見出し画像

【読んだ】菊と刀

おすすめ度 ★★★★☆

齋藤孝さんの「読書力」の推薦図書100選からの一冊。
忘れられた日本人」と同様、読むのにやっぱり頭を使う。でも読み応えがあった。

第二次大戦中にアメリカがしていた日本研究を元に執筆された、いわゆる日本人論。
「菊と刀」というタイトルは菊のように柔らかく美しい面と、刀のように厳しく頑なな面のある(外国人にとっては)複雑で理解し難い日本人の特徴を表している。
「忘れられた日本人」が庶民の生活を描くことで表した日本人とはまた違っていて面白い。

戦中戦後の日本人の様子や、遡って明治維新までの日本の歴史、また日本人特有の「義理」「世間」「恩」という考え方について、色々分析しているのだが、「ふむ、なるほど」と思えるところもあれば「いや、そら違うやろ」と突っ込みたくなるところもある。

刀狩りや武家諸法度が日本人の精神性にどう影響してるか、なんて考えたこともなかった。ハチ公の話が異様な義理堅さの象徴として書かれてたりね。
面々と続く歴史の中から「日本人像」を見出そうとするとそんな考え方になるのね、ふーん。くらいの気持ちで見るのがちょうどいいと思う。


特に面白かったのは第12章の「子供は学ぶ」。
幼少期からの育て方をアメリカと比較して分析しているのだが、子育て当事者としては1番身近で興味深く読める。

そもそも当時の日本の子育てが、今と違いすぎて驚く。生後3、4ヶ月からオムツを外すとか、離乳食がないとか。
祖父母世代あたりまではこうだったのかと思うと、そりゃギャップあるはずだわ。

分析には、「米国と日本では自由とわがままが許される時期が真逆だ」というものがある。

日本の生活曲線は、アメリカの生活曲線のちょうど逆になっている。
それは大きな底の浅いU字型曲線であって、赤ん坊と老人のときに最大の自由と我儘が許されている。幼児期をすぎるとともに徐々に拘束が増してゆき、ちょうど結婚前後の時期に、自分のしたい放題のことをなしうる自由は最低線に達する。(中略)
六十歳をすぎると、人は幼児と殆ど同じように、恥や外聞に煩わされないようになる。

アメリカではこれが全く逆で、幼児には厳しいしつけがされるが、徐々に拘束が緩められて自活する年頃にはほとんど他人の制約を受けなくなる。また、年を取って元気が衰えるとともに、再び拘束されることが増えるのだそうだ。

「アメリカ人には日本のような型に従って組織された生活は、想像してみることさえ困難である。」と著者は述べているが、同じ言葉をそのままそっくり返したい。文化の違いって本当に不思議。

この生活曲線の違いという観点から、アメリカの成功者がアメリカンドリームとポジティブに受け入れられていることと、日本の「成金」「成り上がり」のようなネガティブな捉え方の違いが分析されていたりする。

日本もアメリカも考え方が変わってるから、全然当てはまらない所もあるけど、罰の与え方や「世間」の教えかたなんかは、今に通じるところもある。

「そんなことするのはうちの子じゃない」「他の子はみんなやってるよ」みたいなことは、自分が子どものときに言われたことがあるし、私も言いそうになることがある。
それが大きくなったときの「義理」「世間」「恩」に繋がっていく言われると合点がいく。

日本人論、と主語を大きくしているから、突っ込みどころは多い。今同じことをtwitterにあげようもんなら炎上必至やな、なんて思う。
ただ、外から見た視点というのは新鮮で、興味深い。
考えたこともなかったけど、たしかにそうかも、繋がってるかも、と思えるところも多々ある。
情報が限られていた時代に、ここまで調べて分析したことも素直にすごいことだと思う。

今は世界中の情報が簡単に手に入るから、海外の一部を見て日本と比較して安易な主張が作り出されやすい。
「北欧ではこんな教育をしているのに日本は…」「アメリカでは常識なのに未だに日本では…」みたいな。

「菊と刀」を読んだ後に思い出すと、どれも特定の方向から特定の点だけをみて主張しているように思える。
ここまで深い洞察はできないけど、安易な主張を見たときは、ちょっと立ち止まって考えていこうと思う。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?