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持続可能なミュージアムのDXとは(第4回):誰が所蔵品DBを使うのか

ウェブで検索可能なミュージアムの所蔵品DBについては、ここ1年ほどの間に、もう一つ大きな動きがありました。文化庁が2018年度から継続している「文化庁アートプラットフォーム事業」の一環として、日本の美術館が所蔵する近現代美術作品の情報をデータベース化した「全国美術館収蔵品サーチ「SHŪZŌ」」が公開されたことです。SHŪZŌは「収蔵」ですが、ちょっと人の名前っぽいというので愛称とされたそうです。2021年3月現在で、85館、作家数1,243名、69,889件の作品情報が収納されており、2022年度末(2023年3月)までに100,000件以上の登録をめざすとアナウンスされています。

全国美術館収蔵品サーチ「SHŪZŌ」

アートプラットフォーム事業は、日本の現代アートの持続的な発展と、国際的な情報発信の拡大を主旨としており、事業全体は国立新美術館が文化庁から委託を受けて、5か年(2018-2022年度)の期限付き事業として実施されています。SHŪZŌはそのうちの「(4)収蔵情報の可視化に関する取組」の事業として構想、展開されています。経緯はこちらの概要をごらんください。企画と実装にはミュージアム資料の情報化に先進的に取り組んできたメンバーがあたっており、事業の枠組みとして与えられた条件の中で、DB自体の構成や品質はまず申し分のないものだと思います。

SHŪZŌのデータ収集の特徴は、これまで各美術館が刊行してきた紙媒体の所蔵品目録や年報などに記載された情報を、事業者側でデジタル化したことです。比較的短い期間で多数の目録情報を投入できたのは、事業開始以前に全国美術館会議が把握していた各館の目録刊行の状況を利用できたからで、既存の情報を使い回すことで、かなり手数を省けたかと推察されます。
収納件数は日本国内の美術館全体のうちごく一部ですし、画像もまだ入っていないので実用性の向上はこれからですが、実際に検索してみると、これまであの目録、このDBと八方手を尽くしてさがしていたある作家の作品の所在について、一瞬で見通しを得られます。「収蔵情報の可視化」という点では、今後期待できるでしょう。

予期される課題もあります。まず、DB自体を長期的に維持することです。アートプラットフォーム事業自体は5年間の期限付きですから、継続できる運営主体が必要となります。どのような組織がこれを担うのか、ある程度の予測はつきますが、もう少し状況の推移を確かめたいと思います。
「可視化」という面では、画像情報の付与をどのように進めるか、というのも大きな課題でしょう。2018年の著作権法改正で、ミュージアムなどで利用する作品のサムネイル画像のインターネット公開が、著作権の制限規定の一つ(47条)として明記されました。この規定の活用などによって次第に進むものと考えられます。

私がいちばん大きな課題かなと思っているのが、このような公開を、情報提供している各館がどのようにとらえ、どのように利用してくのかということです。既存の刊行物を活用することによって、かなり大規模な横断的DBを構築できたのは画期的なことです。しかし、DBの構築=外部への情報公開手段=刊行物の代わり、という図式ができると、DBの構築は自ら館内で行っている業務とは直接関係しないものだと理解する館が、けっこう出てくるのではないか、という点が懸念されます。自らがDBを構築し、それを業務に使うという枠組みが作れないと、DBの公開は単なる「D」(業務要素のデジタル化)にとどまり、「X」(業務のトランスフォーメーション)にならない可能性がある、ということです。

所蔵品の情報を、まず誰が使い、誰が更新や改善をするのか。この点を明確にしておかないままでの情報の外部公開は、負担感の増大や長期的な情報の質の低下の要因となります。それはミュージアムにとっては好ましいことではありません。念のため申しますが、これはアートプラットフォーム事業が責任を負う話ではなく、各ミュージアムの運営姿勢に左右されることです。もっとも、データがどのように使い回せるのかは、実際に使う局面に当たってみないと、なかなか想像しづらいところはあります。以下、参考となりそうな話題をご提供してゆきたいと思います。

ヘッダ画像:川瀬巴水「東京十二題 戸山の原」(東京国立博物館) 出典:ColBase https://colbase.nich.go.jp/collection_items/tnm/A-9104

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