マガジンのカバー画像

持続可能なミュージアムのDXとは

9
ミュージアムの世界でもDX(デジタルトランスフォーメーション)ということばを耳にするようになってきました。ただ、使われ方を見ていると、ミュージアムと社会との接点、たとえば展示をデ… もっと読む
運営しているクリエイター

記事一覧

持続可能なミュージアムのDXとは(第9回):デジタル画像にはアナログなメタデータを

画像の管理の話をもう少し続けます。 前回の記事で、画像のファイル名にはあまり意味を持たせるべきではない、ということを指摘しました。機械可読、つまりコンピュータが処理しやすい形式にしておくほうが何かと便利だ、ということです。その一方で、画像は人間が見て、さまざまな判断を下すものですから、データの中に人間にわかりやすい情報を加えておくことが望ましいのも、また事実です。 現在のデジタルカメラは、撮影した画像データの中にさまざまなメタデータをExif(Exchangeable i

持続可能なミュージアムのDXとは(第8回):画像ファイルの名前

前回の記事を書いたあと、どちらに話を広げようかなと思案していたら、だいぶ間が空いてしまいました。今回はミュージアム資料のデジタル画像を作る際に出会う、一見些細な課題をとりあげてみます。 歴史の長いミュージアムであれば、過去に撮影、焼き付けしたフィルムや印画を大量にお持ちでしょう。ミュージアムにとっては貴重な情報資源です。しかし現在では、いわゆる「銀塩写真」の処理が可能な技術的環境はきわめて限られており、デジタル化しないままのフィルムや印画の利用はとても困難です。また、業務環

持続可能なミュージアムのDXとは(第7回):貸出のDXことはじめ

大昔の話ですが、東京国立博物館の所蔵品を他の館が展覧会のために借用しようとする際には、はじめに各分野の担当者に交渉する、というしくみになっていました。つまり、借用希望の物件が絵画、書跡、漆工、考古資料と4分野にわたっていると、4つの担当部門(当時の「室」)と話をつけないといけない、ということで、それができて初めて事務手続きが始まっていたのだそうです。借りる側の学芸員だった方が、とても大変だったと述懐されるのを聞いたことがあります。2001年に独立行政法人化して以降、さすがにそ

持続可能なミュージアムのDXとは(第6回):所蔵品DBと展示企画の共有

「もの」の管理と公開が仕事であるミュージアムにとって、「もの」に関する情報のかたまりである所蔵品DBは、中核をなす道具と言えます。少し先回りして結論を出してしまうならば、ミュージアムのDXの第一歩とは「館内の組織的な内部業務に所蔵品DBを利用しながら、DBが長期的に維持される状態を実現する」ことです。どんなに個別の仕事のデジタル化が進んだとしても、個別の仕事で発生したデジタル情報が即時に活かされれず、DBは何年か後に大きな手間をかけて書き換える、というのでは話になりません。業

持続可能なミュージアムのDXとは(第5回):中の人が使えば所蔵品DBが育つ

出版物の目録やパソコンで管理しているExcelのデータを使えば、外部に公開できる所蔵品DBをそれなりの形で作ることができます。ともすれば、これでミュージアムの外向けのサービスはできた、と考えがちです。しかしこのような作り方は、たとえてみると切り花を花瓶に生けたようなもので、よほど気をつかって維持管理していないと、データは遅かれ早かれ古びてしまいます。 ミュージアムの所蔵品のデータはそんなに変化するものではないのでは、と思われる方もおられるでしょう。実はそうでもありません。ま

持続可能なミュージアムのDXとは(第4回):誰が所蔵品DBを使うのか

ウェブで検索可能なミュージアムの所蔵品DBについては、ここ1年ほどの間に、もう一つ大きな動きがありました。文化庁が2018年度から継続している「文化庁アートプラットフォーム事業」の一環として、日本の美術館が所蔵する近現代美術作品の情報をデータベース化した「全国美術館収蔵品サーチ「SHŪZŌ」」が公開されたことです。SHŪZŌは「収蔵」ですが、ちょっと人の名前っぽいというので愛称とされたそうです。2021年3月現在で、85館、作家数1,243名、69,889件の作品情報が収納さ

持続可能なミュージアムのDXとは(第3回):実は充実してきたミュージアムの所蔵品DB

あまり誰も言わないのですが、ミュージアムの所蔵品検索機能は、ずいぶん充実してきました。5年ほど前から、都道府県立の美術館・博物館のウェブサイトで所蔵品検索ができるかどうかのチェックを続けています。もちろん都道府県立だけがミュージアムではありませんが、大まかな動向はうかがえるだろう、というつもりです。だいたいミュージアム情報関係の講演とか大学の講義がある機会に、準備を兼ねて各ミュージアムのサイトを確かめています。 今回はnoteの記事を書こうということで、ひとわたり見直してみ

持続可能なミュージアムのDXとは(第2回):資料名称の特質

まずは、ミュージアム資料情報の特徴を、要素ごとに少しずつ見てゆきましょう。 ネット上の一部では大変人気の高い、福井県立図書館の「覚え違いタイトル集」が、近々単行本化されるそうで、以前からファンである私も【朗報】と喜んでいます。うろ覚えのタイトル、著者名から、原著作を探り当てる図書館司書の能力に驚嘆し、検索結果との落差に大笑いする名コンテンツですが、この探索が可能なのは、行き着くところに汎用的な書誌情報がデータベースとして確立されているからです。また書籍の場合、著者名とタイト

持続可能なミュージアムのDXとは(第1回):前口上

昨年前半、第1回目の緊急事態宣言の期間中に「持続可能なデジタルミュージアムとは」という記事をnoteに連載し、その後、artscapeに「行かない/行けない人のためのデジタルミュージアムと、それを支えるデジタルアーカイブ」という、まとめの意味を持った記事を載せていただきました。多くの方の目にとまり、それがきっかけとなってお話や寄稿をさせていただく機会もありました。関心をお持ちの方が多くおられて、心強く思いました。 それから1年あまり、感染症の蔓延は多少改善の傾向が見られると