Tarashima Satoshi

歴史的な資料のデジタル化とその活用に長く取り組んでいます。 元 東京国立博物館 博物館…

Tarashima Satoshi

歴史的な資料のデジタル化とその活用に長く取り組んでいます。 元 東京国立博物館 博物館情報課長。現在、東京国立博物館 特任研究員。 研究については https://researchmap.jp/satoshi_tarashima

マガジン

  • 持続可能なミュージアムのDXとは

    ミュージアムの世界でもDX(デジタルトランスフォーメーション)ということばを耳にするようになってきました。ただ、使われ方を見ていると、ミュージアムと社会との接点、たとえば展示をデジタル技術で置き換えることをDXとしているような例も見られます。一般のビジネス分野でも同様ですが、DXと言った場合、内部の業務を含む仕事の枠組み全体の変革を示していて、この点が実現できないとデジタル化自体が単なる仕事量の増大であったり、小手先の対応であったり、という結果になりかねません。なかなかイメージしづらいところですが、著者のこれまでの経験をもとに、「長く続けられるミュージアム業務のデジタル化」とはどんなものか、紹介してゆきます。 画像:住吉物語絵巻(東京国立博物館) 出典:ColBase https://colbase.nich.go.jp/collection_items/tnm/A-17

  • 持続可能なデジタル・ミュージアムとは

    2020年春、新型感染症の蔓延で、日本と世界のミュージアムは、ほとんど人が訪れることができなくなりました。ミュージアムに関わる人々の間では困惑が広がり、その対応に苦慮しています。しかし、このような緊急事態が起こる前から、「多くの人が来ることで成り立つミュージアム」という枠組みは、その限界が見えていました。今後、発想の転換と運営に投じる資源の再配分が必要です。方向の一つが情報通信技術を活用したデジタル・ミュージアムですが、どのような考え方で臨むべきか、どのような方法ならば、長期的に続けてゆくことができるのか、前例の少ないことだけに、踏み出しづらく感じておられる方は多いでしょう。このマガジンでは、筆者がミュージアムで経験したデジタル情報活用のさまざまな取り組みを事例にひきながら、デジタル・ミュージアムの理念と実践的な方法についての手がかりがお示しできればと思います。

  • 遠隔学習に!自由に使えるColBaseのリソース

    ColBaseは4つの国立博物館(東京・京都・奈良・九州)の所蔵する文化財の情報を検索できるサイトです。画像を掲載しているものだけで約15000件あり、目当ての作品、資料を検索して探すのはなかなか大変なので、少しガイドになるようなマガジンとして作ってみました。さしあたり、学校で使う素材となりそうなものを取り上げています。掲載された文章や画像は、無償で自由に利用することができ、そのために特別な手続きは必要ありません。さまざまな目的に使っていただければ、幸いです。はじめに「利用の手引き」の記事をご一読ください。

最近の記事

持続可能なミュージアムのDXとは(第9回):デジタル画像にはアナログなメタデータを

画像の管理の話をもう少し続けます。 前回の記事で、画像のファイル名にはあまり意味を持たせるべきではない、ということを指摘しました。機械可読、つまりコンピュータが処理しやすい形式にしておくほうが何かと便利だ、ということです。その一方で、画像は人間が見て、さまざまな判断を下すものですから、データの中に人間にわかりやすい情報を加えておくことが望ましいのも、また事実です。 現在のデジタルカメラは、撮影した画像データの中にさまざまなメタデータをExif(Exchangeable i

    • 持続可能なミュージアムのDXとは(第8回):画像ファイルの名前

      前回の記事を書いたあと、どちらに話を広げようかなと思案していたら、だいぶ間が空いてしまいました。今回はミュージアム資料のデジタル画像を作る際に出会う、一見些細な課題をとりあげてみます。 歴史の長いミュージアムであれば、過去に撮影、焼き付けしたフィルムや印画を大量にお持ちでしょう。ミュージアムにとっては貴重な情報資源です。しかし現在では、いわゆる「銀塩写真」の処理が可能な技術的環境はきわめて限られており、デジタル化しないままのフィルムや印画の利用はとても困難です。また、業務環

      • 持続可能なミュージアムのDXとは(第7回):貸出のDXことはじめ

        大昔の話ですが、東京国立博物館の所蔵品を他の館が展覧会のために借用しようとする際には、はじめに各分野の担当者に交渉する、というしくみになっていました。つまり、借用希望の物件が絵画、書跡、漆工、考古資料と4分野にわたっていると、4つの担当部門(当時の「室」)と話をつけないといけない、ということで、それができて初めて事務手続きが始まっていたのだそうです。借りる側の学芸員だった方が、とても大変だったと述懐されるのを聞いたことがあります。2001年に独立行政法人化して以降、さすがにそ

