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三線の息吹き

2019年10月、三線を持った沖縄の旅には、三線を新調するというと大きな目的があった。
いま、私が使っている三線は沖縄県南風原町にある、「みなみ三線店」の枝川(えがわ)さんが作ってくださった。
その日、三線の師匠である山内昌也先生に連れられて、首里城火災で落ち着かぬ那覇の街を縫うように、車は「みなみ三線店」に向かっていた。

三線の職人と聞いて、白髪頭のおじいちゃんを想像していたが、お会いした枝川さんは若々しい男性だった。原木から作るフルオーダーは出来上がるまで約3年、すでに完成している三線の棹に好みのパーツを選ぶセミオーダーで約半年待ちだった。
3年という年月にめまいを覚え、セミオーダーで作ることにした。

工房の壁には原木の原型がありながらも、なんとか三線の形が分かる様な棹や、白い鉛筆で棹の設計図が描かれている真っ黒な長細い木が並んでいた。
どの木も首を長くして枝川さんを待っているように見える。

枝川さんによると黒檀が今まで以上に高価な素材になってきている。だから、三線業界では黒檀に代わる三線向きの木材を試行錯誤しながら探す取り組みを行っているのだそうだ。
伝統工芸でありながら時代に対応した変化も必要となっている。生き残るためには伝統と進化に折り合いをつける必要があるということを知った。
現状を保守するだけでは伝統工芸は衰退してしまうのだ。

練習している曲や音の好みのを伝え、ピッカピカに完成された三線の棹が目の前に5本並んだ。
全身が真っ黒な棹、一部だけ赤みがかった木目の模様が目立つ棹、美しい木目が独特の曲線を描いている棹。
覗くと顔が写り込むくらいにツヤがある。
ヘッドの曲線は水が流れる音が聞こえそうなくらい柔らかく、しなやかで、まっすぐに貫いたネックは、すくすく育った黒檀の豊な森林を想像させた。

三線は棹だけなので、実際の音を聞くことができない。色の好みや触った時の感覚で選ぶ。

5本の棹の中で、握った感覚が程よく手のひらに収まる棹があった。音も聞いていないのにも関わらず、凛とした三線の音が手のひらに伝わった気がして、他の棹には感じなかった親近感を覚えた。

「これかもしれない」

直感だ。

全体的に黒々しているがヘッドの先と本体に当たる部分に赤茶の模様が見え隠れする棹だった。
この棹で作った三線が欲しいっというよりも、この三線と一緒に成長したいと強く感じたことが決め手となり購入を決めた。
ティーガと呼ばれる本体のまわりに帯のように固定する胴巻きは、桃色のグラデーションが美しい南風原花織(はえばるはなおり)を使用したオリジナルで、枝川さんの奥様の手作りだ。
調弦をするためのカラクイは枝川さんのおすすめもあり、オレンジ色の石があしらわれているものにした。
パーツが決まるたびに聞こえてくる音色がどんどん様変わりし、複雑に耳に響くようだった。

その年のクリスマスイブに新しい三線は届いた。
粋な演出は枝川さんの計算かどうかは分からないが、嬉しさ倍増。
三線は宝石と見間違うほどの光沢を放ち、触ることを一瞬ためらうくらいだった。枝川さんの工房で見た棹とは思えない重厚感があって、この世に、この三線があるとこが尊かった。
ヘッドの後ろを手で触って行くと、完璧な曲線の中に枝川さんが手掛けた跡を感じる凹凸がある。集中して触らないと分からない程。私はこの部分の感触が好きだ。微妙な感触が三線の息吹きに思えて仕方ない。
三線の息吹きと共に、私の歌三線の毎日がある。

枝川さん、今日も三線の音は美しく空に響きました。素晴らしい三線を作ってくださってありがとうございます。

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