせいか、ほとんど除染はされてないかのようだ。ところどころ無造作にフレコンバッグが置かれていたり、車が置きっぱなしだったり、解体はあまり進んでいないように思える。保健センターなどの公の施設は立入が制限されているが、一般の民家は放置状態だ。震災から9年以上が経つ今頃になって立入制限が緩和され、日本中から空き巣が集まってるというが、つくづく今の日本政府は町の運命を弄んでいると思う。
強い紫外線を浴びながら、心地よい風が吹き抜ける場所に立つ。空間線量が1.5から2.5μSv/hまで上がるが、放射能は目に見えず臭いもせず、ただ気持ちよくその場の空気を吸い込んだ。綺麗な緑に囲まれた山と青空の前にそびえ立つ鉄塔を眺め、いいところだと思いながら、ふと頭の中に「内部被曝」という言葉が浮かぶ。
(空が広い)
時たま車が走り抜けるが、ほぼ音はない人のいない町。慣れていない人は恐怖を感じるかもしれない。そんな場所に一人たち、頭の片隅を過ぎる「放射能」にイラッとする。ややイラつきながら、ついここで動画を撮った。
鉄塔マニアにはたまらない風景に目をやりつつ、廃墟と化したガソリンスタンド、売店の脇を抜け、常磐道方面へ向かう。
途中、大きな農家だったと思われる場所を抜ける。家の前で空間線量は2μSv/hを超え、除染されてないであろう敷地内はどれほどかと思う。敷地内に入ることはしなかったが、倍以上の線量はあるだろう。
(大きな農家だ。しかし、ここに人が帰ることはないだろう。)
こういった家もいずれは解体され、除染されるのだろうが、何代にも渡って農業を続けてきた土地を離れることの苦悩は如何ばかりか。それを「復興」と呼び嬉々として伝えるカンニング竹山や、「さっさと撤去しろ」と暴言を吐く某一発屋覆面漫画家は、どの面下げて「福島のことなんて誰も知らねえじゃねえかよ!」などと言えるのか。
常磐道をくぐり抜け、少し西に進むとバリケードがあった。前日双葉で見た光景のように、「この先帰還困難区域のため通行止め」の看板と「ここまで特定復興再生拠点区域」の看板が2つ並ぶ。奇妙な線引きでどこまで看板を増やす気か知らないが、この看板が増えるたびに住民が分断されていくということを忘れずにいたい。
<続く>
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