        • 持続可能なミュージアムのDXとは(第6回):所蔵品DBと展示企画の共有

          「もの」の管理と公開が仕事であるミュージアムにとって、「もの」に関する情報のかたまりである所蔵品DBは、中核をなす道具と言えます。少し先回りして結論を出してしまうならば、ミュージアムのDXの第一歩とは「館内の組織的な内部業務に所蔵品DBを利用しながら、DBが長期的に維持される状態を実現する」ことです。どんなに個別の仕事のデジタル化が進んだとしても、個別の仕事で発生したデジタル情報が即時に活かされれず、DBは何年か後に大きな手間をかけて書き換える、というのでは話になりません。業

        持続可能なミュージアムのDXとは(第9回):デジタル画像にはアナログなメタデータを

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        • 持続可能なミュージアムのDXとは
          9本
        • 持続可能なデジタル・ミュージアムとは
          12本
        • 遠隔学習に!自由に使えるColBaseのリソース
          20本

        記事

          持続可能なミュージアムのDXとは(第5回):中の人が使えば所蔵品DBが育つ

          出版物の目録やパソコンで管理しているExcelのデータを使えば、外部に公開できる所蔵品DBをそれなりの形で作ることができます。ともすれば、これでミュージアムの外向けのサービスはできた、と考えがちです。しかしこのような作り方は、たとえてみると切り花を花瓶に生けたようなもので、よほど気をつかって維持管理していないと、データは遅かれ早かれ古びてしまいます。 ミュージアムの所蔵品のデータはそんなに変化するものではないのでは、と思われる方もおられるでしょう。実はそうでもありません。ま

          持続可能なミュージアムのDXとは(第5回):中の人が使えば所蔵品DBが育つ

          持続可能なミュージアムのDXとは(第4回):誰が所蔵品DBを使うのか

          ウェブで検索可能なミュージアムの所蔵品DBについては、ここ1年ほどの間に、もう一つ大きな動きがありました。文化庁が2018年度から継続している「文化庁アートプラットフォーム事業」の一環として、日本の美術館が所蔵する近現代美術作品の情報をデータベース化した「全国美術館収蔵品サーチ「SHŪZŌ」」が公開されたことです。SHŪZŌは「収蔵」ですが、ちょっと人の名前っぽいというので愛称とされたそうです。2021年3月現在で、85館、作家数1,243名、69,889件の作品情報が収納さ

          持続可能なミュージアムのDXとは(第4回):誰が所蔵品DBを使うのか

          持続可能なミュージアムのDXとは(第3回):実は充実してきたミュージアムの所蔵品DB

          あまり誰も言わないのですが、ミュージアムの所蔵品検索機能は、ずいぶん充実してきました。5年ほど前から、都道府県立の美術館・博物館のウェブサイトで所蔵品検索ができるかどうかのチェックを続けています。もちろん都道府県立だけがミュージアムではありませんが、大まかな動向はうかがえるだろう、というつもりです。だいたいミュージアム情報関係の講演とか大学の講義がある機会に、準備を兼ねて各ミュージアムのサイトを確かめています。 今回はnoteの記事を書こうということで、ひとわたり見直してみ

          持続可能なミュージアムのDXとは(第3回):実は充実してきたミュージアムの所蔵品DB

          持続可能なミュージアムのDXとは(第2回):資料名称の特質

          まずは、ミュージアム資料情報の特徴を、要素ごとに少しずつ見てゆきましょう。 ネット上の一部では大変人気の高い、福井県立図書館の「覚え違いタイトル集」が、近々単行本化されるそうで、以前からファンである私も【朗報】と喜んでいます。うろ覚えのタイトル、著者名から、原著作を探り当てる図書館司書の能力に驚嘆し、検索結果との落差に大笑いする名コンテンツですが、この探索が可能なのは、行き着くところに汎用的な書誌情報がデータベースとして確立されているからです。また書籍の場合、著者名とタイト

          持続可能なミュージアムのDXとは(第2回):資料名称の特質

          持続可能なミュージアムのDXとは(第1回):前口上

          昨年前半、第1回目の緊急事態宣言の期間中に「持続可能なデジタルミュージアムとは」という記事をnoteに連載し、その後、artscapeに「行かない/行けない人のためのデジタルミュージアムと、それを支えるデジタルアーカイブ」という、まとめの意味を持った記事を載せていただきました。多くの方の目にとまり、それがきっかけとなってお話や寄稿をさせていただく機会もありました。関心をお持ちの方が多くおられて、心強く思いました。 それから1年あまり、感染症の蔓延は多少改善の傾向が見られると

          持続可能なミュージアムのDXとは(第1回):前口上

          持続可能なデジタル・ミュージアムとは(第12回):ジャパンサーチ正式版公開

          緊急事態宣言下で「持続可能なデジタル・ミュージアムとは」を書き続けていたら、artscapeの影山幸一さんのお目にとまり、7月1日号に「行かない/行けない人のためのデジタルミュージアムと、それを支えるデジタルアーカイブ」という、それまでのまとめのような記事を寄稿させていただきました。コロナ禍で、展覧会などのリアルな活動を中心にしていたミュージアムの動きが停滞するのに連動して、いわばその「コピー」であったウェブサイトが機能を失っていったことから、「ミュージアムに行けない人」を意

