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虹乃ノラン
2024年5月10日 20:44
第一章動かない猫「いってきまーす!」 スニーカーを履いて玄関から飛び出すと、四月の風が頬をなでる。通いなれた道を歩いて今年で六年目。満開まであと少しの桜と日差しが、気持ちいい。 急にぽかぽかしてきた陽気のせいなのか、ベンチで眠りこけてるお年寄りや、バスが来てるのにぼーっと立ち尽くしているスーツ服のお姉さんなんかで目白押しだ。 大人になると忙しすぎて、みんな疲れちゃうのかな。 そんなこと
2024年5月14日 11:35
第六章スカーフェイスを追って(1) ライオン公園はとにかく広い。園内マップが描かれた大看板の前で、紅葉が振り返る。「手分けした方がいいよね? 通信機もあるし。でも誰がどこに行く?」 黄道区は、海のある北側と南側で緩やかな高低差がある。南側のここ獅子丘町は山に面して緑も多いし、高台は見晴らし最高。起伏を活かした遊具やジョギングコースも運動に最適で、黄道区一大きなライオン公園がここに作られたの
2024年5月15日 21:54
スカーフェイスを追って(2)《乙女町》 乙女町は住宅地で、紅葉とミチルの家もある。ただっ広いライオン公園よりは探しやすい気はするけれど立ち並ぶ建物のせいで死角が多く、見通しは悪い。 なにしろ相手は猫。隠れるのなんてお手のもの。ひょいひょいと塀に登ったり、建物の間や民家の庭先を通り抜けたりされれば、追いかけるのは困難だ。「まだ近くにいるかもしれないから、見落とさないようにね」 マシュマ