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持続可能なデジタル・ミュージアムとは(第12回):ジャパンサーチ正式版公開

緊急事態宣言下で「持続可能なデジタル・ミュージアムとは」を書き続けていたら、artscapeの影山幸一さんのお目にとまり、7月1日号に「行かない/行けない人のためのデジタルミュージアムと、それを支えるデジタルアーカイブ」という、それまでのまとめのような記事を寄稿させていただきました。コロナ禍で、展覧会などのリアルな活動を中心にしていたミュージアムの動きが停滞するのに連動して、いわばその「コピー」であったウェブサイトが機能を失っていったことから、「ミュージアムに行けない人」を意識したコレクション情報や過去の活動のデジタルアーカイブとその公開が、社会的な存在としてミュージアムを維持するために不可欠であることを、論じたものです。特に目新しい主張ではないのですが、平時には気づかれなかったことが顕在化したわけで、いささか複雑な思いで書きました。

この記事で、とりあえず言うべきことは言ったかな、というのと、緊急事態宣言が解除されてから、次第に出勤しての仕事も戻ってきたので、ここしばらくは、ミュージアム関連の動きの観察にとどまっていました。それほど長い期間ではないものの、けっこうさまざまな取り組みが公になってきました。

何と言ってもいちばん大きなニュースは、一昨日(8月25日)の「ジャパンサーチ」正式版公開です。昨年2月の試行版の公開からレビューや新たな機関の参加などを経て、ほぼ当初のスケジュールどおりのリリースなのですが、このパンデミックの状況下で、公開と今後の運用の意義はより深まったと言えるでしょう。全国のミュージアムに対しても、大きな試金石になるプロジェクトです。

ジャパンサーチは「分野横断的なデジタルアーカイブの統合検索ポータル」で、多様な分野の資料保存機関が保有するデジタルデータに対して、いわゆる「横串」を刺して検索をするしかけです。資料の内容を記述するメタデータは分野によって異なりますから、効果的に横串を刺すためにはそれなりの工夫が必要で、かつてはデータ提供者側にメタデータの標準化を求めていたのですが、今回、メタデータ調整の負担ができるだけデータ提供者側にかからないようにしたのが、顕著な特徴の一つです。

また、登録されたデータをウェブ上で二次的に利用するための技術情報が公開されている点も重要で、開発者は現在2100万件と公称されているメタデータをかなり自由な形で取得し、再利用することが可能になっています。これを保証するために、データ提供者に対しては、メタデータのテキスト情報と視覚的な資料の場合できるかぎりサムネイル画像を、オープンデータとすることを求めています。

最初「日本版ユーロピアーナ」(Europeana)などと呼ばれた構想が出てきたのは2014年ころかと思いますが、2015年度から内閣府の知的財産戦略本部が元締めとなる「デジタルアーカイブの連携に関する関係省庁等連絡会」と後継の「デジタルアーカイブジャパン推進委員会」が動き出すことで具体化し、私も声をかけられる立場の国立機関の中の人として、実務的に可能な枠組みを議論しました。ちょうど政府全体のオープンデータ政策も広がり、ライセンスの問題もある意味公的な「お墨付き」が得られる見通しができてきたので、国立文化財機構で所蔵品の統合データベースColBaseを開発した際は、国立博物館が最初から乗らなければ、他に乗ってくるところはないだろう、と考えて、統合ポータルにすぐデータを乗せられるように、いくらかの準備を進めておきました。ジャパンサーチ試行版が立ち上がった時に、15000枚くらいのサムネイルとともにデータを登録できましたので、検索結果が多少華やかになったのではないかと思います。

試行版公開後の1年あまりで、反応の鈍かったミュージアム界でも動きが出てきました。国立博物館(国立文化財機構)、国立美術館、国立科学博物館、人間文化研究機構は構想段階から実務者の会合に参加して試行版へのデータ提供を行ったわけですが、これを見て地域や分野別のまとまりで参加してくる事例が出てきています。特に、三重県は県立博物館、美術館、公文書、地域の文化財などの情報を一挙に投入してこられて、今後の地域レベルでの参加形態のテストケースになりそうです。また美術館の協議体である全国美術館会議は、複数の機関のデータを取りまとめる「つなぎ役」として名乗りをあげました。まず東京富士美術館と愛知県美術館というデジタル情報の公開では実績のある2館が加わっていますが、今後小規模館などへの支援が進むとよいなと思います。

一つ課題として以前から出ているのが、ジャパンサーチに参加をうながすための財政的な措置がないことで、データ作りだけであれば、各種の補助金などで手当てが可能かと思われますが、たとえば上述の「つなぎ役」を務めるための経費は、今のところ公的な出処がありません。このあたりは工夫と要望の集約が必要です。

ともあれ、コロナ禍で大きく活動を制約された各地域のミュージアムは、これまでとは異なった手段によってコレクションの情報を社会的に広めなければなりません。このタイミングで公開されたジャパンサーチは、有用な道具立ての一つとして活用できるものと考えています。私自身も枠組み作りに携わった一人として、最新の『国立国会図書館月報』の「座談会 ジャパンサーチの未来の話をしよう」でプロモーション役を務めています。ご一読いただければ幸いです。

ジャパンサーチに関連するいくつかの動きについては、また別の記事でご紹介したいと思います。

(つづく)

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