          持続可能なデジタル・ミュージアムとは(第12回):ジャパンサーチ正式版公開

          持続可能なデジタル・ミュージアムとは(第11回):ゲームとしてのVR展示とゆるい対話

          前回までに、展示室の3Dウォークスルー化という方向を詰めてゆくと、いわば「VR展示室」といった空間が作れるだろう、というお話をしてきました。「展示空間」と「展示物」を、それぞれ別のデジタルデータとして組み合わせれば、実空間にとらわれない「展示」が可能になる、ということです。 とは言え、展示空間ができて、デジタル情報である作品が並んだとしても、それだけではおもしろくありません。一方で、デジタル・ミュージアムという看板を掲げていると、コトの情報提供についても、ついつい何か先進的

          持続可能なデジタル・ミュージアムとは(第11回):ゲームとしてのVR展示とゆるい対話

          持続可能なデジタル・ミュージアムとは(第10回):空の展示室データの使いみち

          今日は2020年5月25日(月)。特措法による緊急事態宣言が全都道府県で解除され、止まっていた社会がそろそろと動きを取り戻し始めています。多くのミュージアムもさまざまな条件を付けながら展示を再開、また再開に向けて取り組んでいるようです。 しかし、感染症再発のリスクを考えると、ミュージアムに多くの人を積極的に招けない状況は、長く続くでしょう。また、今回の感染症流行で、欧米諸国は日本より深傷を負っていますから、外国から素材を持ち込んでの展覧会はしばらく困難ですし、国内に限ったと

          持続可能なデジタル・ミュージアムとは(第10回):空の展示室データの使いみち

          持続可能なデジタル・ミュージアムとは(第9回):3Dウォークスルーをどう使うか

          コロナ禍中のミュージアムの対応を継続的にとりあげてくださっている『美術手帖』のサイトに「休館で脚光浴びる展覧会のVR」と題して、国立科学博物館や岡本太郎美術館の展示室内をディスプレイ上で歩き回れる3Dウォークスルーの公開の記事が掲載されています。いずれも一般社団法人VR革新機構が仲立ちしておられるようで、不動産の内見に多用されるMatterportのシステムが応用されています。東京国立近代美術館の「ピーター・ドイグ展」も展示室のウォークスルーが公開されましたが、こちらもMat

          持続可能なデジタル・ミュージアムとは(第9回):3Dウォークスルーをどう使うか

          持続可能なデジタル・ミュージアムとは(第8回):ミュージアムに来られない人

          最初に申し上げたとおり、デジタル・ミュージアムという概念を考え始めたのはずいぶん以前のことで、もちろん、将来疫病が蔓延して、ミュージアムが開けなくなるだろう、などと想像していたわけではありません。しかし、ミュージアムを訪れられない人が、世の中にはけっこういるよね、ということは考えました。 1995年に阪神・淡路大震災が起こった際に、被災した文化財を救い出す「文化財レスキュー」を初めて試みました。その反省をする集まりの中で「文化財の保全という立場から見ると、現代の社会は緩慢に

          持続可能なデジタル・ミュージアムとは(第8回):ミュージアムに来られない人

          持続可能なデジタル・ミュージアムとは(第7回):ごく簡単なまとめ

          きょうは、2020年5月14日。多くの府県で特措法に基づく緊急事態宣言が解除されると報道されています。展示を再開するミュージアムも出てきたようです。いろいろと困難は多いことが予想されますが、まずはご同慶のいたりです。 ただ、今回の事態でよく見えるようになったのは、人が来ることに依存しているミュージアムの運営が今後いかに危ういか、だろうと思います。学校で習ったことばを使うならば、展覧会モノカルチャーとでも言えましょうか。必ずしも財政的な依存度の大きさを申し上げているわけではあ

          持続可能なデジタル・ミュージアムとは(第7回):ごく簡単なまとめ

          持続可能なデジタル・ミュージアムとは(第6回):耳観覧−NHK WORLD "Magic of Japanese Masterpieces"

          前回、音声ガイドのことを投稿したところ、noteが拾ってくる「こちらもおすすめ」で、アコースティガイド・ジャパンの代表の方へのインタビューを担当した山内宏泰さんの記事があることを知りました。全文は「文春オンライン」掲載だそうですが、音声ガイドのさまざまな側面に目配りのきいたよい記事です。ぜひご一読を。 さて、ミュージアムを音声で伝える話のつづきです。 NHK国際放送の方から、東博所蔵品を紹介する多言語のラジオ番組を作ってみたい、というお話があったのは2014年の後半だった

          持続可能なデジタル・ミュージアムとは(第6回):耳観覧−NHK WORLD "Magic of Japanese Masterpieces"