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鳩間島、鳩間節・その①

「鳩間中森(ハトマナカモリ)」とは沖縄県の鳩間島にある標高34mの丘である。丘の上からは四方に八重山の海を見渡せる。

「鳩間節」は、この鳩間中森から見た景色を歌った歌だ。ただの景色ではない。西表島から船一杯に稲を積んだ船が帰ってくる絶景だ。
昔、鳩間島は土地が痩せていて、稲が育たなかった。鳩間島の人たちはわざわざ隣の西表島に米を作りに行き、刈った稲は船に載せて鳩間島まで運んでいたという。鳩間中森から稲を積んだ船が戻って来る景色の素晴らしさと幸福感を歌った歌なのだ。

八重山民謡であるが、琉球古典音楽として野村流の工工四(クンクンシ)「拾遺」に取り入れられた。
早弾きにも変化を遂げ、多くの人に親しまれている。
早弾きに合わせた琉球舞踊は豊作の喜びに舞い上がった鳩間島の人達のご機嫌さが表現されており、見ているこちらまでワクワクしてくる。
鳩間節の習得を自己流では挫折したものの、三線の師匠である山内昌也先生のおかげで克服することができた。先生は「速さよりもリズムが大丈夫です。ゆっくりでもリズムを意識してください。」と教えてくださった。

歌詞の1番は、
「鳩間中森走い登り クバぬ下に走り登り」
意味は、
「鳩間島の中森の丘を駆け上がる 生い茂るクバの中を駆け上がる」

鳩間節を歌う度、この「鳩間中森」というフレーズが印象に残った。先人が見た鳩間中森からの景色を私も見たい、見て心を踊らせたかった。
その思いは「鳩間節」のテンポが少しずつ上げられるにつれて募るのである。

一度目の緊急事態宣言が明け、西表島行きの計画を立てる上で、絶対に鳩間島で鳩間節を歌おうと決めていた。

西表島のダイビングショップ、「ダイブワンロード」の麻衣子さんに案内してもらい鳩間島を訪れる。
港から点々とする民家を抜けて高台の灯台を目指す。
胸が高鳴るとはこういう事だ。
灯台につながる坂道の始まりに「鳩間中森」と記された石碑が目に飛び込む。
坂道をふんわり隠すように広がる木々たちの間からはキラキラと真夏の太陽が見え隠れしていた。こんなに分かりやすい「鳩間中森」を目にして、ここに来るのは2回目だと気づく。三線を始める前、新婚旅行で鳩間島を訪れ、この鳩間中森の石碑を通って灯台に来ていたではないか。
当時はキレイな場所ね、と薄い感想しか言えなかったが、鳩間節の魅力を知っている今の私は、興奮を隠すことなく幸福感でいっぱいだった。
私は背負っている三線ケースに手を当て、生い茂るクバを通って鳩間中森を駆け上がる。
やがて、空が開けると同時に柔らかな湿気をまとった南風が待っていた。
つづく。

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