マルトリートメント(maltreatment)の理解は依存症疾患からの学びが多い!
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マルトリートメント(maltreatment)の理解は依存症疾患からの学びが多い!

西脇健三郎(ニーケン)

厚生労働省は、大人の子どもに対する身体的、心理的、性的虐待、そしてネグレクトを包括して、マルトリートメント(maltreatment)といった用語を用いている。直訳すると「mal」とは悪い、「treatment」は扱い。この「悪い扱い」は、与えている側もだが、受けている側も気付かないまま時が過ぎていることが多い。また、環境とか時代によっては、それを「躾け」あるいは「孝行者」といった好ましい評価がなされることもあり、実はその判断、判定は中々難しいものだ、と私は思っている。依存症疾患との付き合いを続けている中で、依存症当事者とその妻、子どもとの関係から、その家族が機能不全状態にあることに気付かされる。しかし、それを私が依存症当事者、ないしは妻、あるいは子どもたちに伝えても理解を得ることは困難である。例えば加害者の依存症当事者(父)も幼いころ「悪い扱い」を彼の父から受けてきたがそれを当然のこととして受け入れてきた。また、母の祖父が昔堅気の頑固者、酒を飲んでは両親を叱責し、父と母の影が薄い家庭であった。そのため、幼少期は祖父の顔色をうかがい、祖父の晩年には彼の介護に携わった。その二人が結婚、子ども(息子)が生まれた。父(依存症当事者)はその子が成長するにつれて、彼が父(息子にとっては祖父)から受けたのと同じことを息子にした。妻はそれを止めようとはしなかった、いやできなかった。見かねた近隣住民の通報で警察と児童相談所が介入、子どもは一時保護になった。最近、よく聞く地域の出来事だ。それは確かにマルトリートメント(maltreatment)として取り扱われるべき事案である。だが、これといった打開の術はなく児童虐待、アルコール使用障害、機能不全家庭、アダルトチルドレン(AC)、共依存、さらに最近では、ヤングケアラー等々と他にも色んな舶来の技法と用語が飛び交い、最後に相談機能の充実を!とメディアを通してその相談機関の電話番号が告知され、そこで取りあえず一見落着だ。ここで興味深い新聞記事を紹介しよう。ほぼ一面をとってヤングケアラーについて詳しく報じている。そこに次のような件が

「・・・今年2月、ケイコは会社を辞め、精神科を受診した。「愛着障害」と「注意欠陥多動性障害(ADHD)」と診断された。夏、ヤングケアラーの支援団体につながった。似た境遇の人が大勢いることを知った。父は会社員だった若い頃から虚言や暴力が絶えなかった。・・・」

【西日本新聞2021年11月26日付】

「注意欠陥多動性障害(ADHD)」は「生まれつきの脳の特性」だとされている。「愛着障害」は「幼少時の愛着形成期に問題を抱えた結果の障害」。そして、父の虚言、暴力下で育った経緯は、ACと言っていいだろう。この記事でもどれが正しいのかよく分からない用語や文章が次々と登場している。別に診断を下した精神科医、また、この記事を書いた新聞記者を責めるつもりは全くない。ただ、私みたいに諸々の依存症疾患を診てきた者にとっては、発達障害との併存も気分障害の重複障害と同様に多いといった感触を持っている。そして加えて、依存症疾患の背景にあるAC問題と発達障害との判別を重視すべし、といった認識も必要だと思う。しかしこの20年余り、統合失調症の治療を意識した精神科救急、地域移行を軸とした精神科医療制度に多くのエネルギーを費やしてきた精神科医にとっては、こうした諸々の依存症疾患、気分障害圏、発達障害等々の精神科疾病構造の変化への対応が疎かになってなかったか、と余計な心配をしてしまう。

ここでヨッさんのことを話しておこう。彼は九州北部の生まれだ。子どものころはいじめられっ子だった。高校を中退・・・その後も定職にはつかずブラブラしている時期に覚せい剤を入手。それからは覚せい剤所持で刑務所に複数回の収監、あるいは薬物(覚せい剤)依存で非自発的入院を繰り返してきた。また、彼の多動、落ち着きのなさから発達障害と診断され、その状態に有効とされる多くの薬物を処方されてきた。そんなヨッさんが西脇病院に入院したのは、長崎の回復施設に入所していたが不眠と仲間と馴染めず、薬剤調整を目的としたものであった。これといった精神症状もみられず、本人から入院の同意も取り付けての入院だった。2ヶ月ほど入院してくれていたが、やはり実家に戻りたいと強く希望するので一旦退院させた。だが、1ヶ月ほどで再入院してきた。その再入院時、多動と落ち着きのなさは周期的であること、そして父はギャンブルとアルコール問題を抱えていると母が語ってくれた。となると、発達障害ではない。急速交代型(rapid cycler)の双極性感情障害と診断。そこで早速、双極性感情障害に対して使用が認可されたばかりの月1回の筋注のみで済む持続性抗精神病注射薬剤(ariPiPrazole)を使用してみた。その後、約2年が経過した。行動、情動面共に安定、穏やかに回復施設で入所生活を送っている。

後ほども紹介するが、厚生労働省は2017年になって、やっと『第7次医療計画における精神疾患の医療体制』の中で「多様な精神疾患等に対応できる医療連携体制の構築」を打ち出した。だが、中身は今からだ。気分障害圏、諸々の依存症疾患に加えて、注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害等が混在した精神疾患が今日の社会の中で様々な影響を及ぼしているのは確実だ。そのための「ヒト」、「コト」、「モノ」の整備は急務を要する。

【AC(アダルト・チルドレン)アルコール依存症やその他の問題により健康で柔軟な機能が損なわれた家庭(機能不全家庭)に育ち、大人になった人。問題状況に適応して身につけた行動パターンや役割のため、生きづらさを感じることも多い。(季刊誌Be!-Be!用語集-より ASK〈アルコール薬物問題全国市民協会〉)】


注:最近話題の「代理ミュンハウゼン症候群」。これもマルトリートメント、そして共依存かな。

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西脇健三郎(ニーケン)
精神科医/食べ歩き、読書、映画鑑賞/好き本:ちょっとピンぼけ(ロバート・キャパ)、黄昏流星群/最悪を覚悟して最善を尽くす/2009年~2014年までブログやっていましたが、古希を過ぎてまた始めます。