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[ 私の音、響け! ]

↑↑コチラの裏のお題【信者ブラスバンド】に参加しようと
思ったのですが、文字数が3倍なったので、いつものように、
ノーエントリーで、お楽しみください。

因みに、このお話だけでも読めますが、コチラから読むと、繋がりがいいです。


画像:Bing Image Creator


[ 私の音、響け! ]

 綾はドキドキしていた。

(できる、できる、自分を信じて)

 彼女は吹奏楽部。
 文化祭のステージ上。高校最後の演奏中だ。
 ドキドキは、それだけではなかった。

(みんなの協力で、曲が急遽変わった。上手くいくかなぁ)

 曲が変わり緊張もあった。
 しかし、ドキドキは、それだけではなかった。

(上手くいかなくてもいい、想いが伝われば、それでいい)

 そう、綾には伝えたい想いがあった。

(協力してくれたみんなのためにも、私は、想いを伝えきる)

 フルートを持つ手に力をこめる。

「それでは、最後の曲です。本当は別の曲を用意していたのですが、どこかのバカが昨日告白しまして……」

 と、吹奏楽部長が言うと、生徒で埋め尽くされた講堂内から笑いやら、ざわめきが起きる。
 昨日、演劇部の男子生徒が演劇中に告白をした。

「そして、今日の演奏で答えを聞かせろ、なんて言うもんだから、急遽、我々吹奏楽部は、告白を演出することにしました」

 生徒たちの声援が聞こえて、フルートを持つ綾の手が震える。

「それでは、最後の曲、季節感は、まぁ、想像力で聴いてください。YOASOBIの『あの夢になぞって』」

 曲名が発表されただけで、講堂内は生徒たちの大歓声で弾け飛んだ。

「シーーーーーー、」

 と、その大歓声を諭すように、指揮者が会場へ向いて沈静化をはかる。
 
 ざわざわしながら会場が静まると、指揮者はブラスバンドに向き直り、タクトでひとりのメンバーを指した。

(来た、いくよ、響け、私の音!)

 綾はそっと、フルートを奏でた。
 彼女のなでるような演奏が、沈静化された会場を舞う。

 静かなメロディーラインが続く。
 その中で、歌詞を知っている人は気づく。
 今、まさに奏でられるこのフレーズ、

 タララ、ラーララ♪

 の後に続く歌詞は、

 スキダヨ♪

 綾の演奏が終わり、間髪入れずに、全楽器が同時に音を出し、会場は一気に大音量に包まれた。

♪🎵〜♪〜🎵🎵〜♪
 
 やがて、曲が終わりに近づき、最後の歌詞の一節に迫る。
 曲は大サビに向かって、アップテンポでボルテージが徐々に舞い上がる。

 やがて、イントロと同じメロディに入る。

 今度はフルートのソロではない。
 複数の楽器の音が重なりあって響いている。

 そして、あのフレーズが訪れる、
 会場の生徒たちが固唾を飲んで待っているあのセリフ、

 タララ、ラーララ♪

 続く歌詞は……………。

 楽器の音が、一斉に止まる。
 
 ─────
 ─────

 会場が、それまでの楽器の重なりが余韻を残し、シーンと静まり返る。

 ゴクリと喉を鳴らす生徒たち。

”バサッ”

 静寂の中、綾はひとり立ち上がった。
 フルートは、両手でしっかりと掴んでいる。

 綾は目をつむり、顔をあげ、お腹を大きく膨らませて空気を吸い込む。

 体に溜め込んだ空気を、めい一杯、声に託す。

(響け、私の音!)

 そして、大声で叫んだ!

「好きだよ!!!!!」

 会場に響いた、綾の音。
 吹奏楽部の肺活量、なめんな。
 
 一瞬の静寂の後、指揮者のタクトが振られ、全楽器による続きのメロディーが演奏された。
 会場は最高のボルテージに達した。

 綾は、ドサッ、と、椅子に座り込んだ。

 とてもドキドキしていた。
 フルートを握る手に、力が入っていた。
 肩で息をしていた。
 ほっぺたが熱かった。
 
 だけど………、
 すっごい高揚感に包まれていた。

 やがて、曲は終わり、吹奏楽部のメンバーたちは、それぞれ綾に向けて称賛を送った。

 綾は夢心地で、現実感がなかった。
 ただただ、自分の想いが伝わってることを信じるだけだった。


おしまい。


↓↓元になった吹奏楽アレンジはコチラ↓↓

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